11月24日、愛知県名古屋市長選の投開票が行われ、衆議院選挙ではじめて議席を獲得した日本保守党の広沢一郎氏が、国民民主党などが推す大塚耕平前参議院議員に「20時当確」で勝利を確実にした。
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名古屋市長を4期務めた河村たかし衆議院議員のもとで副市長を務めていた広沢氏は、市民税減税など独自の路線を突き進む「河村後継」を前面に打ち出した。
一方、参議院議員当選4回、旧民進党代表、厚生労働副大臣などの実績に加え、国民民主党、立憲民主党、さらには自民党名古屋市議団や公明党からも推薦を受け、戦前の予想ではるかに有利とされていた大塚氏は広沢氏に“秒殺”で敗れた。
選挙戦終盤、国民民主党の玉木雄一郎代表は大塚氏と並んで名古屋市の繁華街で街頭活動。高松市の観光大使だった女性との「不倫関係」を認めている玉木氏は、「恥を忍んでここにやってきた」「個人的なことでお騒がせして、申し訳ない」と頭を下げた上で、大塚氏の支持を訴えた。
玉木代表の横で大塚氏は、「退路を断って市長選に打って出た。分断のない協調の名古屋市を」と演説。500人程度の人で埋め尽くされていた会場となった場所で、筆者は10人ほどの顔なじみに挨拶した。相手は、自民党や公明党、立憲民主党、国民民主党の関係者だった。
「大塚さんはまったく人気がない。そこに不倫スキャンダルの玉木さんだからよけいに人が集まらない。玉木さんが来てガラガラだと恰好がつかないからと大塚陣営から頼まれて来ただけだよ」と自民党の関係者。つまり「動員」だった。この日、ほとんどのメディアが、広沢氏の「20時当確」を検討しはじめていた。
一緒にいた別の自民党議員は、人が集まらない理由を「大塚さんはぼろ負けしそうなので、動員の演出でもないとよけいに集まらない。今になって危機感を煽るのもおかしなことだ。実績十分、組織もあるのに、なぜこうも弱いのか?国民民主党は自民党など与党にすり寄ったとか思えば、立憲民主党など他の野党とも話をするという。つまり、どっちつかず。中途半端なのは候補者本人も同じで、討論会をやっても『市長になれば意見を聞いて決める』というばかり。大塚さんに本気さが足りないことが有権者に見透かされている。国民民主党は来年夏の参議院選挙の候補者をまだ発表していない。大塚さんは市長選で負けても参院選に出るんだろう、という噂が絶えません。保険をかけながら『市長に当選させて』と訴えて誰が信じますかね」と舞台裏を明かす。
大塚氏を破った広沢氏は、河村前市長が打ち出した「減税」「市長給与800万円、退職金ゼロ」「名古屋城復元」など中心となる公約を継承すると訴えていた。
こんなシーンもあった。広沢氏は、玉木代表が演説を終えた後、100mほど離れた場所で街頭演説を始めた。SNS上で告知されただけだったが、動員がなくとも200人ほどが集まる状況。演説後の広沢氏と河村氏とのスリーショットを求める市民が列をなした。斎藤元彦氏が再選された兵庫県知事選と似た状況だった。
広沢氏は勝因について、「自民党などのカネの力で組織を動かす選挙はダメだと兵庫県知事選でもはっきりしている。大きな組織も動員もなく、自転車で訴えて回る選挙戦を一貫してやってきたことが、当選に結び付いた」。二人三脚で広沢氏を支援した河村氏は「だいたい、名古屋まで演説に来ていきなり『恥を忍んで』と恰好悪いことをしたと党首が謝る。いくらプライベートなこととはいえ、国政政党のトップですよ。情けないわな。そういう党の候補者を、自民党から立憲民主党までが応援する。名古屋市は日本を代表する大きな街。実におかしな政治縮図が名古屋ではっきりした。大塚氏は『退路を断った』というのに、負けたら来年夏の参議院選挙に出るなんて話が出ること自体、国民民主党ってなんだ、推薦している自民党、公明党、そりゃおかしいぞと有権者が思っているはず」と振り返っている。広沢氏は当選後、公約の「給料800万円」を実現するため、「報酬審議会」に出席する予定だという。
衆議院選挙での自民党の過半数割れが、地方にも「浸透」しつつあることがはっきりした名古屋市長選。ある自民党幹部は険しい声でこう話す。
「大塚さんがここまでコテンパンに負けるとは、ただ驚きだ。自民党としても衆議院選挙、兵庫県知事選のあとなので、しっかりと力を入れたのだが、やはり過半数割れの影響が続いている」
国民民主党の幹部も「衆議院選挙で勝って上昇気流だったが、名古屋市長選の完敗、玉木代表のスキャンダルと急降下だ。玉木商店の弊害だ」とぼやく。
「ワシを含めて国会議員3人しかいない党が、SNSや自転車街宣などの地道な活動で、大きなカネを使わずに自民党や国民民主党を打ち負かした。この流れは国政に広がると思っている」という河村氏の指摘が、既成政党にはずっしりと響いているのではないか。