警察本部長らまたも「無答弁」|“ヤジ訴訟”判決後の議会追及に相継ぎ明答回避

訴えを起こした市民らの「半分勝訴」が確定した首相演説ヤジ排除事件をめぐる裁判の最高裁決定後、地元議会では改めて知事や警察本部、公安委員会の責任を問う声が上がり、複数の会派が質問に立った。問いを受けた知事らはしかし、判決前の対応と同様ほとんどの質問へ明答を返さず、被害者への謝罪や関係者の処分、再発防止策の策定などについて具体的な検討が一切なされていない実態が浮き彫りとなった。

◆   ◆   ◆

ヤジ判決についてのやり取りがあったのは、9月25日午後招集の北海道議会本会議。この日、一般質問に臨んだ議員8人のうち3人が北海道警察の問題を採り上げ、うち2人がヤジ国賠の確定判決を俎上に載せることになった。

これまでも何度か質問を試み、そのたびに「係争中なのでお答えを控える」としか答えを得られなかったと指摘したのは、同議会の高橋亨議員(民主、函館市)。今回の最高裁決定が「半分勝訴・半分敗訴という奇妙な判決」となったことを確認した上で、鈴木直道知事と伊藤泰充・道警本部長、及び吉本淳一・道公安委員会委員長に改めてそれぞれの見解などを尋ねた。加えて公安委員長には公安委の独立性について質し、また道警本部長には関係者の処分の有無を明かすよう求めた。

これを受けた3者の回答のうち、最も噛み合わないものとなったのが鈴木知事の答弁。同知事は記者会見などで連発した言い回しをここでも繰り返し「本件は一貫して(自分ではなく)道警察が方針を決定してきた」と強調、主体的なコメントを徹底して回避した。さらに「街頭演説を聴くことのできる環境づくりと表現の自由との両立」なる持論を添え、ヤジ訴訟の確定判決の趣旨とはおよそ関連性のない主張を展開した。

公安委員長の答弁もまた、「道警察に適切な職務執行を指導した」との決まり文句を軸に当たり障りのない文言を並べたものとなる。公安委の独立性についても、次のように教科書的な発言を残した。

「公安委員会では定例会議等において、道警察から諸般の活動について報告や説明を受け、不明な点について質問するとともに、随時必要な指導を行なっているところであります」

最後に演台に着いた伊藤本部長の発言も、抽象的という意味ではほとんど変わり映えしない「このたびの司法判断を真摯に受け止め、法令に基づく適切な職務執行に努める」なるフレーズでまとめられた。関係者の処分については「個別の事案なので差し控える」とし、懲戒などの有無を明かさなかった。

国賠判決で一部逆転敗訴した一審原告・大杉雅栄さんの事件について、二審の札幌高裁はJR札幌駅前での排除行為は適法だったと認定している。与党関係者が大杉さんの腕を押す暴力行為に及んだため、現場の警察官はトラブル回避のため警察官職務執行法に基づき大杉さんを「避難」させた、という理屈だ。もう1人の一審原告・桃井希生さんはこれに「つまり『気に入らない奴がいたら暴行しろ、そしたら警察が“暴行されたほう”を排除してくれる』と言ってるようなもの」と指摘していたところだが、今回の議会でも高橋議員が同じ指摘を口にし、再質問として道警本部長に見解を問うている。再び答弁に立った伊藤本部長の発言を、以下に引く。

「現場警察官の今後の現場対応についてでありますが、道警察と致しましては、このたびの司法判断を真摯に受け止め、法令に基づく適正な職務執行に努めて参ります。以上でございます」

ひたすら具体性を欠く言葉の連なりを残した本部長だが、与党会派からの質問を受けては一転、極めて具体的な説明を朗々と弁ずることになる。今春から相継ぐ道警職員の不祥事(大麻事案や不適切交際事案など)について、浅野貴博議員(自民、留萌管内)が再発防止や信頼回復について尋ねると、伊藤本部長はどう答えたか。壇上で「道民の皆様に深くお詫び申し上げます」と深々と頭を下げ、以下のように極めて迅速な再発防止策を明かしたのだ。

「道警察では再発防止に向け、警察本部長名で、私生活における適切な部外交際及び飲酒のあり方を決めた警察職員としての規律の振粛について各所属長に通達したほか、各所属の副署長等を対象とした緊急のブロック別会議を開催して問題点の共有をはかり、人事管理のあり方等を協議するなど、取り組みの強化を進めているところであります。道警察と致しましては、引き続き、とり得る施策をきめ細やかに実施し、道民の信頼回復に努めて参ります」

野党会派の追及には、これほど丁寧な説明が返ってくることがない。先の高橋議員に続いてヤジ国賠を採り上げた丸山晴美議員(共産、小樽市)は、一審原告らへの謝罪や事実の検証、再発防止策などの必要性について迫り、また一審被告・北海道のトップとしての責任を知事に、道警を監督する機関としての責任を公安委員長に追及したが、いずれに対してもおよそ具体的な答えが返されることはなかった。やや長くなるが、以下に3者の答弁の全文を採録しておく。

鈴木知事「このたびの道警察に係る訴訟についてでありますが、本件については国家賠償法上、訴訟の当事者が北海道となることから、必要な手続きを進めてきたところであり、警察官の職務執行を管理し事実関係を把握している道警察において一貫して方針を判断し、対応してきたものであります。私からも、道警察において適切な職務執行に努めていただくようお伝えしており、今後とも適切な対応に努めていただきたいと考えております」

吉本公安委員長「初めに、国家賠償請求訴訟の判決確定を受けての謝罪についてでありますが、道公安委員会と致しましては、道警察において確定した判決に従い、適切に対応するものと承知をしております。次に、判決確定をふまえた道警察への対応についてでありますが、道警察からは、警察官の行為を一部違法とした第二審の札幌高裁の判決を受けて行なわれた上告等が最高裁により退けられ、同判決が確定した旨の報告を受けたところであります。道公安委員会と致しましては、警察官の行為が一部違法とされたことについて真摯に受け止めているところであり、道警察に対し、各種法令に基づき適切に職務執行をするよう指導したところであります。最後に、公安委員会のあり方と道警察への指導についてでありますが、道公安委員会では定例会議等において、道警察から諸般の活動について報告や説明を受け、不明な点について質問するとともに、随時必要な指導を行なっているところであります。道公安委員会と致しましては、警察官の行為が一部違法とされたことについて真摯に受け止めているところであり、道警察に対し、各種法令に基づき適切に職務執行をするよう指導したところであります。道公安委員会と致しましては、引き続き道警察に対し、道民の安心と安全を守り期待と信頼に応えるべく職務にあたるよう指導して参ります。以上でございます」

伊藤本部長「国家賠償請求訴訟判決確定を受けての謝罪についてでありますが、原告及び弁護団から警察本部長宛てに謝罪を求める要請を受けたことは、ご指摘の通りでございます。道警察と致しましては、確定した判決に従い適切に対応して参ります。次に、再発防止についてでありますが、道警察と致しましては、このたびの判決内容をふまえ、現場活動にあたる警察官が根拠法令に基づき与えられた権限を適切に行使できるよう、必要な指導・教養に努めて参ります。以上でございます」

謝罪や検証、再発防止策についての問いには、イエス・ノーの二択でしか答えようがない。それを3人とも明言せず、ただただ抽象的な題目を繰り出し続ける。鈴木知事に到っては、誰に何を訊かれても、またその場が記者会見だろうと議会だろうと、毎度の如く同じような文言をコピー&ペーストした答えしか口にしていない。質問者の丸山議員は憤りもあらわに再質問、再々質問を重ねたが、回答者の姿勢が変わることはついになかった。再々質問で「適正な職務執行」について問われた鈴木知事はおよそ5分間にわたって無言を貫き、周囲で慌ただしく答弁をまとめる部長・局長らとは対照的に微動だにせず瞑目。答えられないなら休憩を入れたほうがよいか、との議長の問いかけにさえ答えなかった。最終的にまとまった答弁の内容は、もはや言うまでもなく先述した発言のコピペに過ぎず、それすらも手元の紙に眼を落とさずには発言できないありさまだった。

丸山議員は質問後も議長の許可で特別発言を認められ、知事や本部長らを次のように厳しく批判することになる。

「ヤジを飛ばした女性に対する道警察による排除行為が最高裁で違法・違憲と断罪されたことの重大性が、知事、公安委員長、及び警察本部長の答弁からはまったく伝わりませんでした。それは、実力執行機関である警察が市民を強制力により不当に排除したとして、国家賠償訴訟において敗訴したにもかかわらず、当事者に対する謝罪すら行なわない姿勢に端的に現われています。表現の自由は、憲法で保障された基本的人権の基本原理です。その重大な権利侵害を道警察が行なったことを真摯に受け止めるなら、被害者への謝罪と、違法な職務執行が行なわれたことの検証は避けられない、ということを強く申し上げます」

この議会に先立つ9月12日には、判決確定後に当事者の桃井希生さんが各機関へ申し入れた要請文について( https://news-hunter.org/?p=24214 )、道公安委が代理人の齋藤耕弁護士へ「連絡書」なる書類を送っていたことがわかっている。以下がその全文だ。

《令和6年9月9日に受理した文書により、齋藤様から北海道公安委員会宛に申出のありました件については、北海道警察に調査を指示いたしました。回答には時間を要する場合がありますので、御承知おきください》

桃井さんらが公安委に求めたのは、警察への適切な指導と、公安委自らによるこれまでの対応の検証など。その要請に対する答えが、なぜ「警察に調査を指示」との内容になるのか――。あたかも道の各機関の間には「決して明答しないこと」との強い取り決めが存在しているかのようだ。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

 

 

 

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