暴行犯の自民党員を証人に|道警がヤジ排除訴訟控訴審で驚愕の主張

2019年に札幌で安倍晋三総理大臣(当時)にヤジを飛ばした複数の市民が警察に排除された事件。排除被害者2人が起こした国家賠償請求訴訟で全面敗訴した道警が、当時の演説現場が「危険な事態」にあったことを示す目的で、一審原告に暴行をはたらいたとされる自民党員を控訴審で証人に立てる考えを示していることがわかった。控訴審では道警側がその暴行の様子を撮影した映像も証拠提出される見込みで、これらの主張を知った一審原告らは「なぜ暴行犯を取り締まらず裁判に協力させるのか」「道警が自民党ベッタリだったことが改めて証明された」と強く憤っている。

■暴行の時効を待って証人申請

ヤジ排除国賠訴訟の一審で、道警は排除の根拠として「警察官職務執行法」を挙げていた。演説現場には多くの与党支持者が集まっており、一審原告らヤジを飛ばした市民との間でトラブルが起きる可能性があったため、これを回避したという理窟だ。具体的には、警職法4条に基づいて一審原告らを「避難」させ、また同5条により「制止」したという。しかし札幌地裁の廣瀬孝裁判長(当時)はこの主張を一蹴、本年3月の判決で次のように指摘することになった。

「多くの場面で、生命もしくは身体に危険を及ぼすおそれのある『危険な事態』にあったとか、『犯罪がまさに行なわれようとしていた』などと言うことはできず、警察官らの行為は国家賠償法1条1項の適用上、違法と言わざるを得ない」

たとえば道警は、JR札幌駅前で「安倍辞めろ」などと叫んだ一審原告の大杉雅栄さん(34)が何者かに身体を2度押された、などと主張していた。これが喧嘩などに発展するおそれがあったため、現場の警察官らがやむなく大杉さんを排除したのだという。だが地裁は、証拠提出された映像からはそうした行為が確認できないと認定し、先の違法判断に到っている。これを不服とした道警は本年4月に控訴を申し立て、争いが札幌高裁に持ち込まれていた。

今回あきらかになったのは、道警が先の何者か=大杉さんを2度押した人物=を特定し、一審での「危険な事態」を改めて主張し始めたというもの。一審原告の代理人・ヤジポイ弁護団によれば、その人物は当時の参院選で自民党候補の選対事務所に所属していた男性。道警はこの男性の証言をもって「危険な事態」を裏づけようとし、さらにその暴行が行なわれている様子を捉えた映像を証拠提出するというのだ。

排除現場で多くの動画を撮影していた筈の道警は、国賠の一審で一切それらを証拠提出していない。その道警がここに来て突然、自前の映像の存在をあきらかにし始めたのは、なぜなのか。

排除事件が起きたのは、2019年7月15日。まもなく発生丸3年となり、暴行罪の公訴時効が成立する。つまり道警は、自民党員が大杉さんの身体を押した暴力行為が刑事事件に問われなくなる時効成立を待ち、その上で映像を開示する考えなのだ。

仮に当時の「危険な事態」が証明されたとして、それで排除行為が肯定されるとは限らない。言うまでもなく、その場合は暴力行為に及んだ自民党員こそが咎められるべきだからだ。ところが現場の警察官は与党関係者の暴行を不問に附し、被害者である筈の大杉さんを力づくで排除した。あまつさえ、この期に及んで暴行の時効を待ち、罰せられるべき加害者を裁判の証人に、つまり味方につけようとしているのだ。

ヤジポイ弁護団や一審原告らがこれに大きく驚き、また憤っていることは、もはや言うまでもない。暴行被害者の大杉雅栄さんは「やっぱ自民党と結託してたじゃん」と呆れ、こう話す。

「道警は『安倍政権ないし自民党のために警察が違法な排除を行なった』という批判を表向き否定してきました。今回、僕に暴行してきた自民関係者の証言を提出したのみならず、その時効が成立してから『犯行現場』の動画を証拠提出し、さらには暴行犯を証人として呼ぶという方針を示しているわけですが、ここまで来ると道警と自民党がいかにベッタリな関係であるかを隠し切れなくなっている印象です。僕らヤジを飛ばした側は、警察に事情聴取すらされていない。もはや裁判の勝ち敗け以前に、彼らが癒着しているという結論が出ています」

もう1人の一審原告・桃井希生さん(26)も、道警のなりふり構わぬ立証姿勢に驚きを隠さない。

「自民党関係者による暴行の事実について、むしろ堂々と主張し、さらに警察が積極的に時効待ちをするということに驚いた。自分たちの正当性を主張するためなら倫理に反するようなことも平気でする組織だということを、これでもかというほど示していると思います」

国賠一審では、匿名の「ヤフーコメント」を多数提出したり、原告側が証拠提出した映像を加工して立証活動に利用したりといった道警の迷走が、たびたび傍聴席を失笑に満たしていた。だが控訴審での驚くべき主張は、もはや笑っていられない域に達している。24日付の配信記事で指摘した通り、道のトップである知事が裁判に関与せず、また警察を監督する立場の公安委員会がまったくチェック機能を果たさなくなった今、司法は道警の暴走を止めることができるのか。控訴審の行方が注目される。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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