派閥のパーティー収入を巡る自民党の裏金事件で、世耕弘成衆議院議員と萩生田光一衆議院議員、さらには会計責任者などが刑事告発され、東京地検特捜部は不起訴にした。その判断を不服として、検察審査会に審査申し立てが出されていたところ、世耕氏と萩生田氏は「不起訴相当」となったが、世耕氏の資金管理団体「紀成会」の会計責任者及び萩生田氏の元政策秘書は「不起訴不当」と議決され、東京地検特捜部が再捜査に乗り出すことになった。
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「裏金議員」である世耕氏と萩生田氏は、ともに自民党から非公認とされたが、10月27日に行われた衆議院選挙では小選挙区で当選。その後、前述した2人の関係者の「不起訴不当」が発表された。検察審査会が影響を考慮して選挙前の公表を避けた格好だ。
世耕氏は、和歌山2区で二階俊博元幹事長の三男・伸康氏の比例復活も許さないという圧勝。「相手を比例復活させなかった結果には大変満足」と記者会見で豪語した。だが、世耕氏の関係者は「不起訴不当で検察の再捜査という報道を見て、とても世耕氏はあわてている。私も、周辺も不起訴不当となった会計責任者の名前を見て飛び上がらんばかりに驚いた」と話す。
関係者がなぜ、ただの会計責任者の名前に驚いたのかというと、不起訴不当になった政治団体「紀成会」の会計責任者が、元秘書のK氏とわかったからだ。
K氏というのはどのような人物なのか、それがよくわかる時事通信社の記事があり、以下に引用する。(*引用文中の●●はハンター編集部が修正。記事本文は実名)
《◎世耕経産相の秘書逮捕=タクシー運転手暴行容疑-警視庁 タクシー運転手を殴ったとして、警視庁中野署が、暴行容疑で世耕弘成経済産業相の政策担当秘書●●●●容疑者(60)を現行犯逮捕していたことが18日、同署への取材で分かった。同署は同日の送検後、●●容疑者を釈放。任意で捜査を続ける。認否は明らかにしていない。
逮捕容疑は、17日午前2時~同25分ごろ、東京都中野区のJR東中野駅前のロータリーで、タクシーから降車する際、運転手の男性の顔を数回殴った疑い。
同署によると、●●容疑者は当時、酒に酔っていたという。運転手が取り押さえ、通行人が110番した。運転手に目立ったけがはなく、乗車代金は支払われている》(2018年2月18日 時事通信社の記事より)
K氏は深夜に酔っ払い、タクシー運転手に暴行した容疑で逮捕されていたのだ。当時、経産大臣だった世耕氏はメディアに対して《「きのう本人が弁護士を通じて被害者におわびを伝えたところ、受け入れていただいて、示談が成立したという報告を受けた」と述べました》(2018年2月20日 NHKニュースより)という言葉から推測すると「起訴猶予」となったはずだ。
起訴猶予とは、犯罪事実は証拠上認められるが、示談などが成立して反省の情がある場合などに、検察が「起訴するにあたらない」と判断したもの。つまり、川村氏の「犯罪事実」は認められており、起訴されなかっただけという意味である。
神戸学院大学の上脇博之教授が検察審査会に提出した「申立書」には、《「紀成会」の会計責任者である被疑者●●●●は「起訴猶予」》とある。なんと●●氏は裏金事件でも「起訴猶予」で、タクシー運転手事件と併せれば、二度も「逃れている」人物である。前出の世耕氏の関係者は言う。
「ハンターの記事にもありましたが、世耕さんが俺は経産大臣だったとか、官房副長官だったとかと実績を強調して、衆院転出を記者会見で訴えた。当然、選挙にはカネがかかります。今年になって世耕さんは2回、政治資金パーティーを開催しましが、そうしたカネ作りを金庫番として長く取り仕切ってきたのが、タクシー運転手を殴った●●です。暴行事件の時、●●はカネを積んで示談に持ち込み起訴猶予となりましたが、犯罪を犯したのは事実。だから、世耕さんに近い関係者氏は●●を切ったと思っていた。そんな人物を引き続き会計責任者に据えていたことや裏金にかかわっていたこと、これは明らかに政治家としておかしいでしょう。周辺からも道義的な問題だと非難する声があがっています」
確認をすすめると、2019年10月18日付の「官報」。そこには「紀成会」の会計責任者が、前任者からK氏に変更になったとの記載がある。驚くことに、タクシー運転手暴行事件の後に、会計責任者に採用されていたのだ。事件を起こした人物に「金庫番」を任せるという、世耕氏の感覚は理解できない。
上脇氏の「申立書」には、《「紀成会」は2019年に(遅くとも12月31日までに)「清和政策研究会」から上記キックバックとして寄附金604万円を受領》とあり、K氏が会計責任者になった直後から、政治資金パーティーの売り上げからキックバックされた裏金を蓄積していたことがわかる。
「K氏は、誰のカネかよくわかりませんが、昔から赤坂あたりで飲み歩いており、酒癖が悪いことでも有名です。私自身が何度もそれを目撃しているので間違いない。豪遊の末にタクシー運転手を殴るなんて事件をやってしまったら、普通、秘書としては終わりですよ。それがK氏は、今回の衆議院議員でも世耕陣営で選挙戦を差配していた。疑問を感じますね」(前出・世耕氏の関係者)
世耕氏が裏金事件をどこまで反省しているの分からない。上脇氏の「申立書」にはこうもある。《被疑者1名(●●●●)が前載被疑事実につき、東京地検は、前記の政治資金規正法違反に該当し、当該被疑を起訴できる証拠があると判断したわけです。有罪にできる証拠があるにもかかわらず、東京地検が不起訴処分したのは明らかに不当です》、《資金管理団体「紀成会」の代表者である被疑者世耕弘成が同会計責任である被疑者●●●●及び同事務担当者である被疑者Xと共謀して行なわれたものとしか考えられないのですから、被疑者世耕弘成らについても、「起訴相当」の議決をしてください》
検察審査会の議決で判断が覆るのは「起訴猶予」と検察が判断した事件が大半だ。世耕氏の裏金は1,542万円と非常に高額。審査会の「議決書」は、《本件で判明している限りでも1,542万円の不記載となっており、一般市民の感覚からすれば極めて高額であるといえ、会計責任者としては刑事責任を負うべきである》、《その責任は重大で、悪質性は相当程度高い》と厳しい判断をしている。驚くべきことに、《被疑者●●自身が自白している》というくだりもある。東京地検特捜部は世耕氏への忖度をせず、厳正に再捜査をすべきだろう。