「警察一家」最優先 女性は守らぬ鹿児島県警

「警察一家」擁護のための証拠隠滅、もみ消し、隠ぺい、果ては処分偽装と鹿児島県警の闇は底なしの状況だが、そうした不正によって被害を受けたのは女性ばかりだ。特に、野川明輝本部長が着任した2022年10月以降、事件そのものの存在を隠したり事件化を阻むなどして表面化を避けたケースが急増している。警察官の非違事案はすべて「本部長指揮」。隠ぺい指示を行ったとみられる野川本部長と県警組織には、女性の命や人権を守ろうという意識が欠如している。

下は、鹿児島県警の不正な対応が明らかとなっている事案をまとめた表だ。2022年1月から昨年12月までに5件。被害者はすべて女性である。

■鹿児島県医師会の男性職員による強制性交事件

2021年秋に発生した鹿児島県医師会の男性職員による強制性交事件(※刑法改正によって強制性交が不同意性交等に変更される前の事件だったため)を巡っては、翌年1月に告訴状を提出しようと鹿児島中央署に出向いた被害女性を門前払い。弁護士にねじ込まれて告訴状を受理したものの、10カ月も放置し、国会で問題を指摘されて渋々送検した。不当捜査の末の送検だったことから、当然ながら「不起訴」。しかし、被疑者である男性職員の父親が少なくとも2021年の3月まで中央署に勤務していた警部補で、告訴状提出を見越した親子が21年12月頃に同署を訪問し、事件化を防ぐ工作を行っていたことが分かっている。

「警察一家」擁護に走った県警を厳しく批判してしてきたハンターが、不当捜査の証拠として取材過程で入手した「告訴・告発事件処理簿一覧表」の一部を公表する記事を配信したことで、情報漏洩事件に発展したことは周知の通りだ。ハンターも家宅捜索(ガサ入れ)を受けたが、問題の強制性交事件はまだ終わっていない。

■クリーニング店の女性に対する霧島署員のストーカー事件

2023年2月、鹿児島県霧島市内のクリーニング店に勤務していた20代の女性を恐怖が襲った。女性につきまとっていた霧島署の巡査部長が店を訪れ、勤務シフトや出身地、交際相手などの個人情報をしつこく聞いた上で、自分の電話番号を手書きした名刺を無理やり押し付けたのだ。

霧島署は女性から助けを求められた別の署の警部補から事案の申告を、さらには女性本人からも被害相談を受けながら、「苦情・相談等事案処理票」のデータを消去。さらに、犯人が映っているはずの防犯カメラ映像を隠滅するという手口で事実上の事件もみ消しを図っていた。

■13歳未満の少女に対する強制性交事件

昨年10月、県警は本部留置管理課に勤務する現職の男性巡査長を、13歳未満の少女に対する淫行があったとして強制性交(※刑法改正によって強制性交が不同意性交等に変更される前の犯行だったため)の疑いで逮捕した。逮捕された男は、「俺は警察官だぞ」と脅した上で行為に及んだとされるが、県警はこの事実を伏せて公表。県民の信頼を損なう重大事件であるにもかかわらず、県警はこの件についての記者会見を拒否した。

警察内部の事情に詳しい関係者の話によれば、強制性交の疑いで逮捕された警察官の父親は、事件当時現職の巡査部長。さらには、妹も警察官という典型的な「警察一家」だった。

■内部告発が暴いた枕崎署員による盗撮事件

「闇をあばいてください」として北海道のジャーナリスト・小笠原淳氏のもとに送られてきた内部告発文書の中に記されていたのが、枕崎署の巡査部長による盗撮事件の顛末。隠ぺいの指示があったことを明かする内容だった。

事件が発覚したのは、昨年12月のこと。現場は枕崎市内にある公園の公衆トイレで、その個室を利用した被害者女性がドア上方にスマートフォンのような物があるのを目撃する。驚いた女性が声を上げてドアを開けたところ、その場にいた盗撮犯とみられる男が走り去り、近くにとめていた白い車に乗って逃走。被害女性の訴えにより同署が付近の防犯カメラを調べたところ、「白い車」が同署の捜査車輌であることがわかり、事件のあった日時に当該車輌を使っていた職員も特定された。

現職警官による盗撮の疑いを把握した枕崎署は、当然ながら容疑者である警察官のスマートフォンを差し押さえるなどの捜査を検討。しかし、これに野川本部長が待ったをかけ「静観しろ」「泳がせろ」などと指示し、隠ぺいを図った疑いが持たれている。

■巧妙な隠ぺいが疑われる霧島署員によるストーカー事案

県民の信頼を得て作成されたはずの「巡回連絡簿」を悪用してストーカー行為を行っていたのは、これまた霧島署の巡査長。一昨年4月、パトロール中に立ち寄った事業所で一般の20歳代女性と知り合った犯人は、巡回連絡簿から女性の個人情報を不正入手、ラインなどで仕事の休みを聞き出したり、「抱いていい?」などと不適切なメールを送信する言動に及ぶ。その後も食事の誘いやラブホテルなどについて尋ねるメールを送信。怖くなった被害女性は実際に交際していた警察官に相談したことで、事件が発覚した。

捜査は尽くされたが、今年2月上旬、捜査は唐突に終了する。被害女性が事件化を望まない意向を示したためだ。というのは1月末、県警は犯人の上司である同署地域課長、被害者担当である同署生活安全課人身安全・少年係員、行為者の取調官である生活安全部人身安全・少年課人身安全一係員の3名が、被害者側に捜査状況や違反態様、行為者に対する措置等を説明するという異例の対応で「説得」。当初強い処罰感情を抱いていたはずの被害女性は、一転して法警告や禁止命令といった行政措置についても求めない意向を示したとされる。形を変えた巧妙な隠ぺい工作が行われた可能性がある。事件はうやむやにされていたが、本田尚志元生活安全部長の内部告発によって表面化。巡回連絡簿を悪用した犯罪だったことが明るみに出た。

■期待できない「再発防止策」

いずれの事件も被害者は女性だ。本来、その人たちに寄り添うのが警察の使命だろう。しかし県警が第一に守ろうとしたのは「警察一家」であり、それによって自分らの経歴に傷が付くのを防いだ県警幹部の「安全・安心」だった。

今月19日に開かれた県議会総務警察委員会で県警は、強制性交事件での初期対応について「受け渋り」という言葉で門前払いを認めたが、これまで当事者である被害女性には、「受け渋り」についての説明も謝罪もなされていない。

また、霧島ストーカー事件で被害に遭ったクリーニング店の元従業員女性には、犯人や担当課長に「口頭厳重注意」を与えたというが、県警は被害女性に対して、この点についての説明や謝罪を行っていない。県議会であたかも「処分」を下したかのように装ったが、「口頭厳重注意」は結果が公文書化されないもの。ここでも被害者無視の体質が如実に表れている。ブラック組織鹿児島県警に、「反省」という言葉はない。

県警は近く「再発防止策」をまとめ公表するとしているが、出てくるのは間違いなく自分達がやってきた事件のもみ消し、隠ぺい、証拠隠滅の否定を前提としたごまかし策だとみられる。今月19日の警察総務委員会で県警が主張した、一連の非違事案の「要因」自体が、以下のように自分たちに都合のいい内容だからだ。

(1) 個々の職員が非違事案を起こしてしまう、その一線を超えてしまうということ。職責や倫理感が欠如していた。

(2) 情報漏洩が2件発生した。警察組織として個人情報保護に関する認識が不足していた。個人情報の重要性に対する感覚が麻痺していた。

(3) 刑事企画課だよりの問題もあったが、幹部が指示をして確認をするというところの基本が徹底できていなかった。枕崎員の盗撮事件も、本部からの指示がうまく署に伝わっていななかった。本部と警察署との連携という部分にも問題があった。

(1)と(2)は、2件の内部告発を、情報漏洩=守秘義務違反だと決めつけた県警側の立場でしか事案を捉えていない証拠だ。内部告発を認めれば、首が飛ぶのはキャリヤの県警本部長以下、隠ぺいなどに関わった幹部たち。本当に「一線を越えた」り、「職責や倫理感が欠如」しているのは、警官不祥事を隠すため、被害者そっちのけで不正に走った野川本部長以下の幹部たちだろう。

個人情報の重要性は、警察官なら当然分かっているはず。しかし、それを理解した上で内部告発しなければならない「組織の腐敗」があったという点を、県議会は改めて追及すべきだ。

(3)については、言い訳がお粗末すぎて話にならない。問題となっている「刑事企画課だより」で、警察・検察にとって都合の悪い証拠の廃棄を促したことへの反省は皆無。一連の警官不祥事における幹部指示による隠ぺいを、県警本部や幹部の指示が伝わらなかったという話にすり替え、幹部らの身の安全を図ろうとする卑劣な主張である。

一つひとつの事件について、なぜ隠ぺいや証拠隠滅が行われたのか、なぜ内部告発のあとでゾロゾロと真実が出てくるのかを明確にしない限り、本当の再発防止にはつながらない。県警側の幼稚な言い訳を前提とした「再発防止策」は、努力目標にすらならない。県民が求めているのは、警察一家ではなく県民を守る組織なのだ。

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