ハンター家宅捜索から1年|変わらぬ鹿児島県警の腐敗体質|隠蔽される警察庁キャリアの不正
鹿児島県警による家宅捜索(ガサ入れ)から1年経った。昨年4月8日の朝、株式会社ハンターの事務所となっている記者の自宅に押し掛けたのは10人の県警捜査員。現場の責任者だという警部は、県警の現職警官による情報漏洩の関係先として室内及び社有車を検索し、証拠品を押収する目的だと説明した。他社の取材や招かれた講演のたび聞かれるが、ガサ入れの妥当性や当日の状況については県警側の公表内容と当方の見解に大きな違いがある。改めてガサ入時の状況や、その後の県警の動きについてまとめた。
■不当な「ガサ入れ」の実態
記者は捜索差押許可状(ガサ状)に記されていた内容を知らない。読み上げを断った記者は直接見せるように言ったが、捜査員は右手に掲げて「示した」だけでガサ状を手放そうとしなかったからだ。チラリと見たのは、屋内に入ってきた捜査員が持っていた文書――おそらくガサ状――に書かれていた当該事件の被疑者名だった。罪名と被疑者を正確に理解したのは、ガサ入れの最後に渡された「押収品目録交付書」(*下の画像参照)を見てからだった。
ガサ入れの目的は、事件の発端となった県警の内部資料「告訴・告発事件処理簿一覧表」の現物を押さえ、被疑者と記者の関係を示す証拠を見つけることにあったはずだ。しかし、処理簿一覧表の現物は他所に預けていたため不存在。ファイルの中に数枚のコピーが残っているだけだった。県警は、今日に至るまで処理簿一覧表の現物を、見ても触れてもいない。
ガサ入れで真っ先に押さえられたのは業務用のパソコンとスマートフォン。特にスマホの押収は、弁護士に連絡しようとした記者から強引に取り上げるという乱暴なやり方だった。弁護士に連絡することを拒まれたということだ。許されたのは、固定電話で、翌日に配信予定だった記事を寄稿していたライターへの「配信不能となる可能性」を伝えることだけで、これは「業務妨害」との指摘を避けるためだったと思われる。パソコンとスマホは翌日返却されたが、これも当方が「業務妨害」を強く主張したからだった。
そもそも、ハンターがガサ入れを受けるいわれはない。昨年2月、記者は処理簿一覧表の現物を条件付きで渡すため、県警本部を訪ねていたからだ。条件とは、情報漏えいの事実を公表し、なぜそうなったかも含めて謝罪すること。当方の狙いは、鹿児島県医師会の男性職員による強制性交事件で不当捜査が行われたことを周知させることにあった。この折県警は、処理簿一覧表に記載された関係者に内々で話をつけようと動いていた警察官への面会を求める記者の要請を頑なに拒み、「要件は取材と判断した。広報が対応する」と言い張った。これは県警が、ハンターを「取材者=報道機関」として扱っていたことを示している。
当方の申し出を拒否した県警はその後、さらなる処理簿一覧表の流出を受け、「地方公務員法違反」での立件に向けて動きを早めていく。県警に当事者資格なしと判断した警察庁の強い指示があったことは確かだ。
■でっち上げた国家公務員法違反事件で「公益通報」潰し
ガサ状を発行した裁判所が認めた押収物は、「地方公務員法違反事件」に関してのものだ。しかし県警は、ガサ入れで押収したパソコンにあった別の文書から県警の元生活安全部長を割り出し、「国家公務員法違反事件」をでっち上げる。その文書とは、北海道のジャーナリスト小笠原淳氏に元生安部長が郵送したもの。内容が、県警本部長による不当な捜査指揮を暴いた明らかな「公益通報」だったため、あわてた警察庁や県警が、組織内の不正隠ぺいに走らざるを得なかったと考えられる。公益通報者保護法を無視したあげく、通報者を犯罪者に仕立てて逮捕するという理不尽な事案処理だったと言えるだろう。
元生安部長の国家公務員法違反事件は、公益通報を認めたくない警察組織による悪質な「でっち上げ工作」の証左である。背景にあるのは、「威信」のためなら犯罪行為も辞さない腐った警察組織の体質だ。県警本部長は警察庁キャリア。同庁が組織の体面を守るため、なりふり構わぬ動きに出た可能性は否定できない。後述するが、この方針は、その後に起きた別の国家公務員法違反事案でも貫かれている。
■「情報漏えい」で異なる対応 ― 地元出身は逮捕、キャリア2課長は軽い処分
鹿児島県警は今年2月、捜査2課長だった安部裕行警視(29)を知人女性に対する不同意性交の疑いで書類送検。さらに先月、同警視は、捜査情報を漏らしたとして地方公務員法(守秘義務)違反容疑でも書類送検されている。複数の女性との不適切な交際も明らかになっているが、県警の処分は「停職1カ月」という極めて軽いものに終わった。
同じ情報漏えいでありながら、地元のたたき上げ警察官は逮捕、警察庁キャリアは軽微な処分だけという著しく公平性を欠く対応は、公益通報を潰すため野川明輝前県警本部長による事件の隠ぺいを早々に否定した警察庁の姿勢に通底する。「正義」ではなく組織防衛を優先させた警察組織に対し、県民や県議会関係者からはもちろん、県警OBからも非難の声があがる状況だ。
容認できないのは、昨年4月のハンターへのガサ入れや、逮捕された二人の元警官に関する情報漏洩事件の捜査指揮を執っていたのが2課のトップだった安部警視だったということ。正義を実現しようとして公益通報を行った警官に情報漏えいの疑いをかけ逮捕させるという異常な捜査指揮をしていた張本人が、自身の付き合い相手の女性にその捜査情報を漏らしていたというのだから開いた口が塞がらない。その安部警視が、不同意性交に加え情報漏えいという犯罪行為を重ねていながら逮捕を免れたことには、怒りさえ覚える。これで鹿児島県民の信頼が得られるはずがない。
■強制性交事件
軽重に差はあれ、鹿児島県警の情報漏えい事件で処分されたのは元巡査長、元生安部長、前2課長の3人だ。これまで何度も言及してきたが、一連の事件の起点となったのは2021年秋に発生した鹿児島県医師会の男性職員(2022年に退職)による強制性交事件である(その事件に関する詳しい経緯は弊社の配信記事をまとめた『追跡・鹿児島県警 闇を暴け』=南方新社刊・Amazonで購入可能=をご覧いただきたい)。「強制性交」が刑法改正後に「不同意性交」と変わったことは周知の通り。皮肉というしかないが、キャリア警視の犯罪行為が表面化した原因は、知人女性に対する不同意性交=強制性交だった。
世間知らずの29歳の若者が、捜査2課長という重責を担いながら、自身が指揮する性犯罪絡みの情報漏えい事件に関する捜査情報を漏らしていたという事実――。記者以上にやりきれぬ思いを抱いているのは、強制性交事件の被害者女性と逮捕された二人の元警察官ではないだろうか。
ところで、その強制性交事件だが、告訴状受け取り拒否に始まった県警のデタラメ捜査とそれを追認した検察が出した答えは「不起訴」。刑事事件は終わった形となっていたが、被害女性が元男性職員に対して損害賠償を求めた民事訴訟は、思いもよらぬ展開となっている。