30台のノートパソコンを不正に購入し、真相を隠すために入札を偽装。さらにその件に対する情報公開請求をごまかすため、存在していなかった決裁文書を偽造するという犯罪行為を行った淡路島の公立中核病院「兵庫県立淡路医療センター」。兵庫県が作成した説明資料(⇒参照記事)の記述は、信用できない“言い訳”ばかりだった。
■「官業癒着」の疑い
県が作成した説明文書は、疑問点だらけだ。特に気になるのは、パソコン発注時点の状況についての次の一文である。
《経理課の担当は、原則として入札が必要な金額(総額160万円超)であることに気づかず、通常の物品調達の手続きで事業者A(年度最初に決定した事業者)へ30台分を発注するFAXを送信》
ここに出てくる(年度最初に決定した事業者)とは、30台のパソコンを納品した淡路市内のパソコン専門業者のこと。では、「年度最初」に、いったい何を「決定」していたというのだろうか――?
この年度の全てのパソコン調達が、30台のパソコンを納品した淡路市内の業者に決まっていたとすれば、別の問題が浮上する。特定業者との「癒着」だ。岩崎聖子経理課長(現在は別の課に異動)は、パソコンの見積りについて説明する中で、その業者との関係について記者にこう説明していた。
経理課長:あっ、あのー、これはですね、ちょっと、まあ、ノートパソコンって。ええっと、今回この契約自体は30台まとめての契約なんですけど。あのー、まあ、大体1台ずつ買うことが多いんですね。はい。で、あのー、年度の当初にノートパソコンの発注があった時に、一番最初に1台での見積もりっていうのを取るんです。それでまあ、掛ける30(台)が……。
平気で噓をつき、公文書まで偽造してしまう経理課長の説明を信用することはできない。だが、どうやら県の説明文書にある「年度最初に決定した事業者」とは、岩崎課長が言った「年度の当初にノートパソコンの発注があった時に、一番最初に1台での見積もり」を提出した業者ということのようだ。しかし、情報公開請求で確認したところ、淡路医療センターが昨年度の初めに業者からとったという見積書は不存在。「年度最初に決定した事業者」には何の根拠もなかったことが明らかになっている。「官業癒着」が疑われるのは当然だが、公表された経緯説明への信頼性も揺らぐ。
■次から次に犯罪行為
再確認しておくが、ありもしない入札を実施するとして作成され、業者に送信されたメールについては公文書偽造・同行使、嘘の入札結果を知らせたメールも同様に公文書偽造・同行使となる。また、入札偽装の過程で、淡路医療センターの職員が業者に対し「落札業者が決まっているので、予定価格以上で応札して下さい。でなければ、今後は貴社から何も購入しません」と脅しまでかけていたことも分かっており、これは明らかな強要だろう。業者を騙してムダに入札書を送付させていることから、偽計業務妨害も成立する可能性がある。
さらに、パソコン調達等に関するハンターの情報公開請求を受けた淡路医療センターは、一連の違法行為を糊塗するため昨年に遡る形で決裁文書を偽造しこれを開示した。開示実施にあたっては、実費をハンターに支払わせている。3度目の公文書偽造・同行使に加え詐欺行為まで犯したことになる。次から次への犯罪行為。役所仕事としては、異例を通り越して「異常」と言うべきだろう。
■膨らむ疑念
今回の取材を始めるにあたって、ハンターが兵庫県に開示請求したのは、淡路医療センターが令和2年度と3年度に結んだ100万円を超える契約(医療機器、薬品等を除く)に関する、契約書、仕様書、積算書、参考見積り、入札結果表、入札参加業者を決めた際の決裁文書、入札参加業者に送信されたメールなど。開示されたのは、次の5件の契約に関する文書である。
・電子カルテ端末への仮想ブラウザ構築「RemoteAPP拡張」の決裁文書と仕様書、契約書
・診療費支払機システムの決裁文書と仕様書、契約書
・院内LAN無線AP全館増設の決裁文書と仕様書、契約書
・インターネット系ネットワーク機器更新の決裁文書と請書
・ノートパソコン等の購入の決裁文書(不正が判明)
平気で入札を偽装した上、公文書の偽造を繰り返した淡路医療センターの開示資料を信用することはできないが、いずれの事案も「随意契約」だったことは確かだ。緊急性を要しただのと理由が並べられているが、ノートパソコン同様に不正な物品購入が行われた可能性は否定できない。こうなると、医療機器や薬品等の調達にまで手を広げて調べる必要がありそうだ。
県は徹底究明を約束しており、膿を出し切きることに期待するしかない。だが、事件発覚後に行った本件に関する2度めの開示請求によって、道のりの険しさが浮き彫りとなる。
(以下、次稿)