商工会議所は、その地区内における商工業の総合的な改善発達を図り、兼ねて社会一般の福祉の増進に資することを目的とする経済団体だ。全国組織である「日本商工会議所」も地域ごとの商工会議所も、『商工会議所法』の規定に従って法人格を持ち、必要事項を登記しなければならない。
商工会議所は営利団体ではないため「特定の個人又は法人その他の団体の利益を目的とする事業」や「特定政党のための組織利用」は禁止。法が認めた公的な団体であるからこそ、都道府県から組織運営に関する補助金が支給されている。当然、組織の選挙利用はご法度である。しかし、福岡県の久留米商工会議所(本村康人会頭)は、公然と選挙の事前運動を行い、特定政治家のために組織を利用している疑いが濃い。
■選挙支援組織、有権者の認識は「商工会議所」
引退する大久保勉市長の任期満了に伴って行われた久留米市長選挙。投開票当日の今月23日、地元テレビ局のTNCがネットで生配信していた選挙特番の中で解説にあたっていた同局の記者が、十中大雅元県議会副議長(落選)が鳩山二郎衆議院議員と「久留米商工会議所」の支援を受けていると説明した。鳩山議員の支援は事実だが、「商工会議所」が特定候補者の選挙を支援するのは違法。正確には「商工会議所の政治組織」あるいは「日本商工連盟久留米地区」と表現すべきだった。
誤解のないように断っておくが、解説者を責めているのではない。久留米の有権者を含め、関係者の大半が「久留米商工会議所」が十中氏を支援していると認識していたからだ。それほど会議所の動きは目立っていた。
十中氏が久留米市長選に出馬する意向であることを示したのは昨年11月。副議長就任を祝うための政治資金パーティーを10月5日に開いてからわずか1か月という時期で、その非常識な姿勢に批判が集中した。だが市民の冷ややかな目を無視するかのように、久留米商工会議所が十中氏支援に動き出す。まず会議所の関係先にFAXされてきたのが、下の「事務所開き報告会の御案内」だった。
久留米商工会議所の政治組織「日本商工連盟久留米地区」の代表世話人は本村康人会議所会頭。政治組織の代表として、本村氏が元副議長の事務所開き報告会に参加するよう呼びかける内容の文書だ。下が、同時に送信された別紙である(*赤いアンダーラインはハンター編集部)。
十中氏の後援会長に就任した森光栄一氏は久留米商工会議所の副会頭。当然ながら、本村会頭の了解があっての会長就任だったとみられている。動員依頼は政治組織日本商工連盟久留米地区の専用FAXではなく、商工会議所の代表FAX「0942-33-0933」から流されていた。参加者名簿の送り先も商工会議所の代表FAXとなっている。一連の事実は、政治組織と会議所が一体であることの証左だ。
その後も十中氏支援を求める商工会議所関係者への働きかけは止むことがなく、告示直前には商工会議所のFAXと職員を使って選挙期間中の「出陣式」「総決起集会」といったイベントの案内が配られていた。
選挙期間中の「出陣式」や「総決起集会」は選挙運動の一環。告示前に文書で告知した場合、公職選挙法が禁じる「事前運動」にあたることはこれまでに報じたとおりである(参照記事⇒『久留米商工会議所政治組織に公選法違反の疑い|市長選告示前に「出陣式」の案内』)。
■職員集めて政治活動
久留米商工会議所の会頭や専務理事が、商工会議所の組織を政治活動に利用した証拠は他にもある。昨年12月28日の「仕事納め」の日。十中氏は自身のインスタグラムに、下の2枚の写真を投稿していた。
確認したところ、画面の場所は久留米商工会議所の会議室。十中陣営の関係者によれば、専務理事が職員全員に対し会議室に集合するよう指示を出し、そこで十中氏が挨拶したのだという。会議所職員の市長選での支援を確実にするための儀式であったことは言うまでもない。会議所の政治利用は明らかだ。政治組織の収支や活動実態について、担当の穴見英三専務理事に回答を求めてきたが反応はなく、取材拒否の姿勢を崩していない。
■問われる「会頭」の資格
これまでの配信記事で度々触れてきたが、「商工会議所法」は次のように規定している。
この規定を順守するため設立されたのが、商工会議所とは別の組織である「日本商工連盟」。当たり前のことだが、会計も別にしなければならない。しかし、これまでの取材で浮かび上がってきたのは、「久留米商工会議所」と一体としか思えない「日本商工連盟久留米地区」の活動実態だ。責任者は会議所会頭であり政治組織の代表世話人でもある本村康人氏であり、法令違反があれば責任をとらねばならない立場だろう。
ただ、残念なことに久留米商工会議所には、いわゆる「自浄作用」が働く可能性が低い。会議所トップの本村氏が会頭としての資格を問われていることが分かっていながら、誰も彼の首に鈴をつけようとしてこなかったからだ。
もともと本村氏は、酒類卸で3代続いた「本村商店」の会長として商工会議所の役員になっていた人物。しかし、その本村商店は資金的に行き詰まり、2017年に酒類食品卸大手の「イズミック」(本社:愛知県名古屋市)に買収されていた。老舗企業を事実上破綻させた本村氏は、2014年6月には本村商店の取締役を辞任していたことが分かっており、その時点で商工会議所会頭としての地位を失っていたとみるべきだろう。しかし、なぜか本村氏が会頭職を追われることはなかった。
現在、久留米商工会議所のホームページにある本村氏の所属企業は「久留米業務サービス」。登記簿で確認したところ、同氏は2015年12月に久留米業務サービスの取締役に就任、2018年5月に代表権を得ていた。(*下は久留米商工会議所のHPの画像)
本村商店の取締役辞任が2014年6月、久留米業務サービスの取締役就任が2015年12月。つまりこの1年半の間、本村氏は商工会議所の会頭としては、不適格だったということだ。市の第3セクター「ハイマート久留米」の代表にはなっていたが、この職は商工会議所会頭が座るポスト。本来なら、会頭としての資格を失った段階で降ろされていなければならなかった。杜撰な人事を許した市や、久留米商工会議所全体の問題と言えるだろう。
不可解なのは、久留米業務サービスという会社の運営実態だ。久留米市長選が告示される1週間ほど前から、何度か登記簿上の同社の本社を訪ねてみたが、いつ行っても従業員は不在。無人の社内は、普段使いされている気配を感じることができなかった。(*下の写真参照)
久留米商工会議所は、自分の会社を破綻させた人物を、なぜ会頭に据えているのか?謎だらけとしか思えない「久留米業務サービス」の運営実態は、本当に商工会議所会頭の出身母体として適切なのか?さらにいうなら、久留米で行われる大型選挙のたびに、商工会議所がしゃしゃり出てくるのは妥当と言えるのか?
疑問は尽きないのだが、はっきり言えることが一つある。新型コロナウイルス・オミクロン株の感染拡大で多くの事業者が苦しんでいる中、商工業の総合的な改善発達を図ることを目的としている商工会議所の会頭や副会頭、専務理事といった幹部が、選挙にうつつを抜かしているのは大きな間違いだ。