今回、記者の知人の紹介により、ヤミ金で働いていたという岸田さん(仮名・30代男性)からリアルな実態を聞くことに成功した。
取材に応じる条件として、完全に個人が判らないように記事にすることと、今後の連絡を絶対にしないことが条件だった。
働いていた時期は約15年も前になるそうだが、悪徳消費者金融のリアルな実態を取材したのでご覧頂きたい。
詐欺グループの事務所はころころ変わる
記者
まず最初に、なぜ今回、取材を許可して頂いたのか教えてください。
岸田
7年という詐欺の時効が成立しているのと、一番の理由は15年も経って未だに罪悪感を抱えているので、実態を発信してもらうことで罪滅ぼしというか・・・
記者
贖罪という意味ですね?
岸田
そうですね。被害者が一人でも減ってくれれば意味があるかなと思いまして。
記者
当時、働いていた時期と場所を教えてください。
岸田
時期は2005年あたりです。高校を卒業した後に、大手自動車メーカーを3か月で退職し、数年は地元の自動車整備会社に勤務していました。3年以上は続いていたのですが、同じ高校の友人から「月収50万以上の楽な仕事がある」と誘いを受けて、ヤミ金で働くようになりました。地元は東京の23区外で、ヤミ金で働いていた場所は・・・バラバラですが基本的に区内です。
記者
バラバラということは、岸田さんはヤミ金会社をいくつか転々としたということですか?
岸田
いえ、一つの会社です。会社というか、法人登記はもちろんしていないので、組織という考え方がいいですね。働く場所がバラバラとは事務所がしょっちゅう場所を変えるので。
記者
何故?どのくらいの期間で変わるんですか?
岸田
ガサが入るからです。入る前にはほぼ必ず情報が来ます。期間は長くても半年くらい。僕がいた頃は1週間で事務所が変わったこともありました。
記者
ガサ入れの情報はどこから来るんですか?
岸田
僕たち下っ端は知りませんが、上司の話によると警察の一部と繋がっているから調査が入るたびにすぐに連絡が来ると言っていました。本当かどうかは分からないですけど。
記者
犯罪組織に情報を流しているとなれば、愛知県警の窃盗団との癒着が記憶に新しいですね。
岸田
僕はそれは分かりませんが、本当のような気がします。事務所をいちいち引っ越しするのは、お金もかかりますし、実際に絶対捕まらないんです。
記者
そもそも不動産屋さんがよくもまぁそんな危ない組織に頻繁に賃貸契約を許可しますね。
岸田
賃貸契約は僕を誘った友人が担当だったんで聞きましたが、ヤミ不動産屋というのがあり、毎回そこを使っていました。
驚きの仕事内容が明らかに
記者
岸田さんが当時担当していた仕事内容を教えてください。
岸田
僕が担当していたというよりも、全員が担当していた仕事ですが、電話がかかってくるのをひたすら待つという感じです。電話が来たら、いくら貸して欲しいかよりも先に個人情報を聞き出します。嘘が多いので、生年月日を聞くと干支と星座を聞いて、すぐに答えられなければ嘘を付いていると判断します。手元に年代別の干支と日別の星座の表みたいなのがあって、それで分かりますが、2か月くらいやっていると大体覚えましたね。んで、一番重要なのが職場の情報です。あと家の固定電話の番号と、家族の電話番号も聞き出します。当時は今みたいにホームページを持っていない会社も多かったので、僕とは別の人間が職場に直接電話して「○○さんいますか?」と聞きます。本人は僕と通話中というか、保留の間に確認の電話をしているので、実際に会社に在籍していれば「離席中」とか「お休みです」とか返事になります。それで職場の確認をとって、いくら貸して欲しいかを聞きます。
記者
なるほど。身分を確かめるというよりも、電話をかけてきた人の周りを固めるって感じですね。
岸田
そうですね。職場や家族を詐欺グループに抑えられると、返済の意思は高くなるというか、強くなるという心理的な部分を抑え込むためです。
記者
そもそも、なんでその組織に電話がかかってくるんですか?広告とか出せないだろうし、頻繁に事務所を引っ越ししていたら固定電話や0120などの番号は使えないでしょう?
岸田
携帯電話にかかってきます。固定電話はありません。広告はもちろん出せないので、当時は電信柱とかに「お金貸します」みたいなのがあったと思いますが、それだと思います。ヤミ金は090で始まる番号が受付になっているのは、引っ越ししまくるために固定電話が引けないからです。もっと大きな組織は、拠点にフリーダイヤルの固定回線を引いて、転送して携帯電話で受信していたと聞きました。とにかく、「どこでウチを知りました?」とかはいちいち聞かないので、どんなルートで電話がかかってきていたのかは憶測でしかありません。
記者
そんな危なそうな会社なんだったら、そんなに電話は来ないのでは?
岸田
多くの企業が毎月25日に給料日を設定しているので、25日以降は暇です。25日に近づくにつれて電話の件数は増えますね。暇なときはみんなニンテンドーDSをやったりカードゲームをやったり、自由な環境でした。
記者
それで、多い時でどれくらい電話はかかってきたのですか?
岸田
電話を受ける人数は4~5人です。全員が電話対応していることもあったし、1人の応対に5時間以上も電話していることなんてザラでした。多い時で一日10件程度じゃないですかね。
記者
10人のうち、何人に融資しますか?だいたいで。
岸田
融資は一切しません。
記者
え?
岸田
職場や個人情報がハッキリと分かると、まず「口座の確認と返済意思の確認」という名目で1万円振り込みます。被害者の方は、口座に1万円が入ると、「1万円入っているのを確認しました」と電話してくるので、「では、その1万円に手数料を付けて15,000円。弊社の口座にご入金ください」と言います。その後に希望する金額を貸してもらえると思っている被害者の方々は、すぐに15,000円を入金します。そして、こちらから再度電話して「○○さん、困ります。15,000円が手数料です。25,000円にして振り込んでください」と言って、そんな感じで適当な文句をつけて無限にお金を振り込ませるんです。
記者
それは恐ろしい。そもそもお金のない人から無限にとれますか?
岸田
職場や家族を知られているので、被害者の方はもう言うことを聞くしかない状態になりますね。車を売らせたり、知人や友人に借りさせたり、ありとあらゆる手を使って「今度こそ最後だ」と思わせながら何度も振り込ませます。
記者
最初に1万円を振り込んで、そこから何十万もむしり取るんですね?
岸田
何十万で済めばいいほうかもしれません。担当は僕ではなかったのですが、7,000万円ほど振り込んだ会社の社長もいました。
記者
本当に悪質だ。全てにおいて悪質・・・。1万振り込んで完全に逃げられるケースはないんですか?
岸田
今考えれば物凄く反社会的なことをしていたなぁと。逃げられるケースと言えば、内情を知る人間か、同業者がたまにそういうことをしてきます。それは、組織としては仕方ないと思っています。
記者
組織の口座や携帯電話の番号から身元を割られる心配はなかったのですか?
岸田
口座や電話番号もヤミ組織から購入していたそうです。当時は今ほど振り込め詐欺は横行していませんでしたし、口座や電話番号は安くで取引されていたと思います。今もそういうヤミ組織があるのかはわからないです。携帯電話は30台以上あったし、振り込ませる口座は毎回変わります。ほとんど個人名の口座ですが、たまに飲食店の名前や法人名の口座もありました。
常人なら精神的に続かない仕事だった
記者
実際に働いて、給料は良かったですか?
岸田
1ヶ月で何億円も売り上げることもありましたし、安定してよかったと思います。勤続年数や歩合もありましたが、100万を超えることもありました。
記者
被害者が電話越しとかで怒ったりすることもあったでしょう?
岸田
被害者はこっちを怒らせるのが怖いので、泣く人は多いでした。女性は早い段階で泣くので、電話が長くなったりします。
記者
何か印象的な被害者はいますか?
岸田
電話中に本当に精神が崩壊してATMの前か銀行で奇声を上げ続ける方がいました。そのときは怖くなって切りました。あとは、土地を売却するためにもう少し待ってくれと言われて、逃げられたと思ったら本当に入金されていたケースなどもあります。他には・・・印象的なことで言えば、テレビで詐欺集団が捕まったニュースをやってて見てたら、以前使っていた事務所が映っていたこともありました。実際に僕たちのグループを追っていたら、あとに入居したその集団が摘発されたんじゃないかと思います。とても申し訳なくなりましたが、被害者の方のほうが辛い思いをしているという意識はありました。
記者
先ほどから岸田さんの受け答えを聞くと、とてもそういう悪いことをする人には見えない。
岸田
そう言ってもらえると・・・当時はまだ20代前半でしたし、僕は両親がいないので失うものがない怖さがあったかもしれません。でも、本当に嫌でしたよ。給料は欲しい時にもらえたので、お金のためだけに我慢してやっていましたね。
記者
一緒に働いていた誘った友人はどんな方ですか?
岸田
根っからの不良で、人の痛みを知らないような人間でしたが、中学校から一緒だったので仲良くしていました。僕がその仕事を辞めた時は幹部候補と言われていたので、あっちの世界にどっぷり浸かってしまったと思います。もちろん、今は連絡とっていません。辞めてからはしばらく仲良くやっていましたが、僕が普通の会社に入ってからはだんだんと疎遠になりまして。
記者
よく普通の会社に戻れましたね?
岸田
そうですね。ヤミ金は実際に1年も続かなかったので、生活水準は特に変わりませんでした。普通の会社って給料安いけど、俺って立派だなぁと思いながら仕事は続きました。
記者
いま、被害者の方に声をかけるとしたら?
岸田
僕には大した貯金はありませんが、全て差し出しても良いと思っています。僕が直接かかわった証拠はないので、実現することはありませんが、本当にそう思っています。
記者
今後、被害者を減らすために必要なことは何かと思いますか?
岸田
んー・・・・・分かりません。詐欺の実態を多くの人たちに知ってもらうこと、ですかね。この取材がそのきっかけになればいいですが、記事が注目されて僕の身元が犯罪組織にばれるのも怖いです。でも15年前なので大丈夫ですよね?
記者
それは分かりませんが、しっかり記事にしますよ。逮捕されるよりも犯罪組織にバレるのが怖いですか?
岸田
そうですね。当時と今では組織の人間もガラッと変わったとは思いますが、怖いですね。
記者
岸田さん、あなた最初に「7年の時効が成立したから取材に応える」と言いましたよね?矛盾してますよ。
岸田
逮捕されたら本名が報道されて、その組織にもバレるじゃないですか。まぁ、どっちも怖いってことです。すみません。
記者
いえいえ、意地悪な質問をしてごめんなさい。最終的な確認ですが、録音させて頂いた取材の内容は記事にします。いいですね?
岸田
仮名は絶対お願いします。あと、僕の容姿や特徴は絶対に書かないでくださいね。
取材の感想と詐欺を撲滅させるために必要なこと
取材を通してあまりに衝撃的なことが多すぎて事実かどうかを判断するのが難しいと感じた。しかし、しっかりと受け答えができていたので、直感で本当の事だと思う。
15年も前の話とは言えど、現在も似たような詐欺事件はあるだろうし、形を変えながらそういう組織は間違いなく存在している。変わっていないのは、実行犯は組織の下っ端が行っているということだろう。
まだ20代の善悪の判別が難しい(精神的に大人になれていない)青年をターゲットにして、報酬を見返りに大きな犯罪に手を染めさせる。もちろん、やる方も人として最低だが、組織がなくなれば詐欺事件も減るのではないだろうか。
騙される側の私たちに必要なことは、こういう実態を多く知ることだ。ヤミ金だけではなくオレオレ詐欺など多種多様化した昨今の犯罪を、私たちメディア側が数多く報道しなければならないと強く思った。