北海道内のハンター約5,400人が加入する北海道猟友会は今月25日、札幌市北区の事務所で三役会を開き、ヒグマ駆除に際して発砲前に自治体や警察と充分に協議するよう呼びかける通知を全道71カ所の支部へ出すことを決めた。自治体などと充分な協力関係を築けない場合は出動拒否もやむを得ないとしつつ、最終的には各支部の判断を尊重することになるという。
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三役会は、5年前のヒグマ駆除をめぐり警察にライフル銃などを押収された猟友会砂川支部の支部長・池上治男さん(75)が起こした裁判の控訴審判決後、初めて招集された。既報の通り、同訴訟では札幌地方裁判所の一審判決で池上さん側の主張が全面的に認められていたが、本年10月の札幌高裁判決では一転、訴えが退けられて当初の銃所持許可取り消し処分が適法だったとされた。高裁は、池上さんの駆除行為が高さ約8メートルの崖に向けての発砲だったことを認め、また放たれた弾丸が駆除対象のクマを貫通した事実をも認めつつ、その弾丸が「跳弾」して崖の上の建物5棟と立ち会い者3人に命中するおそれがあったと認定した(⇒判決文)。
これを知った道内の猟友会関係者からは「もう誰も撃てなくなる」との声が上がることに。問題とされた駆除のあった砂川支部では箱罠で捕獲したクマへの止め刺し(最終的な駆除)を引き受けるハンターがいなくなったほか、他地域でも自治体の駆除要請を拒否する方針を固めた支部があるという。高裁判決から1カ月を経た11月18日には道の鈴木直道知事と道猟友会の堀江篤会長(77)が環境省を訪ねて小林史明副大臣と面会、現場の駆除従事者が不利益を被ることがないよう早急な法整備などを申し入れた。
こうした中で道猟友会が各支部へ通達を出すのは、今回の裁判のように“後出し”でハンターの行為が違法とされる事態を回避するため。午前11時から午後4時過ぎまで続いた三役会の後、取材に応じた猟友会の堀江会長は「発砲の判断は飽くまで各支部に任せたい」との考えを述べつつ「事前に市町村や警察と充分に協議することが必要」と訴えた。
「基本的には、『自分たち(ハンター自身)を守ることを考えてください』と。正義感で出動し、万が一銃がなくなったりとか処罰されるようなことがあったら大変ですから、そこをきちんと考えた上で出動してくださいと。しつこいようですが、充分に、今まで以上に関係機関と協議して欲しい」
警察に対しては、先の裁判のように発砲後に行為の違法性を問うのではなく「撃つ前に可否を言って貰いたい」と註文をつけた。各支部への通知は、月内にも発出する方針。
高裁で逆転判決が出た裁判は現在、一審原告のハンター側が最高裁へ上告中。その後、北海道外の弁護士2人が新たに訴訟代理人に加わり、うち1人が年内にも砂川市の駆除現場を視察することになっている。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |