今朝10時、自民党の派閥パーティー券事件で大きな動きがあった。東京地検特捜部は、安部派(清和政策研究会)と二階派(志帥会)の事務所を家宅捜索。複数の派閥事務所に対する異例の強制捜査に踏み切った。
2つの派閥は、権勢をふるってきた安倍晋三元首相と二階俊博元幹事長がトップを務めてきた集団だ。
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「まさか派閥の事務所に入るわけないと思っていたが。一斉に二つの派閥事務所にガサ入れ。驚きだ。もう何があってもおかしくない、特捜部はどこまでやるんだろう……」――テレビでニュースを確認していた自民党幹部が、そうつぶやいた。
ロッキード事件、リクルート事件に匹敵する大スキャンダルになると言われ始めた派閥のパーティー券事件。構図は実に簡単で、ノルマ以上のパーティー券を売った議員には、超えた分をキックバックで現金で戻していた。
安部派の場合は、キックバック分をまったく政治資金収支報告書に記載しておらず、政治資金規正法上の不記載にあたるとみられている。
判明しているだけで、5年間で5億円に上る不記載があるという安部派だが、会計責任者や議員本人はもちろん、指示、了解が認定されれば派閥会長や事務総長でさえ共犯となり得る。検察はやる気だ。
「特捜部は応援の検事だけで全国から30人以上集めている。そこに副検事と事務官で100人体制。1月の通常国会まで、正月返上で次々と議員を聴取をしなければならない。病気で入院という議員もいたが、よほどでない限り話を聞く。こちらは、ホテルの部屋を借りるなど準備はしている。応じない時?そりゃ強制的に来てもらうことになるでしょう」(捜査関係者)
すでに任意聴取に応じている議員もいれば、理由をつけて応じない議員も。携帯電話にすら出ないという議員もいるというが、安倍派など各派の会計責任者、事務の担当者、秘書らは素直に事情聴取に応じ、パーティー券などにかかわる資料を特捜部に任意提出している(既報)。
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政治資金規正法上の不記載は「形式犯」とされてきた。それでも、強制捜査に打って出た特捜部。狙いは、派閥のパソコンと議員らのスマートフォンだ。
2019年7月の参議院選挙で、2,900万円をばらまいたとして逮捕・起訴され、有罪判決が確定したのが河井克行・案里夫妻。当初はウグイス嬢への報酬が高額だったことが問題視され、広島地検が捜査していた。それが一転、特捜部が乗り出したのは河井夫妻の自宅などから、パソコン、個人のスマートフォンが押収されてからだった。
パソコンは初期化されていたが、データの復元に成功。悪事の記録が残されていた。
夫妻のスマートフォンからは位置情報を解析。広島県議、市議、首長らからもスマートフォンを任意提出させ、その位置情報とリストが一致することか確認されて立件に至っていた。今回も、パソコンとスマホが重要な意味を持つ可能性がある。
すでに特捜部の取り調べをうけた安倍派の秘書が、こう話す。
「派閥では、キックバックのことを“戻り”とか“戻し”とかいわれており、パーティーが終わった後に、派閥事務所に受取にいきます。うちは秘書が行っていた。特捜部から、いつ行ったのかと聞かれても、ほとんど記憶がなかった。しかし、スマホのデータと派閥の資料を照らし合わせて『この日のことか』と思い出した。キックバック分は、議員会館の事務所に戻って議員本人に現金の入った封筒をそのまま渡していました。うちの議員は、全部自分で使っていたはず。たぶん飲み代でしょうね。近く議員本人も取り調べに応じる予定です」
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政治資金収支報告に記載がない「裏金」について、特捜部はその使途にも注目している。
「普通の飲食なら、政治資金収支報告書に記載できますから問題はありません。しかし、例えばキャバクラ、銀座や六本木のクラブなどはとても出せない。そういったまずい使途もあるでしょう。それと、現在囁かれているのは、清話会に多大な影響力を持つ森喜朗元首相と公明党への上納金です。元々、公明党は平和を掲げる党でした。それがあっさりと自民党に追従してくれた。裏に何かあったんじゃないかと言われているんです」(前出の安倍派の議員秘書)
安倍元首相時代 公明党は安全保障法制などで譲歩を重ね、最後は「敵基地攻撃能力」の容認にまで踏み込んだ。長距離巡航ミサイルやF35戦闘機などの兵器をアメリカから大量購入する方針は、岸田政権にも引き継がれている。自民党のある大臣経験者が、次のように話す。
「安倍派のキックバック問題では、議員個人や事務総長の指示があったかどうかが注目されている。すでに特捜部は、1億円程度と報告していた安倍派のパー券売り上げが、実際には3倍の3億円近くあり、現金などで支払われ、使途がはっきりしないかなりのカネがあることを掴んでいる模様だ。それが裏金となって、森元首相や公明党に流れていたなんてことになれば、自民党は政権を失いかねない」
特捜部がすでに引退した議員にも取り調べを要請しているとされ、新たな疑惑が浮上する可能性さえある。
「引退議員を1人でも取り調べすれば、森元首相を呼ぶことへの抵抗がなくなるが……」(前出の大臣経験者)
東京五輪談合事件では「お見舞い」として200万円を受け取りながらも「お咎めなし」だった森元首相。特捜部の“本丸“は誰なのだろうか?