
次から次へと不祥事が続き、闇の深さに唖然とさせられる鹿児島県警。ブラック組織が手を染めてきたのは、「警察一家」が起こした事件のもみ消しや隠蔽だけではなかった。
情報漏洩を行ったとして国家公務員法違反で逮捕・起訴された本田尚志元鹿児島県警生活安全部長は、北海道のジャーナリスト・小笠原淳氏に郵送した公益通報文書の中に、改変前と後の「刑事企画課だより」を同封していた。組織にとって都合の悪い記述を修正して済ませようとした県警の実態を、県民に知らせるべきだと判断したからにほかなるまい。歪む一方の警察組織の姿勢を戒める意味があったとみられる。
■発端は「強制性交事件」
2023年、ハンターは同年10月2日付で県警刑事企画課が発行した「刑事企画課だより No.20」を入手(*下がその画像)。小笠原氏が県警を厳しく批判する記事を執筆した(⇒“鹿児島県警で組織的隠蔽加速|捜査記録「速やかに廃棄」指示”)。


ハンターが入手した企画課だよりにはこう記されている。
《事件記録の写しは、送致(付)した事件全てで作成し、保管する必要はありませんので、写しを作成する前に、その必要性を十分検討しましょう》
《現に保管している事件記録の写しについても、保管の必要性を適宜判断し、保管の理由が説明できず、不要と判断されるものは速やかに廃棄しましょう》
事件記録とは、『犯罪事件受理簿』や『事件指揮簿』などの公文書を指すものと解するのが普通。県警はそれらの“写し”を「作成、保管する必要はない」と一方的に断じ、『速やかな廃棄』を指示していた。理由は《再審や国賠請求等において、廃棄せずに保管していた捜査書類やその写しが組織的にプラスになることはありません!!》。つまり、再審や国賠訴訟で不利になりそうな文書は残すなという意味だ。
この時の情報提供の背景には、鹿児島中央署による不正としか言いようのない事件捜査があった。経緯はこうだ。ハンターが2022年から追及していた鹿児島県医師会の男性職員(2022年10月に退職)を被告訴人とする強制性交事件で、鹿児島中央署が被害女性の告訴状提出を拒否。門前払いするなど事件をもみ消そうとした動きが露見する。訴えられた男性職員の父親は、元中央署勤務の警部補。事件が表面化する前に親子そろって中央署に出向き、「合意に基づく性行為」を主張していたことが分かっている。筆者は、一連の不当捜査を「おかしい」と思った関係者がいて、上掲の「刑事企画課だより」をハンターに提供してきたと考えている。
この強制性交事件については、立憲民主党の塩村文夏参議院議員が23年6月に国会で警察庁を追及。鹿児島中央署の姿勢を厳しく批判した。同年10月に出された問題の刑事企画だよりNo.20に記されていたのは、あたかも被害届の提出意思が確認できない場合は相手にしなくてよいと受け取れる内容。裏返せば、「被害届を出させるな」と言っているようなものだ。当該文書の情報提供者は、強制性交事件における不当捜査を疑っていた可能性がある。
そして本田元生安部長は、ハンターが配信した鹿児島県警を巡る一連の記事を読み、別の意味で問題の刑事企画課だよりに注目していたと考えられる。
■実は4ページだった「刑事企画課だより」
本田元生安部長が直接小笠原氏に郵送した文書の中にあったのは、前出の刑事企画課だよりNo.20とその後に出されたNo.23の、それぞれの表と裏の計4ページ。このページ数については一度も報じておらず、本田元生安部長を逮捕した鹿児島県警も「4ページ」という事実は、いまだに知らないはずだ。
実は、ハンターに送信されてきた公益通報文書の画像のうち、NO.20の2ページ目がたまたま未送信になっていたというのが真相。ハンターに家宅捜索をかけた県警が事務所にあったパソコンから違法に入手した刑事企画課だよりは、3ページ分だけだった。県警は公益通報文書の全てを掴み切れないまま、本田元生安部長を逮捕したことになる。“いい加減な証拠で立件した”と言っても過言ではあるまい。
では、告発に及んだ本田元生安部長は、何を伝えたかったのか――。まず、本田元部長が郵送したNo.20の1ページ目を下に示す。彼が青い蛍光ペンで「No.20」を囲んだのは、後述する「No.23」と比較するよう促す意味があったとみられる。アンダーラインが引かれているのは冒頭の2行(*下の画像参照)。県警は、この記述を“まずい”と思ったのだろう、No.23ではこの2行だけを削除していた(*No.23の画像参照)。

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刑事企画課だよりNo.20に記されていた《「被害届の即時受理」は、被害届を出さないと言っているものまで受理することを求めているものではありません。》は、“相手に被害届を提出する意思がないと判断すれば、無理に事件化する必要はない”と読み取れる内容。警察は被害届の提出を拒むケースが多く、これを推奨した格好だ。つまり、「被害届を出させるな」と指示しているようなもの。No.20の記述内容をハンターに批判された県警は、No.23でわざわざこの一文を削除していた。
■霧島ストーカー事件との関連性
ただし、本田元部長が見据えていたのは、強制性交事件ではなく前回の配信記事で詳述した霧島署員によるストーカー事件。同署の警察官が、駐在所の巡回連絡簿から不正に入手した女性の個人情報を使ってストーカーしていたこの事件は、当初強い処罰感情を抱いていた被害者を、県警本部と霧島署の複数の警察官が説得し、《事件化を求めない意向》《法警告や禁止命令と言った行政措置についても求めない意向》を示させていた。
「被害者が事件化を求めない」と「被害届を出さないと言っているもの」は同義。本田元生安部長は、警官が起こしたストーカー事件を、「事件化を求めない」と言わせる形で事実上のもみ消しに走った警察組織に、危機感を抱いていたということだろう。(つづく)
(中願寺純則)















