ヤジ訴訟判決後の要請に想定内の「無回答」|知事部局は徹底して「無反応」

いわゆるヤジ排除国賠訴訟で全面勝訴判決を得た札幌市の女性が北海道の各機関に謝罪などを要請していた件で(既報)、申し入れを受けた3機関のうち2機関が女性の代理人へ「回答」を寄せていたことがわかった。いずれも文書の形で示されたものの、謝罪や検証、関係者の処分などを求める具体的な要望には明答を返しておらず、抽象的な文言の羅列に留まっていた。

◆   ◆   ◆

申し入れは9月9日、ヤジ訴訟の一審原告・桃井希生さん(29)が北海道の知事部局、警察本部、及び公安委員会に対して行なった。本年8月の最高裁決定(当事者双方の上告棄却・不受理)により、2019年に安倍晋三総理大臣(当時)へ「増税反対」などとヤジを飛ばした桃井さんを演説の場から排除した警察官の行為が違法・違憲と認定されたことを受け、一審被告の道側に謝罪や一連の問題の検証、関係者の処分などを求めたものだ。3機関の担当者に要望書を提出した後、記者会見に応じた桃井さんは次のように語っていた。

「5年間の裁判で違法という結果が出たのに、何も処分がないとしたら問題だと思います。『慰藉料払いました、はい終わり』で済むわけない。二度とこんなことが起こらないようちゃんと検証すべきですし、排除に関わった警察官、その時の責任者の本部長も含めて処分すべきです」

この時点で要請先の各機関の対応は未知数で、なんら回答を返さず黙殺し続ける可能性も考えられたが、公安委員会のみは3日ほど後に代理人の齋藤耕弁護士(札幌弁護士会)へ『連絡書』なる書類を送っていた。全文を以下に引く。

《令和6年9月9日に受理した文書により、齋藤様から北海道公安委員会宛に申出のありました件については、北海道警察に調査を指示いたしました。回答には時間を要する場合がありますので、御承知おきください》

ほか2機関への要請とは異なり、公安委へは警察法79条に基づく「苦情の申出」という形で申し入れを行なったため、このような対応になったとみられる。同条3項は、要請受理後の対応を以下のように定めているのだ。

《申出があつたときは、法令又は条例の規定に基づきこれを誠実に処理し、処理の結果を文書により申出者に通知しなければならない》

定められる「通知」が伝わったのは、およそ1カ月半が過ぎた10月下旬。同24日付で作成された2つの文書を齋藤弁護士が受け取ったのは、翌25日のことだった。やはり道公安委から届いた『苦情処理結果通知書』、及び公安委の管理監督下にある北海道警察から届いた『回答書』がそれだ。それぞれの内容は、以下の如し。

公安委・・・《令和6年9月9日に齋藤様から受理した申出の件につきまして、北海道公安委員会といたしましては、警察官の行為が一部違法とされたことについて真摯に受け止めているところであり、北海道警察に対し、各種法令に基づき、適切に職務執行するよう指導したところであります》

道警・・・《令和6年9月9日に齋藤様から受理した申出の件につきまして、北海道警察といたしましては、この度の司法判断を真摯に受け止め、法令に基づく適正な職務執行に努めてまいります》

繰り返すが、桃井さんが求めていたのは判決を受けての謝罪や関係者の処分、違法行為の検証、再発防止策の検討などだ。上2者からの「回答」は、これらのいずれにもまったく答えていない。当事者の桃井さんは「何も言っていないに等しい」と呆れ、桃井さんとともに国家賠償請求裁判を闘った大杉雅栄さん(36)も「公安委の連中はすべての報酬を返還しろ、と言いたい」と痛罵、同委員会の存在意義を問い「自らの役職が完全なる虚無・虚構に基づくものであると自ら暴露していることについて、羞恥する心を持って欲しい」と厳しく批判した。

その公安委は、先述した9月の連絡書によれば「北海道警察に調査を指示」したのだという。だが今回の通知書はその調査の結果あるいは進捗に一切言及しておらず、もとより具体性に乏しかった文言の抽象度に拍車がかかる形となった。受け取った斎藤弁護士は桃井さんら同様「まったく意味のない文言で、回答になっていない」と批判、今回の対応について次のような見方を示した。

「とにかく、警察法79条に基づく要請を握り潰したことになるのを避けるため、形だけ『結果通知』という体裁をとり、『これで正式回答しましたよ』と言いたいんでしょう。実際は具体的な内容が一切なく、回答していないのと同じです」

大杉さん・桃井さんや裁判支援者らの集まり・ヤジポイの会は11月17日午後、憲法学者の木村草太さんを招いた報告集会を札幌市内で開くことになっている。集会では今回の公安委・道警の「回答」も俎上に載せ、道の対応の適正性について議論する考えだ。

なお冒頭に述べた通り、桃井さんの申し入れを受けた道の組織は3機関あるが(知事部局、警察本部、及び公安委)、今回「回答」を返したのは警察本部と公安委のみで、残る知事部局からは現時点でまったく反応が届いていない。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

 

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