維新・吉村大阪府知事「ポピドンヨード発言」の裏話

先月4日、大阪府の吉村洋文知事と大阪市の松井一郎市長が会見を開き、「ポビドンヨード」を含んだうがい薬が、新型コロナウイルス感染防止に一定の効果があると発表した。分かりやすく言えば、イソジンのうがい薬がコロナに効くというものだ。

「ウソみたいな本当の話をさせていただく」で始まった吉村氏の会見の模様は、繰り返しテレビでも映し出され、店頭には「うがい薬完売」の張り紙が出された。

会見後の混乱は周知の通りで、ポビドンヨードが品薄になった状況を重く見た大阪府歯科保険医協会は、“大阪府知事の「うがい薬に新型コロナウイルスの効果確認」会見 医療機関と府民を混乱に陥れたことを真摯に受け止めよ”という激しいタイトルの抗議文を公表している。

それでも人の噂は何とやら。“大阪府知事の勇み足”で終わるはずだったが、うさん臭い話には続きがあった。

■検証不十分な話に飛びついた維新トップ

問題の研究成果は、大阪府立病院機構「大阪はびきの医療センター」の松山晃文次世代創薬創生センター長から吉村、松井両氏に持ち込まれたものだが、実際に実証調査されたのは41例しかなく、論文発表もなし。十分な検証がなされておらず、大阪はびきの医療センターによる臨床研究の審査すら終わっていなかったことが分かり、吉村氏と松井氏は非難を浴びた。どう言い訳しても、時期尚早との批判を免れることはできまい。

ある大阪府幹部はこう嘆く。
「松山氏の研究について、吉村知事と松井市長が知ったのは7月31日の会合でした。その場で『これはいい』と4日の会見が決まったんです。橋下徹氏が府知事になってからずっと、府政はトップダウン。上が決めれば現場は従うしかありません。コロナ関連は、京都大学の山中伸弥教授と高校の同級生というのがご自慢の藤井睦子氏が部長の健康医療部の担当。吉村氏や松山氏にストップをかけることなく、そのまま発表して大失態を演じてしまったというわけです」

公表を焦った吉村と松井氏に、大きな問題があったということだが、研究が不十分なまま発表の記者会見に同席した松山氏にも大きな責任があるのは確かだろう。

■ポビドンヨード学者の背景

気になったので松山氏のプロフィールを確認してみると、大阪大学医学部を卒業した同氏の専門は「再生医療」。大阪はびきの医療センターには今年7月から在籍しているが、それ以前は、藤田医科大学医学部で再生医療学講座教授という立場だった。

「藤田医科大学に籍を置きながら、大阪府でコロナとうがい薬の臨床研究をしていたことになる。兼業になるわけで、大学の許可はなかったと聞いている。職務規程違反との指摘が学内である」と藤田医科大学の関係者は話す。

松山氏は、再生医療の分野で多数の論文を発表し、iPS細胞にも詳しいことで知られた存在だという。その一方で、イソジン騒動と同様に、疑問視される行動も複数あると関係者は証言する。

下は、2018年10月30日に藤田医科大学が発表したプレスリリース。“再生医療学講座 松山晃文教授がプロジェクトリーダーとなり設立したAdipo Medical Technoiogy社と大塚製薬工場が再生医療等製品の共同開発を開始”というタイトルで、松山氏が設立したAdipo社が、大塚製薬工場と再生医療に関する製品を共同開発するという内容だった。(*以下、Adipo Medical Technoiogy社を「AMT」と表記)

そこで、AMTについて調べてみると、登記上の本社は大阪府東大阪市で、事業内容は医薬品(再生医療等製品)の製造販売となっている。登記された住所を訪れてみたが、普通の一軒家で、周辺住民は「工場や研究施設? そんなものはありません」と話す。(下が、登記簿の一部)

プレスリリースの時点でAMTの代表者として登記されていたのは男性のS氏。それが2019年12月にMという女性にかわっている。藤田医科大学関係者に聞いたところ、M氏は松山氏の妻であり、藤田医科大学の教授で共同研究者。「一緒に再生医療について執筆した論文もありますよ」(藤田医科大学関係者)と明かす。たしかに、松山氏と妻のM氏が共同執筆した論文が、何件もインターネット上で公開されていた。AMTは、松山氏のファミリー企業ということになる。

■関係者から批判の声も

ところで、先のプレスリリースには、AMTは「国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)※4の研究課題「同種脂肪組織由来多系統前駆細胞の重症心不全治療細胞医薬品としての開発」(プロジェクトリーダー:松山晃文<藤田医科大学医学部再生医療学講座教授>)の成果により設立されました」とある。A-STEPは大学・公的研究機関等で生まれた科学技術に関する研究成果を国民経済上重要な技術として実用化することで、研究成果の社会還元を目指す技術移転支援プログラム。つまりAMTは、国の機関の支援によって成り立つ研究の成果によって設立された会社ということだ。

一方、大塚製薬工場と共同開発した商品が発売されると、その利益は当然AMT社にも入る。つまり、公金で賄われた研究の成果から得られる儲けが、松山氏の妻の会社にもたらされるということになりはしないか?

この疑問について、前出の藤田医科大学関係者はこう話している。
「国の支援を受けている研究成果を利用して、自分の妻の会社に儲けさせるということでしょう。法的なことは分かりませんが、研究者としての倫理に反するのではないでしょうか」

(山本吉文)

 

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