大石賢吾長崎県知事に迫る検察の捜査

「カネをもろたとねと(聞いているのか)? そうでなく預かっただけ。机の中になおしていたから1円も手を触れていない」そう話した男性の右手は小刻みに震えていた。(*なおす=“しまう”の意)

「どうかなと不安はあったが、使わずに置いておけば、万が一何かあっても問題がないと思っていた。だが、そうとはいかないようだ」と議会関係者の男性は観念したように天を仰いだ。

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2022年2月に行われた長崎県知事選で初当選した大石賢吾知事の「政治とカネ」を巡る疑惑は既報の通り。すでに、元東京地検特捜部の郷原信郎弁護士と神戸学院大学の上脇博之教授が、選挙コンサルタントに支払った費用の問題を刑事告発しているが、長崎県議のA氏は「それはせいぜい事件の入口だろう。最大の焦点は、選挙買収だ。その証拠にハンターが選挙買収の記事を配信した直後、県議会は騒然としていた」と話す。

買収があった可能性は高く、冒頭で語った議会関係者の男性はハンターの取材に対し、2022年2月の知事選の際、大石陣営の最高幹部からカネを受け取ったことについて次のように話してうなだれた。

「3か月ルールというのがあって、選挙の3か月前と3か月後は一切、金品は受け取ってはいけない、公職選挙法違反の買収になるという決まりがあることは知っている。だが、『これ、これね。頼むよ』と選挙直前に自民党の県連幹部から押し付けられ返せなかった。カネには関係なく大石知事を応援するつもりだった。カネは置いておけば、使わなければ買収にならないと思っていたのだが、これほどの騒ぎになれば広島の河井克行のような事件になるのはもう覚悟はしておる」(前出・議会関係者)

大石知事に持ち上がっている「政治とカネ」の問題は三つ。まず、選挙コンサルタントの大濱﨑卓真氏の会社に支払った402万円と、ごうまなみ県議の政治団体「ごうまなみ後援会」から大石知事の支援団体「大石けんご後援会」が借り入れたとして政治資金収支報告書に記載した286万円の件。

次が、大石知事本人が大石けんご後援会に「寄附」していた2,000万円が「貸付」と変更され、一部は返済を受けていたとされる件。そして三つ目が、議会関係者の男性が告白した公職選挙法違反事件につながる選挙買収だ。長崎地検は、すでに九州各県の検察庁から応援検事を求め、捜査に乗り出している。

選挙買収は、大石知事と長崎県議会だけではとどまらず、首長や市議、元県議にも波及している模様だ。今後、長崎地検が事情聴取するとみられるのが大石知事に加え知事選当時、自民党県議だった山本啓介参議院議員の名前が浮上している。

「すでに取り調べを受けた県議や市議、その秘書、会計責任者らからは『長崎地検は、カネをばらまいたリストをすでに入手済み』という話も聞かれる。7月10日に長崎県議会が終了。そこから9月の議会までの間に事件が一気に動くのではないのかと見られる。大石知事は7月終わりにスイス・ジュネーブへの外遊日程が入っていたが、急遽取りやめた。7月17日に知事が各派代表者会議で疑惑について説明するそうだが、長崎地検の動きを封じ込めるための時間稼ぎだろう」(長崎県議のB氏の話)

大石知事は、県議会や長崎地検の捜査に備えて《【発言メモと想定問答】案》という書面を作成。それが長崎県政界関係者などに出回っており、ハンターもそれを入手した。286万円の迂回献金疑惑については――《私の後援会としては「選対本部長の後援会からの財政的支援」との認識であり、(医療法人からの)いわゆる迂回献金ではない》。

寄付を貸付にしたとみられる2,000万円の疑惑については――《自己資金の2,000万円が選挙運動費用収支報告書と後援会の収支報告書に2重に計上されていることがわかりました》として虚偽記載を認めた上で、その対応として2,000万円は選挙資金の寄附として、選挙運動費用収支報告書と大石けんご後援会の政治資金収支報告書を訂正するとある。

また、大石知事は郷原弁護士などによる刑事告発後に、アドバイザー役を務めたという沖縄県那覇市の会社経営者K氏という男性が後援会の銀行口座からカネを引き出したことについて「(了解なくカネを引き出したことを)県警察に情報提供し、相談している」と7月9日の記者会見で述べ、法的措置に出る模様だ。

だが、大石知事は自身の疑惑について、「精査している。全てをまとめて報告するので時間がかかる」と2年以上も前の知事選のカネの流れを今も説明できないという体たらく。7月10日の議会最終日、答弁に立った大石知事が「精査をしたい」と語っている最中に、長崎県政記者クラブに「告発状」が送信されてきた。K氏が、先手を打つかのように大石知事を刑事告発するというのだ。大石知事が後援会から655万円を不正に受け取った業務上横領容疑が記されている。

「大石知事は相当焦っている。つい最近も選挙コンサルタントの大濱崎氏や自民党の裏金事件で議員辞職を余儀なくされた谷川弥一氏と密談していたとも噂が流れた。県庁の職員によれば、大石知事に話しかけても上の空で、県政の最高責任者としての役割を果たせるような状況にない。Xデーが近いのか」と長崎県議のC氏。

大石知事の関係者によれば「K氏という男は、以前はMという名前だった。Mという名前で経済事件を起こしたことがあり、裁判でも有罪になっている。ネット検索でもすぐわかる。知事たるものが、そういう人物にアドバイザーを任せるというのでは、県民は不信感を抱くのではないのか」とあきれた表情。

大石知事の「Xデー」が先かそれとも辞任なのか、長崎県政が緊迫の度を増している。

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