強制性交事件「もみ消し」の代償(2)|疑われる鹿児島県警と県医師会の「共謀」

医師会長選挙への影響を最小限にとどめるため事件の矮小化を図ろうとした鹿児島県医師会の池田琢哉会長周辺と「警察一家」の体面を守ろうとした県警幹部――両者の思惑が一致した結果が、強制性交事件のもみ消しと、これを良しとしない関係者による捜査情報漏洩だったとみられている。時系列に従って事件経過を振り返ると、医師会側が早い時期から「合意に基づく性行為」だったと強弁した裏に、事件のもみ消しを図ろうとした県警の歪んだ思惑が働いていたことが分かる。

■事件化前、中央署に出向いていた“わいせつ職員”と警官の父親

事件の検証をするにあたって、関連する事項を時系列で表にまとめた。

強制性交事件が起きたのは2021年9月。被害を知った女性の雇用主が県医師会の男性元職員(2022年10月末で退職。本稿では「男性職員」とする)を呼んで事実関係の確認を行ったのが同年12月1日だ。その4日後の12月5日、男性職員は被害女性とその雇用主に謝罪の手紙を書き、SNS上で画像を提示する(*下の画像、参照)。

男性職員が手書きしたとされる「罪状」と題する文書には、「強制性交等罪であることを認めます」と明記してある。その上で男性職員は、被害を訴えている女性に「詫び状」と思われる文面の文書を作成していた。詫び状には、次のように記されている。

△△△△様
謹啓
このたび、私 ●●●●は、自らの理性を抑えることが出来ず、△△様に対し、多大なる身体的・精神的苦痛の被害をおかけし、誠に申し訳ございませんでした。

△△様におかれましては、このような手紙を見るだけでもご気分を害されると思いますが、自身が犯してしまった罪について、改めてどうしても謝罪させていただきたく、お手紙を書かせていただきました。

どうか、最後までご拝読いただければ幸いに存じます。

本件当日、九月当初から、約1ヵ月に渡り取り組んできました新型コロナウィルス宿泊療養施設看護師業務マニュアルが出来上がった日でありました。

△△様には、日々の業務で大変ご多忙の中、(略)をして頂いておりました。

そのような姿勢を間近で感じながら、お仕事をさせて頂く中で、△△様に対する気持ちが日を追うごとに強くなっていることを感じており、当日、自らの理性を抑えることが出来ず、衝動的な行動に至ってしまいました

私が、今回犯してしまった罪は、どのような理由があっても決して許されるものではありません。私の犯してしまった罪により、約二カ月の間、食事もまともに取れず、仕事もままならない状態であり、多大なる身体的・精神的苦痛を△△様におかけしたことに対し、ご家族に対しましても、多大なるご心配をおかけしましたことに、謝罪の言葉も見つかりません。

さらに□□□□先生に対しましても、今回のマニュアル改訂新型コロナウィルス宿泊療養所への医師、看護師派遣等、ご厚意に対し、踏みにじる行為をしてしまったことに対しましても、お詫びの言葉もございません。

自らが、今回、理性を抑えることが出来ず、衝動的な行動に至った事実につきまして、妻ならびに両親に説明を行い、自分が犯してしまった罪に対し、誠心誠意、△△様に対し犯してしまった罪の重さ、取り返しのつかない過ちを犯してしまったことに対する反省の思いしかありません。

自身が犯してしまった罪に対し、△△様ならびに雇用主であります□□□□様に対し、私が出来る最大限の弁償をさせて頂きたいと考えております。

謹白

令和三年十二月五日
●●●●

ハンターが入手した県医師会の内部文書や鹿児島県への開示請求で入手した資料によれば、この手紙の画像を送信したあと、男性職員は警察官だった父親と複数回警察に出向いて何らかの主張をし、“刑事事件には該当しない”というお墨付きをもらったことになっている。お墨付きをもらったのは被害女性が告訴状を提出する数十日前だったとみられる。

告訴状受理は2022年の1月17日だが、その10日前、“お墨付きを”出していたと思われる中央警察署は、「合意があったから事件にはならない」という筋書きに従って、被害女性を門前払いにする。これであきらめると考えたのだろうが、女性の代理人弁護士が強硬に抗議したことで17日、一転して告訴状を受理する。

不可解なのは、事件の相談があった場合に警察の記録として残る「犯罪事件受理簿」(*下、参照)に、門前払いした際の『日付』=『1月7日』という記載がないこと。門前払い自体を「なかったこと」にした格好だ。

 ここでいったん時間を進める。強制性交事件の告訴状を受理した中央署は、なぜか捜査に着手しなかった。「多忙」を理由にして被害女性への聴取などを引き伸ばし、ようやく関係者の事情聴取を始めるのは告訴状受理から10か月も経った2022年11月。強制性交という重い犯罪行為で告訴状が出ているというのに、おそろしく遅い対応だった。

ちなみに国会で本件についての質問に答えた警察庁刑事局長は昨年3月、「性犯罪に関する被害の届け出がなされれば、被害者の立場に立ってこれに対応すべきであり、その際には、警察が受理を渋っているのではないかというようなことを受け取られることのないよう被害者に対する説明にあたってはその心情に配慮するよう指導している」とした上で、「性犯罪にかかる告訴があり、要件が整っていればこれを受理し、速やかに捜査を遂げて、検察庁に送付する」と答弁している。鹿児島県警の事件処理は、この答弁を真っ向から否定するもの。県警の捜査が不当なものであった証明でもある。

■県警と医師会に問われる「人権侵害」の責任

上掲の時系列に従って事件経過を見ていくと、色分けした『2月10日』『2月22日』『9月27日』に行われた県医師会側の情報発信が、いかに人権を無視した非常識なものか分かる。この時点では、県医師会の「合意に基づく性行為」という主張に、法的な根拠が一切なかったからだ。特に酷かったのは、9月27日に医師会が開いた会見で、池田会長と同会の顧問弁護士である新倉哲朗氏(和田久法律事務所)が、世間に向けて「合意に基づく性行為」を断言していたこと。この時期は、まだ具体的な事件捜査が行われておらず、検察でも裁判所でもない医師会が事件の裁定を下すのは法を無視した暴走でしかない。明らかな人権侵害。人の命や権利を守ることを使命とする医師や弁護士の所業とは思えない。では、医師会側はなぜそうした非常識を強気で主張できたのか?理由は、容易に想像がつく。

告訴状提出前の男性職員とその父親の警察への働きかけ――。中央警察署における被害女性の門前払い――。やる気のない捜査――。男性職員が被害女性の雇用主を名誉棄損で訴えたという筋違いの事件を、西警察署管轄と承知しながら無理やり中央署に担当させた中央署の署長=井上昌一前刑事部長による不当な捜査指揮――。つまり、“もみ消し”につなげようとする警察の意思がハッキリわかっていたからこそ、医師会側は「事件性はない」と言い切れたのではないか。医師会側と県警幹部による「共謀」が疑われてもおかしくない構図が、あったとみる方が自然だろう。

鹿児島県警は延べ500件近い捜査関連情報を流出させたが、原因を作った井上昌一刑事部長(元中央警察署長)は3月で退任。結果的に情報漏洩を招来する格好となった県医師会の池田琢哉会長も、今年6月で交代する見通しとなっている。つまり誰も責任をとらないということだ。しかし、この問題はまだ幕引きとはならない。次稿では、強制性交事件に関する県医師会幹部がついた「虚偽」の内容をつまびらかにする。

(つづく)

 

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