鹿児島県医師会職員強制性交事件「検察官送致」の背景|問われる医師会と県警の責任

新型コロナウイルス感染者の療養施設に派遣されていた鹿児島県医師会の男性職員(昨年10月に退職。以下「被疑者」)が強制性交の疑いが持たれる行為に及んでいた問題で、鹿児島県警鹿児島中央署が9日、被疑者を強制性交の疑いで鹿児島地方検察庁に事件送致(送検)。「合意はなかった」として告訴状を提出していた被害女性の訴えが、ようやく実った。

事件が表面化する前の段階で県に対し「強姦と言えるのか疑問」「警察が事件性はないと言っている」などと主張、でっち上げの調査報告書を知事あてに提出した日の記者会見では、県民に向かって「合意に基づく性行為」と断言した池田会長と顧問弁護士の人権無視の暴走行為が、厳しく問われる事態となった。

■遅れた送検、被疑者の父親は現職警部補

事件化されたのは、2021年夏頃、被疑者が新型コロナ療養施設に派遣されていた女性看護師を職務にかこつけて自室に連れ込み、複数回にわたって強制性交に及んだとされる件。告訴状提出から1年半経って、ようやく事件送致が実現した。

鹿児島県警鹿児島中央署は、昨年1月に告訴状を持参した被害女性の訴えを門前払い。女性の弁護人が強く抗議したため告訴状を受理したが、のらりくらりの対応で事件送致を遅らせていた。

この間、県医師会の池田琢哉会長と同会顧問の新倉哲朗弁護士(和田久法律事務所)が記者会見で、被害女性の人権を無視して「合意の上での性行為だった」と断定。警察・検察の結論を待たずに事件捜査の素人が結論を出したことに対し、県はもちろん医師会内部からも疑問視する声が上がっていた。

事件送致を渋る県警の姿勢に批判が強まる中、今年3月8日に参議院予算委委員会で、5月25日には内閣委員会で、立憲民主党の塩村あやか議員が国を追及。この質疑の中で警察庁刑事局長は、「(性被害の)要件が整っていればこれを受理し、速やかに捜査を遂げて検察庁に送付する」としたうえで、「被害者の立場に立って対応すべきで、その際は、警察が被害届の受理を渋っているのではないかと受け取られることのないよう、被害者の心情に沿って対応するよう指導している」と答弁。事件送致の遅れが、鹿児島県警内部の問題であるとの認識を示していた。

さらに先月、事件発覚前の段階で、被疑者とともに「警察に相談」(池田医師会長の県への説明)して「事件性なし」(同)との見解を引き出したとされていた元男性職員の父親の「元警察官」(同)が、再任用され鹿児島中央署に在籍していたことが判明。被疑者の父親が、一定の捜査権限を有する警部補=司法警察員だったことも明らかとなり、事件の“もみ消し”を図った疑いが浮上した。

■県警本部の異常な対応

ハンターの記者は今月5日、県警本部を訪問。被疑者の父親の警部補が息子が起こした事件に不当介入したこと、さらには県警がこうした事実を知りながら組織ぐるみで事件送致を遅らせた形になっていることについて「監察対象」であるとして監察官への面会を求めた。

受付では記者であることは告げず、「警官の不適切行為について監察官に話をしたい」と申し入れていたにもかかわらず、「記者の方ですか?」と言いながら出てきたのは何故か「広報」を名乗る職員。記者の抗議を受けて次に出てきたのは「総務部総務課」の警部と警部補で、話を聞き置くというふざけた対応だった。監察官は、面会を求めたのがハンターの記者と知って、この不祥事についての言質を取られることを嫌ったものとみられる。

『犯罪捜査規範』は、捜査の基本として《捜査を行うに当っては、個人の基本的人権を尊重し、かつ、公正誠実に捜査の権限を行使しなければならない》(第2条)と規定。第14条の『捜査の回避』という条文には《警察官は、被疑者、被害者その他事件の関係者と親族その他特別の関係にあるため、その捜査について疑念をいだかれるおそれのあるときは、上司の許可を得て、その捜査を回避しなければならない》とあるが、息子大事の現職警部補と中央署の公正を欠く行為によって被害女性の「基本的人権」は無視され、事実上「捜査の回避」も行われていなかった。

ちなみに警察が事件送致するにあたって付す意見は、起訴を求める「厳重処分」、検察官に判断を委ねる「相当処分」、事実上起訴猶予を求める「寛大処分」、嫌疑や証拠が不十分とみなされる場合の「しかるべき処分」の4段階。ある警察関係者は、次のように鹿児島県警を突き放す。
「警察庁から催促され、さらには被疑者の身内が捜査に関与したことがバレた手前、あわてて送検はした。だが、“厳重処分”を求めるとは思えない。警察官の身内が強制性交で起訴されて有罪にでもなれば、これまでの捜査姿勢が糾弾されるのが必至。被害者を門前払いにしたのが『もみ消し作戦A』だとすれば、その失敗を受けての『作戦B』は、処分意見を「寛大処分」か「しかるべき処分」にすることだろう。だが、検察は警察の風下に立つことを嫌うため、処分意見を無視する場合も少なくない。これまで提出されていなった証拠が出たり、報道が増えたりすれば、簡単に不起訴とはいえなくなる」

■池田医師会長への辞任勧告

県医師会の池田会長は、県の担当課に対する説明や医師会内部の会議で「合意の上での性行為」という自説を再三披露。医師会内部の調査委員会が、いいようにでっち上げた調査報告書を県に提出した日の記者会見では、医師会顧問の新倉哲朗弁護士とともに「合意の上での性行為」だったと断定し、被害女性に二重の苦しみを与える形となっていた。

医師会側の一連の主張は、すべて捜査が始まる前に発せられたもの。『合意に基づく性行為』を連発した県医師会の会長や幹部、さらには顧問弁護士の主張が、ここに来て否定された形となったのは確かだ。被疑者を庇うことで自分たちの保身を図ったのだろうが、性暴力をうけた女性の苦しみや人権を無視した、人として最低の暴走行為だったと言われても仕方があるまい。県医師会における『池田体制』の継続を狙って事実をねじ曲げた責任は、池田氏が会長職を辞任してとるべきだろう。

(中願寺純則)

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