パワハラや「おねだり」で窮地に立たされている兵庫県の斎藤元彦知事だが、そうした事実の内部告発をした元西播磨県民局長のW氏が亡くなって、まもなく1か月になる。また、プロ野球・阪神タイガースとオリックスバファローズの優勝パレードにおける寄付金集めの担当だったH課長が3か月前に死亡していたことも、県庁内限定のネットワークで公表されている。
さらに、「ひょうご震災記念21世紀研究機構」の前理事長・五百旗頭真氏が今年3月に亡くなった件に関する内部告発には、《お亡くなりになられた日の前日ですが、斎藤知事の命を受けた片山安孝副知事が五百旗頭先生を訪問。解任についての通告です。相談ではなく、通告です》、《嫌がらせ以外の何ものでもありません》と斎藤知事のパワハラが「起因」となったかのような記述があった。これも事実なら、兵庫県知事絡みで3人が亡くなっているということだ。
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“牛タン倶楽部”とも呼ばれてきたのが、斎藤知事の側近4人組。そのうちの一人だった片山副知事は7月末で退任。内部告発にあった高級トースターの「おねだり」がバレ、兵庫県警から事情聴取を受けたことを県議会で認めたのは原田剛治産業労働部長だ。亡くなったH課長に「ノルマ達成」を強要していたとされるのが井ノ本知明総務部長。4人目が内部告発以降、バッシングに体調を崩しているという小橋浩一理事である。
W氏が文書問題調査特別委員会(百条委員会)に出した「陳述書」によれば、“牛タン俱楽部”の4人は《斎藤知事就任直後から「自分たちは別格、何をしても怒られない」と公言して憚らない》と斎藤知事の威光をバックに権勢を誇っていたという。ある兵庫県幹部がこう話す。
「片山副知事が斎藤知事の命を受け、3人にやらせるという構図です。なのに、片山副知事が真っ先に逃げ出し、斎藤知事との間のクッションがなくなった。直接話もできないので、残った3人ともほとんど県庁には姿をみません。精神的に参っているとも聞いています」
だが、肝心の斎藤知事は「県職員との信頼関係を取り戻して、県政を前に進める」というばかりで、関係者3人が亡くなり、“牛タン倶楽部”の4人が追い込まれていることが分かっていても、どこ吹く風と辞任する意思を見せてはいない。
「牛タン倶楽部の4人組は百条委員会での追及にかなりビビっている。しかし斎藤知事は、毎日のように選任した弁護士と相談しており、百条委員会対策にも余念がありません。“乗り切れる”と自信を持っていると聞いています」(前出・兵庫県幹部)
証人として求められそうな職員に対して兵庫県は、《百条委員会に関する各種服務について》という文書を発出。そこには《守秘義務免除の申請手続きを行う》という文言がある(*下の画像参照)。申請をしないと、県職員として守秘義務があり本当のことを証言できないというのだ。
「百条委員会からの質問内容が分からないと、何が守秘義務に該当するのかわかりません。しかし百条委員会がすべての質問内容を事前に通告することはない。ここでも斎藤知事の、パワハラで県職員を抑え込もうとする意図が透けて見える」(前出の兵庫県幹部)。
唯一の味方だった日本維新の会にも捨てられつつある斎藤知事だが、最後までパワハラで乗り切るつもりなのだろうか。
議会対策も引き受けていた片山副知事は、維新の県議団長岸口実県議(⇒参照記事)とのホットラインで調整にあたってきたという。百条委員会が開かれるにあたって、W氏が懸念していた公用パソコンのデータ開示を最後まで要求していたひとりが岸口氏。徹底的にW氏を追い詰める姿勢だと県議会では見られていた。
「斎藤知事は維新の県議団とは、話し合いや調整などしていない。そうした動きの大半を片山副知事が担っていたが、彼の辞任でその仕組みが崩壊し、斎藤知事と維新は満足に話し合いもできていない。維新は百条委員会でも徹底的に斎藤知事の擁護にまわっていたが、7月19日の百条委員会ではW氏が提出した陳述書などの資料提供を認めている。片山副知事と岸口さんの利害が一致したのではないか」――そう話すのは、斎藤知事の県政与党である自民党のX県議。その背景を次のように解説した。
「岸口さんがハンターに暴かれたスキャンダルは、参院選に出馬したのがきっかけでした。岸口さんがなぜ維新の中で力を持っているかといえば、馬場伸幸代表との親しい関係、つまりホットラインがあるからです。かねてから参議院議員になりたかったという岸口さんは、ここに来て斎藤知事辞任に舵を切っている。斎藤知事の後釜として、知事選に維新の清水貴之参議院議員を出そうとしているのではないでしょうか。清水氏は元民放局のアナウンサーで、根強い人気があり当選が確実視されているほど。そうなれば、参議院の維新枠が空き、岸口さんは馬場代表のラインで出馬できるというのです。そして、副知事を辞任した片山氏は、兵庫維新の会の事務局長になると5月くらいから囁かれていました」
ちなみに、近畿地方の維新の国会議員に聞くと「岸口が偉そうにしているのは確かです。国会議員がもの言うと、『何だよ』と暗に馬場代表との蜜月関係をひけらかす。そうした対応を何人もの人が経験している」と明かす。
一方、自民党サイドから次の知事候補として聞こえてくるのは、元総務官僚のN氏や、元経産官僚G氏など官僚が軸。前出のX県議は、「清水が出馬すれば、維新が継続して知事の座を取るだろう。もちろん、スキャンダルさえなければの話だが。今の岸田政権の不人気では自民党から出馬したいという奇特な人は官僚OBしかいない。いや、それさえも難しいかもしれない」
維新・清水氏VS自民党の官僚OBという構図になれば、結果は見えている。ただ、頻繁に名前があがる泉房穂前明石市長の存在もある。ある県会議員がこうつぶやいた。
「清水に勝てる候補となれば、泉元市長しか見当たらない。泉さんも問題が多い人だが、維新よりはまだましだろう」