明日27日に決まる自民党の新総裁。これまで、総裁選となれば派閥ごとに結束を強め主流派の一角を担う動きとなっていが、裏金事件を受けて岸田文雄首相が「派閥解散」を宣言。史上初の「派閥なき総裁選」となった。当初、小泉進次郎元環境相が有利との見方が圧倒的だったが、最終盤で大きく情勢が変わっている。
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9人の立候補者の中で、石破茂元幹事長、高市早苗経済安保相、小泉進次郎元環境相が「3強」。そこに、上川陽子外相、小林鷹之前経済安保相、林芳正官房長官、茂木敏充幹事長、河野太郎デジタル相、加藤勝信元官房長官らが続くという。総裁の椅子には「3強」の中の誰かが座ることになる。
日本テレビは9月22日、党員・党友だけに限った世論調査を実施。1位が石破氏31%、2位に高市氏28%、3位小泉氏14%と3強が上位を形成。4位に上川氏6%、5位に小林氏6%、6位に林氏5%、7位に茂木氏2%、8位に河野氏2%、9位に加藤氏で1%となっている。態度未定は6%という結果だ。1回目の投票で過半数をとる立候補者はおらず、決戦投票になることが確実視される。その場合、小泉氏と石破氏もしくは高市氏、石破氏と高市氏の3つのパターンになる。
「キングメーカー希望者とその周辺の頭の中は決戦投票でいっぱい。キングメーカーになるには数をまとめ、かつ、そこにプラスアルファ―が必要という動きになっている。ただ、小泉氏が一気に評価を落としているので、かなりの混戦になった」(自民党の大臣経験者)
議員票368票のうち、まだ態度を決めていないとされるのは50人ほど。政権中枢で影響力を行使してきた麻生太郎副総裁は河野氏を推しているが、票は伸びていない。河野氏支援のある議員は「麻生派としては河野さん以外の応援もOKとしている。麻生派のベテランは何かにつけて上から目線の河野さんを嫌っており、鈴木俊一財務相が上川支援を鮮明にするなどまとまりがない。ただ、河野さんが惨敗するとは思っていなかった。麻生さんは、総裁選がはじまった頃、自ら取り巻きをつれて議員会館に出向いていた。今は、河野さん以外を応援している麻生派の議員をまとめにかかっている。麻生さんも年齢的に後がないので最後とばかりに必死だ」と舞台裏を明かす。
小泉氏の失速で、石破氏、高市氏と三つ巴になり、先が見えない情勢だ。まだ支援する候補を決めていない中堅議員が、こう話す。
「麻生派の幹部から何度も接触があり、麻生さん本人からも議員会館に電話がきた。私は、立候補者の演説を聞いて1票を投じたいと周囲に聞こえるように言っています。『1回目は勝手にやってくれ。けど決選投票はこちらに乗ってくれないか』と誘われているのは確かです。小泉が決選投票に残った時、麻生さんはそちらに乗るでしょう。しかし、決選投票が石破さんと高市さんになった場合、麻生さんは高市を選ぶのではないか。麻生さんが石破さんと不仲なのは誰もが知るところ。『高市氏に入れてくれ』との意向と聞いている」
麻生氏としては、石破氏の勝利だけは阻止したいという思いのようだ。永田町で麻生氏と対峙しているのは菅義偉元首相。すでに小泉氏の支援を決めており、その推薦人も自身のグループ「ガネーシャの会」のメンバーが多く名を連ねる。小泉氏が決選投票に勝ち上がれば、菅氏にとってはそこに票を集めるだけ。難題は、小泉氏が3位に沈み、石破氏と高市氏の決戦投票になった場合だ。
菅氏は総裁選前に、同じく小泉氏を推す武田良太元総務相を交えて、石破氏と会食している。石破氏を担ごうとしていたのだ。しかし、5回目の挑戦となる石破氏は菅氏と武田氏の思惑には乗らず、総裁選については語らなかったという。そこで担ぐ神輿を替えたと話すのはガネーシャの会の議員だ。
「菅氏とは良好な関係の河野という選択肢もあったが、絶対に勝てるのは小泉だと確信し、小泉の説得に乗り出した。発言に不安はあったが、しばらくならもつと私らも考えていた」
ところが不安的中。候補者討論などでの発言から終盤に来て予期せぬ大失速。このままだと、3位に沈みかねない状況となっている。小泉陣営のある議員が、次のように打ち明ける。
「菅さんにとっても小泉の失速は予想外でした。総裁選で菅さんは麻生さんの動向を非常に気にしている。決して仲が悪いわけではないが、前回の総裁選で非主流派に転落した菅さんは今回こそが復権の最後のチャンス。絶対に負けられない。ところが、小泉が思わぬ失速。石破対高市の決選投票が予想される事態になった。菅さんは高市とはまったく合わない。菅政権で、高市が閣僚から外されたことでもよくわかります。決選投票が石破さんと高市になれば、迷わず石破さんを推すでしょう。小泉や河野を支援した議員を取り込み、小石河連合を復活させて石破さんに票を集めれば勝てますから。菅さんはここにきて、『石破が1回目の党員票で1位になれば、それが党の民意。議員票もそれを反映すべき』と周囲に話している。麻生さんのように議員会館を訪ねて支持を訴えるという派手な動きはせず、情勢分析をしながら電話にかじりついて、『決戦投票では石破』と言っているようです」
旧二階派は菅氏と共同歩調をとっている武田氏が同じ方向でまとめる見込み。期待していた麻生氏の支援を得られなかったことから、茂木敏充幹事長が影響力を持つ旧茂木派は、麻生氏に誘いには乗らない模様だ。石破氏がかつて所属していたのは、茂木派の源流である旧田中派。茂木派の中には石破氏にシンパシーを感じる議員が少なくない。
次のキングメーカーを狙う岸田文雄首相は、旧岸田派から林芳正官房長官と上川陽子外相の2人が出馬しているので“静観”。しかし、決選投票になれば、もともと石破氏とはいい関係にあるだけに高市支持で動くことはないとみられている。
派閥なき総裁選だが、決選投票が濃厚になって最後に出てきたのは「派閥の倫理」。「表紙を変えて中身変わらず」となりそうだ。