自民党の裏金問題が最大の争点となった総選挙。石破茂首相は第一声で「政治とカネ、パーティーの収入の不記載が二度とないように深い反省のもと、この選挙に臨みます」と謝罪から入るしかなかった。
野党第一党の立憲民主党の野田佳彦代表は、「裏金隠し解散です。隠しちゃいけない。裏金議員を裏で支える自民党と決別」と訴え、裏金議員の選挙区を優先して遊説先に選ぶ展開だ。そうした中、石破首相自身と小泉進次郎選対委員長が、神戸学院大学の上脇博之教授から政治資金規正法違反容疑で東京地検に刑事告発されていたことが分かった。
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告発状によると、石破首相が代表だった「自由民主党鳥取県支部連合会」が、2022年分の政治資金収支報告書に党本部が支出した128万円を記載していなかった他、首相が率いていた「水月会」も、2020年に22万円のパーティー収入を記載していなかったという。
石破首相が総裁選で勝ち抜けた要因の一つが、裏金とは無縁とされていたこと。しかし告発状には、《不記載は“氷山の一角”の可能性と裏金づくりの可能性》《上記派閥の各政治団体と同様に同じ手口で高額な裏金がつくられているのではないかとの疑念も生じるので、あえて告発するものである》とある。石破首相の“クリーンさ”に疑問を投げかけた“格好だ。
一方、小泉氏が代表を務める「自由民主党神奈川県支部連合会」の2022年分収支報告書にも不記載があったとしている。
《自民党の派閥の各政治団体(「清和政策研究会」「志帥会」「宏池政策研究会」「平成研究会」)が裏金をつくっていた事実を踏まえれば、政治資金パーティー会費収入の一部が裏金になっていたとの強い疑念が生じる。というのは、自民党の派閥の各政治団体と同じように20万円を超える政治資金パーティー収入明細の不記載があったからである》――上脇教授は告発状の中で、「裏金」の可能性を強く示唆している。
「支部連合会の会計責任者、事務担当者が石破氏や小泉氏の了解なく、帳簿をごまかすことができますか。勝手に不記載にできますか。そこには、石破氏や小泉氏の了解どころか指示があったのではないか、いや主導したものではないかと察することができる。今回の告発は金額的には安倍派の裏金と比較すれば、かなり少ないのは事実。だが、見えないところで、裏金を作っていた疑念が生じます」(上脇教授)
ある旧安倍派の裏金議員はこう話す。
「結局、総裁選で裏金はないとされていた石破首相にも小泉氏にもあったということでしょう。自民党として第三者委員会でも設立して、その件も調査したほうがいい」
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衆議院選挙では、裏金で非公認となった12人のうち、すでに処分を受けていた菅家一郎、越智隆雄、今村洋史氏の3人が出馬断念に追い込まれた。東京地検特捜部が8月に略式起訴したのは北海道9区選出だった堀井学氏。地元の有権者に香典を渡した公職選挙法違反の罪に加え、旧安倍派の政治資金パーティーで得たキックバック分2,196万円を政治資金収支報告書に記載しなかったとする政治資金規正法違反の疑いがあった。事件関係者が次のように解説する。
「本来、1月に裏金議員が逮捕・起訴された時点で堀井氏の立件があってもおかしくなかった。だが、公職選挙法違反の捜査で堀井氏が地元で配った香典の原資が裏金だった可能性があったことから、悪質性があるとしてこのタイミングでの起訴となった」
自民党が行った裏金調査の杜撰さが、堀井氏の略式起訴で証明された形だ。
「安倍派5人衆」のうち、萩生田光一氏の裏金額は2,728万円、世耕弘成氏が1,542万円。これらに比べ、自由民主党鳥取県支部連合会や自由民主党神奈川県支部連合会の不記載額は少ないのかもしれない。しかし、表に出ていない政治資金は「裏金」なのだ。安易に済ませるべき問題ではない。