新型コロナウイルス感染予防のため、466億円もの予算をかけて全国の約5,000万世帯に対し、再利用可能な布製マスクが2枚配布される。政府はこれに先立ち、マスク不足が深刻な全国の医療機関や介護福祉施設に一定数の布製マスクを届けているが、受け取った事業者からは「小さくて使えない」という声が上がっている。
「全世帯にこれと同じものが配布されるとすれば、明らかに税金の無駄遣い。どうせ配るのなら、ぜひ納得して使えるものを配ってほしい」――先行して配布された布製マスクを受け取った事業者の声だ。
3月中旬、厚生労働省は各都道府県の関係部署に対し、介護福祉施設などに布製マスクを配布することを通知。国が一括して2,000万枚の「大人用サイズ」を購入し、随時郵送してきた。
福岡市内のある福祉事業所には、3月末に25枚、4月初旬には追加で125枚が届いたという。「よかった!入手困難なマスクが国から届いた」――マスクを受け取った事業者(男性)は政府の対応に感謝したが、それは束の間、開封したとたん失望に変わった。
「サイズは小さい、隙間は大きい」。つまり使えない。送られてきたのは、国会で安倍首相が装着し、「小さ過ぎる」とSNSなどで酷評されていた布製マスクだった。大きさは横14センチ、縦10センチ(下の写真参照)。あまりの評判の悪さに、安倍首相のマスクはその後、サイズの大きな不織布マスクに替わっている。
メーカーにより標準サイズは異なるものの、不織布マスクはふつうサイズでは横16センチから17.5センチが主流。配布された布マスクは一般男性が装着すると、やはり小さくみえる。下の写真、上が全国の介護福祉施設に届いた布マスク、下が市販の普通サイズマスクだ。比較すると、布製マスクの小ささがわかる。
届いたマスクについて前出の事業者は、「厚労省から届いた150枚のうち三分の一を小さな子供がいる知人へ譲った。私たちが現場で使用する場合は、布マスクの上に、不織布マスクを重ねて使用している。なぜ政府はこのサイズにしたのか?全世帯に配布するのが、これと同じものなら、笑いの種になりそう」と話す。
別の介護事業者は、肩を落としてこう語る。「施設利用者に政府のマスクを使用するよう勧めましたが、小さくて、ゴムをかける耳が痛く、布製マスクは見向きもされなくなりました。ただ、これだけ(マスクが)品薄だと、ありがたく使うしかないんでしょうね」
“今週から郵送されるという世帯向けのマスクも、介護施設に配られた小さな布製なのか”――改めて厚労省の担当者に聞いたところ、次のような回答だった。「配布先の介護福祉施設などからサイズが小さいという話を聞いているが、今後、世帯へ配布するマスクも同じ大きさのものになる」。残念ながら、この事業に466億円の価値があるとは思えない。