鹿児島県警の情報開示請求への対応を県の第三者機関が審査していた問題(既報)で、当初の不開示決定(存否応答拒否決定)を取り消すべきとした同機関の答申を受け、県警を管理監督する県公安員会(石窪奈穂美委員長)が11月20日付で問題の拒否決定を撤回する裁決に到った。県警は改めて文書の開示・不開示の決定をやり直すことになるが、すでに審査請求(不服申し立て)から1年以上、もとの開示請求からは1年半以上の時間が過ぎており、警察官らの法令違反が適切に捜査されていたかどうかの問題は今なお検証不可能な状態が続いている。
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既報の通り、筆者が鹿児島県警に開示を求めていたのは、同県警で記録された不祥事(懲戒処分、監督上の措置)のうち法令違反にあたるとみられる事案の捜査の記録(事件指揮簿など)。開示請求は昨年3月13日付で、これに県警が「存否応答拒否決定」を出したのがおよそ2カ月後の5月8日。当該文書が存在するかどうかを明かさずに開示を拒否するという対応に納得できなかった筆者は、さらに2カ月を経た7月23日、同決定を不服として県公安委に審査請求を申し立てた。公安委は8月9日付でこの件を県の第三者機関に諮問(意見伺い)、これを受けた県情報公開・個人情報保護審査会(野田健太郎会長、委員5人)は1年以上が過ぎた本年9月27日、筆者の不服申し立てを認めて県警の開示のやり直しを促す方針をまとめるに到る。10月17日付で文書にまとめられた答申は、同22日までに当事者双方へ通知されたところだった。
今回、県公安委が筆者と県警とに示した『裁決書』によれば、審査会答申後に公安委としての結論を出したのは11月20日のこと。同書には極めて簡潔な「主文」が記されていた。
《処分庁が、審査請求人に対して行った本件処分を取り消す》
審査会は飽くまで諮問機関で、答申には法的拘束力がないが、公安委としてはこれに抵抗する合理的な理由を得られなかったとみられる。いわゆる個人情報と公安情報とを存否応答拒否の根拠とした県警の主張は誤っていたとし、審査会答申とほぼ同じ理屈で処分の取り消しを決めた形だ。この裁決には拘束力があり、県警はこれに従わなくてはならない。ただ処分取り消しから改めて開示・不開示決定に到るまでの時期的な目安は明文化されておらず、県警の担当課によれば県の事務取扱要領には「すみやかに」との定めがあるのみで、具体的な期限は決まっていないという。
請求人としての筆者の問い合わせに、県警の担当者は「要は振り出しに戻る、つまり請求時点からの手続きに戻るということ」と説明。これに従うならば、今後いずれかの時点で県警が筆者の開示請求を改めて“受理”したとの想定で作業を進め、そこから通常の開示期限(原則15日間以内)を費やして開示・不開示を決めることになる。場合によっては、もとの請求時もそうだったように期限の延長が決まる可能性もある。
言わずもがな、公文書は役所の所有物ではなく、納税者たる国民の財産。正当な手段でその開示を求める申し立てへの結論が1年半以上も示されず、なお開示時期の見通しが立たない――。鹿児島県警が当初の請求に正しく対応していれば、筆者も審査会も公安委も、そして県警自身も余計な時間と手間をかけずに済んだ筈なのだが……。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |