「いじめ隠蔽」伊敷中元校長との一問一答|就任前は県教育次長

 鹿児島市立伊敷中学校と同市の教育委員会が“いじめ”の隠蔽を図っていた問題の背景にあるのは、県全体の教育行政の歪みだ。教員資格を持つ人間たちが県や市町村の教育委員会を牛耳ってきたため“教員同士のかばい合い”が常態化しており、それがいじめや体罰、教員による暴力行為といった不祥事を矮小化させ、今回のケースのように場合によっては「なかったこと」にされている。いじめを隠蔽して実態報告をでっち上げる行為は明らかに法律違反だが、鹿児島ではそれが当たり前になっている可能性が高い。

 令和元年に起きたいじめを隠蔽した伊敷中の当時の校長は、鹿児島県教育界のナンバー2である教育次長から同校校長に就任した寺園伸二氏。今年4月から鹿児島市谷山北公民館の館長を務めている同氏にも取材したが、「隠蔽」についての反省は一切なく、「市教委に聞いて下さい」を繰り返す姿勢には開いた口が塞がらなかった。以下、寺園元校長との一問一答である。

――以前、伊敷中の校長だったんですよね?そのことで一点お伺いしたいことがありまして。当時令和元年のことなんですけども、いじめが、2年生のクラスでいじめがあったと。ご記憶ございますか?
寺園元校長:あー、えっとですね、それは、私が現職の頃のことですので、個人情報に関わることなので……。

――いや、いじめが原因で転校した方がいらっしゃったというご記憶がありますか、という確認です。
寺園元校長:あっ、転校した子はおります。

――ですよね。
寺園元校長:その、まあ、あの、あのーいろんな学校でのトラブルがあってですね、ご本人のほう、お母さん方のほうからもいじめられてるということがあって、我々も、まあ、学年上げて努力をしたところなんですけど、最終的にお母様が転校させたいということでしたので、転校してしまうことになって、我々も誠に申し訳なかったという記憶はあります。

――ああ、なるほど。
寺園元校長:はい。

――●●さんのことですよ。
寺園元校長:そうですね、はい。

――それで?
寺園元校長:よく覚えております。

――そのことは市教委の方にはご報告されてますよね。
寺園元校長:はい、当然連絡は取っておりますので。

――ですね。
寺園元校長:あのー、ええっと、何回も来ていただいて、実際に。

――はい?
寺園元校長:あのー、学級に来ていないということだったりするものですから、ほいで、担任とのこととかもあったりだったから、あの、市教委方からも来ていただいて、あのー、まあ、見ていただいて、様子もですね、でー、連携して取り組んで来たところなんですけど。

――市教委と?
寺園元校長:はい、そうです、そうです。力及ばず……。

――じゃあ市教委は全部知っていたわけですね。
寺園元校長:力及ばず……。

――力及ばず?
寺園元校長:私どもとしても……。

――その頃のことですが、オアシス学級というのがありましたよね?
寺園元校長:そうです、はい。

――今はないそうですが、あなたが校長のときに無くされたんですか?
寺園元校長:いや、自分が校長の時まではありましたが、その後は、もう、これはですね、あの、定数を貰って来ているのではなくて、我々の学校独自でそういう子供達、あのー、不登校の子供達も、あのやっぱり増えてきている状況なので、みんなの時間を少しずつ割いて、ほいで、そういう学級を学校として、あのー、みんなのまあ、教員の、申し訳ないけど、その働き方改革もあるんだけど

――え、何ですか?教員の?
寺園元校長:働き方改革のこともあるけれども、まあみんなの善意で少しずつ時間を取ってそうやって、えー、ひとつそういう居場所を学校の中に……

――居場所ですね。要するにそこで自習してる分にはいじめも起こらないということ?
寺園元校長:うん。

――なるほど。
寺園元校長:我々も、私もしょっちゅう顔を出してましたんで。

――働き方改革と何の関係があるんですかね?
寺園元校長:いや、定数が来れば、そこに人を常駐、教員を常駐できますけど、それができない以上はみんなはそれぞれの授業があって仕事があるんだけども、それにプラスそこに顔を出すっていうような作業が出てきますので

――なるほど。で、この●●さんのお嬢さんのいらっしゃったクラスの先生については、ご記憶ございます?結構いろいろ新聞に出たり、有名な先生だったとって聞いておりますが?
寺園元校長:はい、はい、そうですよ。

――その先生のクラスで、当時オアシス教室に通っていたお子さんが3人いるそうなんですけど。他に5人不登校だったと。8人いない日が結構あったと
寺園元校長:あー、そんな日もあったかもしれんですね

――かもしれない?
寺園元校長:はい。元々の、あの、毎日っていうことは、常時っていうことはないでしょうけど、元々小学校のときから不登校やった子とかもおりますのでね

――それは半ば学級崩壊に近い状態と私どもは判断してるんですけども。
寺園元校長:私は決してそうだとは思っておりません。

――それは、どうしてですか?
寺園元校長:学級崩壊って言うのは、もう学級がとにかく荒れて、秩序がない状態っていうことであれば、そういうのには全く当らないですね。そのクラスは、そのクラスの残っている子供たちは、もう一生懸命授業も受けて、まあ、学級のこともやっておりましたので、ですね。私はそんな、あのクラスを学級崩壊って言うのは、他の学級の子達に失礼だと思います。とても一生懸命やっておりましたので。

――失礼?その、8人の子供達がいないクラスはまともなんですか?小学校から不登校だから、中学校では関係ないとおっしゃるわけ?
寺園元校長:いや、そうではないですけど。

――でも、そういう言い方されましたよね、今。
寺園元校長:まあ、そこまでにしましょうか。個人情報だから、

――いやいや、私はいじめを受けた当事者である●●さんにも話を聞いた上であなたに取材してる。話されても問題ない。あなたは、答える義務があるでしょ。
寺園元校長:もとの話は市教委に聞いてください。

――最後に一点だけおおうかがいします。さっき、報告を上げたとおっしゃいましたよね?
寺園元校長:はい。

――これはあなたの責任で報告を上げた?
寺園元校長:連携を取っているということを言っております。

――いやいや、報告を上げたとおっしゃったから。
寺園元校長:その報告はなんの報告ですか?

――いじめの報告ですよ。ちゃんと書いて出さないといけないでしょう?丸付けたりして。
寺園元校長:そういう連携を取ってやっておりますので。

――大変申し訳ないけど、市教委にも確認取っている話を聞いているだけです。
寺園元校長:ああ、じゃあもう市教委と話をしていただければ結構です。

――「環境を変え新たな気持ちで頑張っている」と書いておられる。この●●さんのことをですよ。「環境を変え新たな気持ちで頑張っている」と。これは転校したからこうなったっていうことですよね?
寺園元校長:もうあとは、個人情報のことなので、お話することはありません。

――いやいやいや、個人情報ではないです。あなたの責任のこと。あなたは、いじめの状況のところで「いじめは解消している」に丸を付けられてますけど、これはどうしてですか?
寺園元校長:……。あとは、教育委員会とお話してください。

――「他校への転学」っていうのに丸を付けないで。あなたは隠蔽しましたね?
寺園元校長:……。

――隠蔽でしょう?
寺園元校長:……。違います。

――保身ですか、あなたの。いろいろおっしゃっているけれど、保身じゃないですか?
寺園元校長:いやいや。

――いじめを隠蔽したじゃないですか。なんで県教委に報告が上がってないんですか?県教委に聞いたら、重大事案だって言ってますよ。あなた県教委で次長までされたんでしょう?個人情報だからって逃げるんですか?あなたは現在も公務員だぞ。
寺園元校長:あなたはなぜそんな……。

――新型コロナウイルスの間だから、遠慮して電話でお話してますけどもね。教育者であるならば、一人の少女がですね……。
寺園元校長:おたくはどうしてそんな言い方をされるんですか?

――だってそうでしょ。●●さんは、いじめを受けて医療機関に通って、治療まで当時受けてらっしゃいますよ。何度もです。あなた、そのこともご存じだったんでしょ。さっきから聞いていると、他人事みたいですよね。自分たちは頑張った。働き方改革。学級崩壊じゃない。しまいに都合が悪くなると、市教委に聞いてくれ、個人情報だ――。あなた本当に教育者ですか?申し訳なかったっていうのは口だけですか?
寺園元校長:……。

――あなたが責任持って上げた報告書には、なんで転校って書いてないんですか?書いてないですよね?「他校への転学」としなければいけないところを、「いじめが解消している」となっていますよ。この報告は嘘でしょ?虚偽でしょ?言い分がありますか、あなた。
園元校長:……。

――普通に話してたつもりですけど、あなたのおっしゃっていることはただの保身ですよね。
寺園元校長:あなたは、それで普通に話しているつもりなんですか?

――そうですよ。普通に話しているつもりですよ。あなた、不誠実ですよ。
寺園元校長:あなたは、私に恫喝しているようにしか聞こえないんですけどね。

――何が恫喝ですか。あなたは大変不誠実ですよ。不誠実じゃないですか。だって途中から都合が悪くなるとね、個人情報だから市教委と話してくださいと。
寺園元校長:じゃあ、まあ、そうしてください。

――いや、あなたがそう言ったからですよ。「じゃあ」じゃないんですよ。またそういうこと言う。卑怯ですね、あなた。
寺園元校長:じゃあ、よろしくお願いします。

――なにもよろしくお願いされませんよ。
寺園元校長:あと、教育委員会とお話していただければ結構ですから。

――私は何もあなたによろしくお願いされる覚えはありませんよ。追及しているんですよ、あなたを。
寺園元校長:どうぞ。

――よくそれであなたは公務員が務まるね。
寺園元校長:私の方も、仕事があるんで。うん。よろしくお願いしますね。教育委員会と話をしてください。

 学年上げて努力をしたところなんですけど、最終的にお母様が転校させたいということでしたので、転校してしまうことになって」――なんと、この元校長は、いじめの実態報告書には一切記載しなかった「転校」を認めた上で、それを被害生徒の母親の意向だったというのだ。責任転嫁も甚だしいが、その後に述べた「力及ばず」が、口先だけのものであることが分かる。言葉の軽さと無責任な姿勢には呆れるしかない。

 働き方改革のこともあるけれども、まあみんなの善意で少しずつ時間を取ってそうやって、えー、ひとつそういう居場所を学校の中に……」――この発言はつまり『働き方改革が進む中で、教員が善意で、オアシス教室という居場所を作ってやってるんだ』と同義。いじめの被害生徒に寄り添う気持ちは、さらさらなかったということだ。教育者としては、失格と言うしかあるまい。

 じつは、いじめが収まらなかった問題のクラスでは、転校した生徒を含む3人がオアシス学級で自習、他に5人もの生徒が登校できない状況だった。いじめを繰り返すなどクラス内で横暴を極めていた生徒たちを、担任がのさばらせたことが一因となっていたことは言うまでもない。それを寺園氏は「あー、そんな日もあったかもしれんですね」「元々小学校のときから不登校やった子とかもおりますので」と振り返る。まるで他人事。当時、同氏がどういう姿勢でいじめや不登校と向き合っていたかが伝わってくるコメントだった。

 学級崩壊を指摘されると、むきになって否定。「他の学級の子達に失礼」と言い出したが、元校長は「他の学級の子達」の中に、いじめを行っていた複数の卑劣な生徒がいたことを忘れているのではないか。筋違いの反論に、説得力があるわけがない。

■「校名」報道の理由

 今回の問題を報じるにあたっては、あえて「伊敷中学」という校名を明らかにした。元校長も実名で記事にした。賛否はあろうが、三つの理由がある。

 まず、同校が教育実習生を数多く受け入れる教育機関であること。伊敷中は、「鹿児島大学教育学部代用附属中学」という指定を受けた学校である。代用附属とは、教育学部の学生の教育実習の場として、附属学校が十分に確保できない場合に既存の学校で代用する制度。代用附属は格式が高いと言われているほどだ。何より、教員育成を担っている教育機関が、いじめの実態をごまかし、隠蔽まで行っていたという事態は教育界全体の歪みを招く原因になると考えた。それゆえの校名表示である。

 次に、隠蔽を主導したとみられる当時の校長が、県の教育次長という指導的な立場にあった人物であること。寺園伸二元校長は、現在も市内谷山北の公民館長を務める公務員。しかし、前述の記者とのやり取りでも分かるように、非を認めようとせず、都合が悪くなると「市教委と話せ」で身をかわした。こうした人物が教育次長や校長をつとめているからこそ、鹿児島でいじめの隠蔽が横行しているのではないか――記者の、率直な思いだ。

 三つめは、いじめが起きた2年生のクラスの担任が、「教育研究校」に指定されている伊敷中の研究主任で、活動ぶりが地元紙に取り上げられるなど県内でも知られた存在だったこと。しかし、元校長とのやり取りに出てきた通り、その担任のクラスは35名の内、3人がオアシス学級で自習。他に、5人もの登校拒否生徒がいたことが分かっており、その点については市教委も認めている。寺園元校長は否定したが、学級崩壊は事実だろう。驚いたことに、その担任教師は、自分のクラスの学級崩壊には向き合わず、毎日せっせと学級通信を作って全国コンクールに応募、表彰されていたというのだから話にならない。いじめ被害を受け転校を余儀なくされた生徒とその家族が、どれだけ悔しい思いをしたか、立場を変えてみれば分かることだ。元担任には、自己顕示ではなく、自己研鑽を積めと申し上げておきたい。

 元教育次長が校長を務める代用附属。担任はメディアが取り上げる研究主任。そうした背景が、隠蔽につながったことは想像に難くない。代用附属の格を守るため――、元教育次長のメンツを守るため――、研究主任の名声を守るため――“いじめ”と学級崩壊の事実を葬り去ったという見立ては間違いではなかろう。もちろん、鹿児島市教委もグルだ。まさに「教育崩壊」。その証拠に、伊敷中のいじめ隠蔽に関する一連の配信記事をみたというある親子が、「いじめが隠蔽されていた」という告発メールを送ってきている。このシリーズは、まだ終わらない。

(つづく)

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