ある自民党の大臣経験者が、「大樹が危ないそうじゃないか、首筋が寒い連中が騒いでいる」と連絡をくれた。今年2月に東京地検特捜部による家宅捜索を受けた政財界のフィクサー・矢島義也氏率いる大樹総研の周辺が、にわかに慌ただしくなっている。
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東京地検特捜部は目下、東京オリンピック・パラリンピックの汚職事件の真っ只中。10月19日には、高橋治之容疑者が受託収賄の容疑で、4度目の逮捕。高橋容疑者から、日本オリンピック委員会の元会長・竹田恒和氏や森喜朗元首相のルートに発展するのではないかと噂される状況だった。しかし、ある捜査関係者は「事件はここまで」と結論付けた上で、こう話す。
「竹田は、すでに10回以上特捜部から事情聴取を受けている。しかし、竹田―森ルートに突っ込むには、高橋容疑者の口を割らせるしかない。しかし、高橋容疑者は『広告には口利き、コンサルタントに関するマージンが発生するのは当たり前だ』として、まったく容疑を認めない」――高橋容疑者の4回目逮捕と起訴で、捜査が終結となる可能性があるという。
そこで、次の「政界ルート」として浮上しているのが、すでに強制捜査に着手済みの矢島氏率いる大樹総研を巡る疑惑だ。
強制捜査を受けた矢島氏は、直後に週刊詩のインタビューに応じて以降、姿を見せていない。そのインタビューでは、親しかったはずの二階俊博元幹事長のことを「ボケてきちゃってるから」とこき下ろし、菅義偉元首相や加藤勝信厚労相はじめ政財界に大きな人脈があることをひけらかしていた。矢島氏は一連の疑惑を完全否定。「俺がこの世界から消えちゃったら、日本は結構損だ」と豪語している。だが、世間はそう甘くない。
「オリンピックの次は大樹総研でいくという流れが特捜部にあるようだ。これまで、安倍政権べったりでそこに近い人脈には手出しができなかった。その重しがとれたので、今がチャンスだとばかりに政界ルートを狙っている。特に、東京地検特捜部長で今は、地検の森本宏次席検事は、大樹総研にガサを入れて立件できなかったことがある。今度こそと意気込んでいるそうだ」(東京地検特捜部OBの弁護士)
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矢島氏は、東京地検特捜部の捜査だけではなく、もう一つ悩ましい難題を抱えている。
今年2月、医療ベンチャー「テラ」(破産手続き中)の株を巡って医療機器開発「セネジェニックス・ジャパン」の竹森郁被告が商品取引法違反で逮捕された。一時は矢島氏と蜜月で歩調をともにしていた同氏については、年内にも判決が言い渡される見通しだ。
その竹森被告と矢島氏が絡んだ事業は、ハンターで報じた太陽光発電の「まんのう発電所」(香川県)である(⇒「東京地検特捜部が狙う贈収賄事件の主役は・・・」)。同発電所は、矢島氏と関係が深い再生可能エネルギー開発会社「JCサービス」を通じて2017年から計画され、土地所得や経産省へのFIT(固定買取価格制度)の認定、開発申請などが行われていた。この案件を約14億6千万円で矢島氏から取得したのが竹森被告だった。
経産省は、矢島氏側から竹森被告側に権利が移行する前後、1kWh/時で42円という高値で設定したFITの買い取り価格を見直す方針を打ち出していた。認定を受けても太陽光発電システムの建設にとりかからず、権利だけを売買するという事例が横行したため、見直しに着手していたのだ。矢島氏は見直し直前に申請をして、認められたという。その際、管轄する四国経済産業局の幹部が矢島氏と政界ルートを通じて親しい関係にあった人物なのだ。
東京地検特捜部の見立ては、大樹総研側とつながっていた幹部が、何らかの便宜を図ったのではないのかというもの。前出の大臣経験者が、次のように解説する。
「岸田政権になって1年、狙われているのは安倍派ですよね。森元首相もそうだし、旧統一教会でもね……。安倍政権時代は強固な牙城の前に、政界が絡む贈収賄事件はほとんどやれなかった。安倍氏が退いてから河井克行元法相夫妻の選挙違反事件や吉川貴盛元農水相の贈収賄事件などが立件された。矢島氏といえば、出てくるのは菅元首相に二階氏。安倍政権を支えた2枚看板です。その二人の動きを止めるだけでも岸田政権にとっては大きなプラスがある」
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菅氏と二階氏は、2016年に行われた矢島氏の結婚式の「主賓」として登場しているほど縁が深い。菅元首相には、東京地検特捜部が五輪汚職事件とは別件で捜査している神宮球場や秩父宮ラグビー場の問題がある、明治神宮外苑の再開発に絡む許認可や参入業者についての疑惑が浮上していたのだ。
菅氏は、自身が立ち上げた「ガネーシャの会」を中核とする、いわゆる菅グループを派閥に発展させようと動いていた。しかし、矢島氏や、明治神宮外苑再開発を巡る疑惑が浮上したとたん、動きが止まってしまった。「特捜部の動きと何か関係があるのかもしれない」と話す永田町関係者もいる。
矢島氏をよく知る関係者は、次のように話している。
「矢島氏は、官僚や政治家に依頼してもできないことをやることが、コンサルタントと思っているような人物。脱税的な手法の口利き、無理な許認可申請など、値段がつけられないような仕事が本業のようになっている。特捜部のガサ入れで、そうした問題についてのオファーがこなくなり、商売は左前。会社にもほとんど来ず、ご機嫌ななめのようだ」