7月8日、自民党公認で参議院選挙に出馬している二階伸康氏の応援に駆け付けた石破茂首相の“前座”を務めた参議院議員の鶴保庸介予算委員長からとんでもない発言が飛び出した。「運のいいことに能登で地震があったでしょ」――昨年1月に起きた能登半島地震の被災地を愚弄するこの一言に被災地をはじめとする世論が猛反発。発言を陳謝・撤回して予算委員長辞任の意向を示したが、事態は鎮静化しそうにない。
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ある自民党幹部は、「とんでもない発言。これで参議院選挙は惨敗する。石破政権に止めを刺したも同然だ」と嘆く。能登地方を小ばかにしたような問題の発言は、以下のように続いていた。
「能登で地震があったときに、地震の上の方であったのは、あの輪島だとか、あの、たま、なんだっけ、上のほうね、能登半島の北の方ね」
「新しい被災地域のための補助金もらうのに自分の住民票をいちいちいちいちその、(輪島市の)市役所がまともに動いてもいないところにですね3時間かけていくのはおかしいじゃないかっていうな話になって、結局、緊急避難的ですけども、金沢にいてでも輪島の住民票が取れるようになっていったんですよ。やりゃあできるんじゃないかって話になってしまいました。チャンスです」
「たま、なんだっけ」の“たま”が珠洲市(すずし)を指しているのは言うまでもない。鶴保氏は能登半島地震を引き合いに出しながら、被災地の地名さえ覚えていなかったのだ。さらに、地震発生を『運のいい』と言った上に『チャンス』……。会見で「言葉足らず」と釈明していたが、十分すぎるほど本音を述べていたと言うべきだろう。人としての最低の人物が国会議員であることに愕然とする。そうした姿勢は、炎上後の態度からも明らだ。
閣僚経験者で、参議院当選5回のキャリアを持つ現職議員の発言とは思えない発言の酷さ。「運のいい」発言の翌日、和歌山県庁に現れた鶴保氏は、座ったままこう切り出した。
「冒頭お詫びから入らないといけません。昨日、県選出の国会議員の一人が能登地震に関してとんでもない発言をしました。県民の皆様にも恥ずかしい思いをさせていると思っております。心から皆様にお詫びをしたいと思います」
江藤拓前農水大臣が、「コメを買ったことがない」という発言で大臣を辞任したのは記憶に新しいが、記者から「重いもので議員辞職や、離党などは」と聞かれると、信じ難いことにうっすらと笑みを浮かべて「そこまでは考えていません」と答えた。参院選での苦戦が伝えられる二階伸康氏の支援者は、「これでうちの票はますます減るばかりだ。同じ和歌山県民として恥ずかしい。二階氏の応援どころか、足を引っ張られただけだ」と憤る。
鶴保氏は、伸康氏の父で元自民党幹事長の二階俊博氏の支援があって大臣の座をつかみ取った人物として知られる。しかし、俊博氏は裏金事件で政界引退。今年4月には和歌山県知事だった岸本周平氏が急死した。昨年11月の衆議院選挙で伸康氏を叩きのめし、勝利を勝ち取った世耕弘成氏はまだ無所属のままだ。「誰もいなくなって、保守王国和歌山を牛耳る存在に浮上したのが鶴保。最近は県連でも上から目線で偉そうに人を見下し、『こいつは何様なんだ!』と不満の声があがるようになっていた。『運のいい』発言は、不遜な態度の象徴だ」と自民党の和歌山県議が顔をしかめる。
参議院和歌山選挙区は伸康氏が自民党の公認候補。世耕氏は、元有田市長の望月良男氏を推している。昨年11月の衆議院選挙に続き保守分裂となる「紀州戦争」の第2ラウンドだ。世論調査では望月氏が二階氏をわずかにリードするという展開になっている。二階派の男性が肩を落としてこう話す。
「少し伸康さんが負けているタイミングでの鶴保発言。鶴保はいったい何を考えているんや。しかも石破総理がやってくるというので、大勢のテレビクルーが東京から駆け付け取材をしていた。あんなバカな発言をしたら、たちどころにニュースになるのは当然のことや」
一方、鶴保氏の“暴言”に勢いづくのは望月氏の陣営だ。これまで世耕氏は望月氏の街頭演説などに直接参加することなく“後方支援”にとどまっていた。しかし、鶴保氏の“暴言”に合わせるように7月9日の望月氏の個人演説会に姿を見せたという。世耕氏が「望月氏を参議院に送ってほしい」と訴えると、大きな拍手が沸き上がった。
望月氏の支援者が次のように語る。
「これまでずっと世耕先生に『前へ出て』とお願いしていたが、気を遣ったのか後方支援にとどまっていた。世耕先生が直接演説会に参加してくれて一気に盛り上がった。西日本の1人区はこれまで『自民党が勝って当然』という地域だったが、どうやら今回、九州はほとんど野党にとられそうになっていると聞く。四国も全滅しそうだ。それだけに近畿地方の1人区は重要。石破総理が、二階氏のために2度も演説を行っていることでもそれが分かる。鶴保さんの暴言が飛び出した時、総理はまだ会場に到着していなかったから、なんとか助かった形だ。しかし、二階陣営だけでなく自民党や政権にまで悪影響を及ぼしている鶴保発言は、決して許されるものではない。もちろん、一番の被害者は被災地である能登の人たちだ。鶴保さんは議員辞職すべき。あんな暴言、能登半島に行って謝ったところで、許されるはずがない」
鶴保発言が、和歌山の自民候補だけでなく、党全体の支持を失わせる事態となった。















