鹿児島県は2016年に港湾土木業者(マリコン)の団体「鹿児島県港湾漁港建設協会」と災害協定を締結したが、調印までの過程で当然確認されているはずの“協会加盟社の名簿”は、提出さえされていなかった。
県が保有していたのは、協会側が作成したとみられる「鹿児島県港湾漁港建設協会の概要」と題する1枚の文書。協会の構成員として表に出てるのは、会長の会社(米盛建設:鹿児島市)と、副会長の会社(村上建設:奄美市)だけ。他は「県内業者22者、県外8者、合計30者」という記述でごまかされており、県は実態不明の団体と協定を結んだ形だ。(*下の文書参照)
災害協定を締結する際の県としての基準や要件がないことも分かっており、部署ごとの恣意的な運用が、官製談合や便宜供与の道具になっている可能性が浮上している。
■まかり通った杜撰な手続き
協定締結は港湾漁港建設協会側からの申し出に沿って進められたことになっており、2015年に協会が県に提出した「鹿児島県との災害協定締結について」と題する文書には、『協会におけるこれまでの主な災害対応事例』が紹介されている。
①座礁鯨救出活動(2002年)、②票流木回収支援活動(2009年)、③奄美豪雨災害支援活動(2010年)、④口永良部噴火への対応(2015年)、⑤山川港路肩崩壊災害支援活動(2015年)、⑥桜島噴火警戒レベル引上げへの対応、など6件の事例で、それぞれの顛末がバラバラの書式で紹介されており、中には新聞記事や現場写真が添付されているものがある。ハンターが注目したのは、⑤の山川港における災害支援活動だった。
この件で協会が県に提出したのは、新聞記事のコピー1枚と現場写真6葉のみ。下が開示された新聞記事のコピー(赤いは傍線はハンター編集部)で、「27.9.9 建設」と手書きされている。指宿市にある山川港付近で道路の崩落事故が起きたのは2015年9月6日。「建設新聞」のものとみられる記事によると、崩落事故が起きた6日から、「常盤建設」「福尚」「西園組」という建設業者3社が復旧作業に寄与したことが分かる。
記事の書きぶりからすると、県南薩地域振興局の協力要請を受けたのは「常盤建設」「福尚」の2社。主な作業を行ったのは、どう見ても「常盤建設」という業者である。記事が途中で切られる形でコピーされているため最後まで確認できないが、「西園組」という会社が海上からもサポートしたことが読み取れる。当然3社とも鹿児島県港湾漁港建設協会に加盟しているものと思って県に確認したところ、港湾空港課の担当者は「加盟社は西園組だけ」だという明言する。おかしな話になってきた。
当初、新聞記事の内容を素直に受け取った記者は、山川港の災害復旧に尽力した3社がいずれも協会に属しているものと思い込んでいた。この事例を紹介した協会側の資料の中には、事案の説明が一切なく、記事と現場写真だけなのだからなおさらだ。それが、協会加盟社は記事の主役ではない業者だという。これが災害協定締結を促す事例になるとは思えない。協会加盟社の名簿もないのに、県の担当者がどうやって事実関係を確認したのかも疑問だ。何故こうも杜撰な協定締結にゴーサインが出たのか――?
■大々的に協定調印式、マリコン団体会長には『様』付け
答えは一つしかない。県と協会の「なあなあの関係」(鹿児島県内の建設業者)があるからこそ。県と協会の親密過ぎる関係は、開示された資料からも推察が可能だ。
下は、2016年2月10日に県庁の会議室で行われた協定の「調印式式次第」。マリコン団体の会長に『様』と付ける丁寧さには呆れるしかない。滑稽なことに、マスコミを呼んだ調印式には『シナリオ』まで用意されていた。
前稿で述べた通り、鹿児島県のマリコン団体を巡っては、2009年に県が発注した港湾関連工事の入札で談合を繰り返していたことが発覚。31社が公正取引委員会から排除措置命令を、27社が総額14億4,054万円に上る課徴金納付命令を受けている。談合が確認された期間における県発注工事の契約額合計は600億円近くに上っていたことが分かっており、いうならば“税金を食い物にしていた連中”の集まりだ。そうした団体の会長を『様』付けであがめ立て、杜撰な手続きで災害協定を結び、マスコミを呼んで「調印式」までやっていたというだから、これほど納税者である県民を軽視した話はあるまい。
では、県が「名簿を保有していない」と主張する鹿児島県港湾漁港建設協会には、マリコン談合で処分を受けた会社がどれだけ加盟しているのか――。調べていくと、県とマリコン業界の癒着の構図が、よりハッキリと見えてくる。
(つづく)
*本稿の中で、「常盤建設」を「常磐建設」と誤記しておりました。お詫びして訂正いたします。(ハンター編集部 8月3日21時20分訂正)