「うそ八百」「公務員失格」発言から約1年、兵庫県の斎藤元彦知事の内部告発について県設置の第三者委員会が調査結果を公表。パワハラやおねだりが事実だったとした県議会百条委員会の報告より踏み込んだ形で、内部告発で指摘された16件のうち10件のパワハラを認定。内部告発した元県民局長を貶める発言もパワハラとされた。さらに第三者委は、内部告発者を特定しようと探索を行ったことも公益通報者保護法に触れると断罪している。
■破綻した知事の主張
第三者委員会の報告書が出された後、マスコミ対応した斎藤知事は、「分量が多く、今読ませていただいている」「読み続けているところ」と逃げのコメント。元県民局長への処分が間違いだったことも認めようとせず、反省の色さえ見せない。兵庫県のベテラン職員がこう話す。
「斎藤知事は、第三者委員会の結論が百条委員会よりも言い訳ができる内容になるという甘い見通しを持っていた。しかし、第三者委員会の報告書は百条委員会よりもさらに厳しいもの。調査にかかわったのは、元裁判官の弁護士を中心としたメンバーでした。(知事は)県議会の百条委員会でなら政治的な主張も可能でしたが、第三者委員会ではその手は通らない。パワハラ認定された以外にも、贈収賄や背任という刑事事件絡みの事項にも言及している上、斎藤知事が明らかなウソを言っていたというような記述まであります」
斎藤知事が県内の有名企業からコーヒーメーカーやトースターを受け取ったという疑惑について第三者委は、《結論として斎藤知事個人がコーヒーメーカー等を受領した事実は認められない》としたものの、そこまでの経緯を読めば「未遂」だったことが分かる。
《「僕、コーヒー好きなんですよね」と述べた際、社長からは「(ちょうど)今日用意しているので、持って帰ってもらそうと思っています」とお土産にコーヒーメーカーを渡す予定だった。斎藤知事は「いいんですか」と反応し、受領する意思があることを前提にしたやりとりをした。しかし、周囲で両者の会話を聞いていた記者が「本当に受け取るんですか」と疑問を投げかけ質問したところ、斎藤知事は回答に詰まった様子であった。(少なくとも回答しなかった)。斎藤知事が玄関まで出たところ、社長がコーヒーメーカー(小売価格約3万円)の入った段ボールを手渡そうとしたところ、知事は受領を辞退した》――つまり、斎藤知事に同行した記者が質問しなければ受領した可能性が大ということだ。
報告書では、付き添った県幹部に斎藤知事が「上手に断れ」という趣旨の指示があったことも明かしている。だが、県幹部はその前のやりとりも聞いていたことから《斎藤知事が受け取る前提》だったとの理解だった。そこで斎藤知事個人ではなく《県への贈与》として産業労働部に送ってもらうことになったと証言している。
第三者委員会の報告は次のように続く――《(知事は)記者から疑問視されたため受け取りを断ったのではなく、高価、家電製品と理由を述べているが、別件では豊岡の鞄や竜山石の湯呑等といった高価品を受領している。(中略)調査委員会としては斎藤知事の上記弁解が当時に受領を断った理由であると認定できない。外形的事実からは、発言どおりに斎藤知事が当初はコーヒーメーカーを受領する意思があったものと推認できる》
問題のコーヒーメーカーは、内部告発あった後、返却されていることが明らかとなっている。
◆ ◆
「竜山石の湯呑」については、企業を視察した際に小売価格約4万円弱の湯呑セットの贈与を受けていた。知事室で来客に使用しており、斎藤知事個人ではなく県として受領したと報告書には書かれている。しかし湯吞の提供に関しては《斎藤知事が「使ってみたいな」等といった興味、関心を示す発言をしたこと、(中略)斎藤知事は普段からあまり多くを語らず、周囲の職員には知事の意向を汲み取って動くことを期待していた様子から、態度を見て贈与を希望していると(県職員が)理解した》、《外形的にみて(斎藤知事が)「おねだり」をしたと見られる可能性がある状況であったことは事実》と記している。
博物館などの公的施設を無料で利用できよう兵庫県が小中学校向けに発行している「ココロンカード」や、「はばたんPay」に関する斎藤知事からの指示はパワハラではないとされた。しかし、斎藤知事は自身の家族が保有するココロンカードを見て、前任者の井戸敏三前知事の名前が記載されているのを発見。これを問題視して複数の職員に不満を述べていた。
斎藤知事が初当選したのは2021年7月。その前からカードは発行されており井戸氏の名前が入っていても何らおかしなことはない。しかし、斎藤知事は《井戸前知事の名前が入ったカードが配布されたままの状況を問題視。今後、新小学1年生のものだけではなく、小中学生の持つ既発行のカード全てについて、裏面に斎藤知事の名前が入ったものを配布しなおすことを求めた》とされ、その結果、2024年のカード予算を増額し、すべてのカードが差し替えられたという。報告書は、《140万円の費用が多額に支出されていることが判明した》と斎藤知事の指示による税金の「無駄遣い」を指摘している。
はばたんPayのPR用うちわに、自身の写真とメッセージが入っていないことについて斎藤知事は、職員の前で「舌打ち」「ため息」して問題視。結局、うちわは斎藤知事の写真、メッセージ入りのものを追加で発注し、2種類のPR用うちわが併存する形になっていた。その理由について報告書は、《「誰やと思っているんや。オレは知事やぞ」等強い口調で叱責》するような場面があったことが背景にあると指摘した。
斎藤知事は昨年9月の県議会の不信任決議案で失職したが、11月の知事選で再選。だが、百条委員会、第三者委員会の報告を受けて、県議会では不信任決議案の再提出が検討される状況だ。
「第三者委員会の報告書が分厚いならゆっくり読めばいい。二つの報告書の結論は、斎藤知事に県政の最高責任者としての資格がないことを示している。彼は県政を前に進めることはできない。次の県議会は6月。そこで再度大きな波がくるはず。昨年11月の知事選のような斎藤劇場はもうありえない」(自民党県議)
百条委と第三者委の報告書によって、土俵際まで追い詰められた斎藤知事。それでも元県民局長の内部告発を「誹謗中傷性のある文書」と言い続ける姿勢には呆れるしかない。