テストランでみえた万博の実態

4月3日、まもなく開幕する大阪・関西万博のリハーサル「テストラン」がはじまった。35万人の申し込みがあり3日間で9万人が招待されたが、万博の先行きを暗示するような惨憺たる状況となった。

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多くの招待者は、万博会場の東ゲートにある地下鉄「夢洲駅」を利用する。駅の構内に入ると、とんでもない行列。トイレの順番待ちだった。

人であふれる改札の外側。招待者に加えて、トレーニングに入っているパビリオンスタッフの集合場所となっているのだ。あるパビリオンのスタッフは「人が多すぎて、大声を出してもスタッフに届かず迷子になるケースもある。混乱どころじゃなくカオスだ」とうなだれる。

東ゲートに進むと、そこにも長蛇の列。手荷物をチェックするX線検査装置の通過に時間がかかっているのだ。使用されているのは、地方空港などの手荷物検査場にある、一々飲み物やパソコンなどを取り出さなければならない古いタイプの装置。現在、羽田空港などで使用されている最新のX線検査装置は、取り出しの必要がないものになっている。つまり、古いタイプのX線検査装置を採用したことで、万博会場の混雑を招いているということだ。先進技術を紹介するイベントにしてはお粗末と言うしかない。

2時間ほど並んだという招待者は「朝9時に入場とあったのに、ゲートを通って会場に入れたのは11時前。パビリオンの予約時間には間に合わず見逃しすことになった」と怒りの表情。さらに、「行き先を探すにも、案内表示が少ない。いちいち、スマートフォンを取り出して万博のホームページを開き、どっちが方向に行けばいいのか探している。もっと案内表示を増やすべき。あまりに不親切だ」と指摘する。

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万博の最大のセールスポイントは、世界最大級の木造建築物だという大屋根「リング」。だが、会場のどこからも円形のリングが見えるため、方向感覚が定まらないのも事実だ。リングの下の通路を歩くと、案内表示はあるものの、文字のサイズも小さく「わかりにくい」という声が多かった。

案内表示が作成中で、業者が絵筆を手に書いている場所もあり、準備不足を如実に示す。

実際に、リングにあがってみると遠くに関西空港や明石大橋などが一望でき、展望は抜群だ。しかし、直射日光がダイレクトにあたるので、かなり暑い。リングの頂上には、植栽がなされているが、開幕を前に枯れている草花がかなりある。作業をしていた人がこう話す。
「寒くなったり、暑くなったりで天候が不安定だった。それに海の横で潮風が直接あたるので草花にとっても厳しい環境。枯れてしまったものは早く植え替えて本番に備えます。これが夏になると、もっと早く枯れてしまう可能性がある。晴れたら10人以上が1日中、散水しなければならない。作業員が倒れないか心配だ」――会場がいかに過酷な環境であることがよくわかる。「健康」「いのち輝く未来社会のデザイン」という万博のテーマはどこにいってしまったのか?

万博がはじまると会場は全面禁煙になる。だが、会場のあちこちに灰皿が置かれ、そこに集まってタバコを吸う人が目立った。工事期間中は、所定の場所なら喫煙が可能だという。その横には消火器。「健康」というテーマはどうなっているのだろうか?

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リングのすぐ横に位置するポルトガル館では、テストランにもかかわらず作業員が行き来する。まだ、完成に至っていないのだ。このような海外パビリオンはあちこちでみられる。海外のパビリオンを手掛けている作業員は次のように打ち明ける。

「パビリオンはマンションのように画一的ではない。作業が進んでも、『変更してくれ』などと言われ、修正、やり直しが何度もあった。世界で一つしかないものを作るので仕方ないが、その分、遅れていく。本当は、外観を完成させて完了証明をもらって、内装、展示物を搬入する。最後に使用許可証が交付される。しかし、時間がないので、外観をやりながら内装工事もやっている状態。完了証明と使用許可証、同時に取得しないと間に合わない」

別の海外パビリオンの外国人スタッフに聞くと「日本人から『間に合うか?』とよく聞かれます。万博は6か月あるのですから、ちょっとくらい遅れたって大丈夫。私は3年前のドバイ万博でもパビリオンを手がけました。その時は、開幕して1か月以上もしてから完成というパビリオンもありました。日本人はとてもデッドラインを気にしますね」とのんびりムードだ。

国際博覧会協会の副会長でもある大阪府の吉村洋文知事が当初、万博の目玉とアピールしていたのが「空飛ぶクルマ」。「クルクルと自転車のように空を舞う」と語っていたが、結局、デモフライトのみにとどまった。それでも、会場には「空飛ぶクルマステーション」という看板がある。中をのぞくと、大きなスクリーンに映像が映されているだけ。発着場や空飛ぶクルマの実物も見当たらない。吉村知事の“大ぼら”が多額の税金が投入された万博という大舞台で、証明された格好だ。

テストランには大阪の市議や府議も招待を受けていた。参加していた維新の地方議員が正直な胸の内を明かす。

「万博が成功すれば、逆風の維新にとっては大きな手柄となる。一気に支持が上がる可能性もある。しかし、今日入場して感じたのは、2度3度とリピーターになる必要などないという印象。リングやパビリオンなど見るべきものはあるが、私は一度きりでいい。立場上、SNSでは“万博はすごいぞ”と書いたが、本当はそこまですごくない。入場までめちゃくちゃ時間がかかるので、そこでみんなくたびれてしまうんじゃないか。万博の悪評が広がれば、維新の支持はますます下落。事故でもあれば、維新の終えんだ」

6日には爆発事故の危険性が高い高濃度のメタンガスが検知されるなど、開幕を前にマイナスばかりが表面化する状況だ。「成功」が見えない万博はどうなるのか?

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