【自民党惨敗】信なくば立たず

「信なくば立たず」――政治家がよく使う言葉だ。正確にいえば「民、信なくば立たず」。漢文なら「民無信不立」である。小泉純一郎元首相や安倍晋三元首相好んだことで知られる論語由来の格言だが、自民党も公明党もこれとは逆の道を選び、自滅。27日投開票の総選挙では与党が過半数を大きく割り込み、政権維持が困難となる事態となった。

■朝令暮改で失った信頼

「民信なくば立たず」は、孔子の弟子である顔淵(顔回とも)が偏したとされる「論語」顔淵編の一節に出てくる格言である。

孔子の弟子、子貢が政治にとって大切なものを師匠に聞いた時の話。孔子は、その答えとして“軍備”、“食料”、“民衆から信頼されること”の三つを挙げた。子貢はそのうちの一つを、やむなく省くとすればどれかを聞き、孔子はまず「軍備を省く」と回答。次を聞かれ“食料”だと答えた。つまり政治が最も重んじなければならないのは「民衆からの信頼」であり、それがなければ政治は成り立たないという教えだった。

小泉氏や安倍氏のことは省くとして、石破茂政権がスタートしてからの首相自身の言動、そして同氏が率いる自民党、さらには連立を組む公明党が打ち出した方針は「信なくば立たず」とは真逆。朝令暮改を繰り返したことで信頼を失い、国民の間から巻き起こった批判の嵐に飲み込まれ、政権選択選挙で惨敗を喫した。

9月に行われた自民党総裁選が始まった頃、石破氏は早期解散を否定。国会での十分な議論を優先する考えであることを明言していた。ところが総裁就任直後、唐突に方針転換。総理就任から最短での解散総選挙に打って出る。ここでまず国民の不信を買った。

「裏金議員」の扱いも二転三転。総裁選中に「裏金議員非公認」をにおわせておきながら、総理就任と同時に「裏金公認」を表明。比例代表との重複立候補も認める姿勢であることを示した。

これに猛反発した世論に慌てた石破首相は、党内処分が続いている議員を中心に小選挙区で非公認にする12名を公表。裏金議員34人の比例代表重複立候補も認めないとする厳しい姿勢に転じる。

党内融和と世論の動向との間で揺れ動いた石破氏は、国民に期待を持たせては落胆させ、弥縫策を打ち出して再び批判を招くという悪循環に陥った。短期間にまったく違う方針を打ち出す政治家や政党を、信用できるわけがない。当然の帰結として、自民党は敗北した。まさに「信なくば立たず」である。

■公明、維新も議席減

公明党も国民の信頼を失った。思えば、連立を組んで自民党を助けてきた同党は、安倍政権以降、じわじわと支持者を減らしてきた。特定秘密保護法、解釈改憲による集団的自衛権の行使容認、安全保障法制と、軍事国家への道普請を進めた安倍政治にブレーキをかける事さえせず、すべてを容認。それまで掲げてきた「平和の党」の旗は、ボロきれになり果てた。

今回の総選挙では、なんと裏金議員や自民党非公認の政治家にまで推薦を出し、「比例票」獲得に走った。国民の声より票や議席が大切だと宣言したようなもので、やはり議席減という現実に直面している。公明党も「信」を失ったということだ。

野党の中で一定の存在感を示してきた日本維新の会も、失政の象徴となりつつある大阪・関西万博や、パワハラで失職した兵庫県知事を推していた問題で失速。各級の選挙ごとに積み重ねてきた期待感や信頼は消えうせた。「信なくば立たず」は、維新のケースでも当てはまる。

この国の政治が信頼を失って久しい。選挙のたびに低下してきた投票率がその証拠だ。「誰に投票しても同じ」「政治は変わらない」「関わりたくない」――そうした政治を忌避する風潮を招いたのは自民党をはじめとする政党の政治家たちである。「信じるに足る政治家」「信じるに足る政党」が現れるのはいつになるのか……。

子貢政を問う。子曰く、食を足し、兵を足し、民之を信にす。子貢曰く、必ずや已むことを得ずして去らば、斯の三の者に於て、何をか先にせんと。曰く、兵を去らんと。子貢曰く、必ず已むことを得ずして去らば、斯の二の者に於て何をか先にせんと。曰く、食を去らん。古自り皆死有り。民信無くんば立たずと。

<中願寺純則>

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