10月27日投開票の衆議院選挙で自民党は単独過半数を大きく割り込み、連立を組む公明党も敗北を喫したことで石破茂政権の先行きが不透明となった。
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ある自民党の大臣経験者があきらめ顔でこう話す。
「与党で過半数は石破総理に課せられたノルマだよ。達成できなかったんだから辞めろと言われても仕方がない。かばいようがない。政治は結果責任だから」
就任1か月を待たず窮地に追い込まれた石破自民党。自民系無所属の当選者を追加公認して数を増やすことになるが、それでも過半数には届かない。
2009年の衆議院選挙で政権を失った自民党は、2012年の総選挙で勝ち、以来単独過半数を維持してきた。だが、15年ぶりに過半数を割り込み、政権交代にもなりかねない事態となっている。
政権維持のため国民民主党や日本維新の会をターゲットに連立交渉を開始するしかない状況だが、石破首相の責任論が噴出し、退陣に追い込まれるとの見方も少なくない。
9月の自民党の総裁選で推薦人確保が危ぶまれた石破首相は、1回目の投票で高市早苗氏の後塵を拝し、決選投票でなんとか勝利した。長く「党内野党」と呼ばれ、党内基盤は弱い。
総選挙の目標として設定した「与党で過半数」がとれなかったことで、足元はすでにぐらついている。
「2009年の衆議院選挙で惨敗し、民主党政権が誕生した。今回の負けで、公明党以外の政党まで与党に引っ張らないと政権は維持できない。国民民主党も今回の衆選挙で議席を3倍超に伸ばした。連立を持ち掛けてとしても、石破さんが総理の座についたままでは、連立交渉に乗ってこなだろう。せいぜいパーシャル連合だ」(前出の大臣経験者)
自民党総裁選で石破首相は、“国会論戦を経て解散総選挙”と明言していたが、それを翻したことで過半数割れ。野党の選挙態勢が整っていないと判断しての決断だったが、政治とカネの問題への国民の反発の強さを見誤った。
解散総選挙を早めたことで、能登半島豪雨災害の予算対応などの課題も残したままだ。また、衆院選最中の演説では、裏金事件について「早期に国会で二度とこのようにならないようにやります」と述べており、後戻りできない。
国会を開けば総理大臣を選出する首班指名が待っている。惨敗した総選挙の責任をとって小泉進次郎選対委員長が辞任したが、その程度の「クビ」だけで終わるとは思えない。最大の責任は石破首相にあるからだ。石破政権のまま国会に突っ込めば、自民党内からも造反者が出なかねない。
立憲民主党が選挙前の議席を大幅に伸ばし、国民民主党も躍進した。与党の過半数割れという事態は、すなわち野党の数が勝っているということ。石破首相が首班指名を乗り切れるかどうかが焦点となる。
「自民党政権を保つには石破総理が辞めるのが最善だ」という声がある一方、次を期待されていた高市早苗氏は、自身を支持してくれていた旧安部派議員たちの多くが落選したことで「党内基盤」が脆弱となっている。「でもね」と高市氏に近い議員は次のように反論する。
「石破さんのおかげでボロボロになった自民党なんか、すぐに引き受けない方が得策。高市さんが全国を飛び回って応援したおかげで当選した議員もおり、態勢を整えて総理を目指すべきでしょう」
石破氏退陣となれば、9月の総裁選に出馬した中から後任が選ばれるのが順当だ。中でも有力視されているのは石破政権で閣僚入りしている林芳正官房長官と加藤勝信財務相の二人。林氏は、岸田政権時の外相、2015年には政治資金問題で西川公也氏が辞任した後の農相を務めていた。NHKの番組で林氏は、「私の誕生日が1月19日なので119番(救急車)と言われている」語り、笑いをとったこともある。
加藤氏は、総裁選に出馬するも16票しか獲得できず最下位となった。しかし、石破政権では、財務相という重要ポストを得ている。
「石破政権は短命政権で終ることになりそうだ。次も短命となれば、また悪夢の政権交代だ。そうなると、安定感があり敵も少ないという点から浮上するのが林さんと加藤さんということになるだろう。加藤さんは、総理になりたくて仕方ないがない旧茂木派の茂木敏充前幹事長との溝が深い。林さんのバックには、キングメーカーとしてにらみを利かせる存在となった岸田文雄前首相がいるので、高市さんも文句が言いにくい」(前出の大臣経験者)
だが、林氏や加藤氏が“次の総裁候補”というのは、あくまでも自民党中心の政権が維持できた場合。立憲民主党の野田佳彦代表が首班指名選挙で勝利するようなことになれば、自民党が下野する可能性もある。その場合のことを想定する次のような声が、党内から上がるのが今の自民党の現状である。
「野党となった自民党の総裁になりたいという人は誰もいないはず。野党になったのは、石破さんの責任だから当面は総裁でいてもらい、来年夏の参議院選挙を前にご苦労さんで退陣させればよい」(旧安部派の議員)
今回落選した前職の多くは、安倍晋三元首相時代にバッジをつけた人たちだ。その中の一人が、肩を落としてこう話す。
「これまで安倍元首相の人気だけで勝ってきたんだと痛感する。頑張ってはいたが、競り合う選挙などまったく経験がなかった。なんとか勝ち切れるとか思ったが、2,000万円の交付金がダメ押しになった形で、私は沈み、自民党政権の座も危うい。選挙が始まる前の情勢は、そんなに悪くなかったのに……。政治の世界、本当に一寸先は闇ですね」