江差看護学院・被害遺族が慟哭の証言|認定されなかった最悪のパワハラ

息子は、学校に殺された――。本サイトが昨春から報道を続けている北海道立江差高等看護学院のパワーハラスメント問題で3月上旬、理不尽な指導に耐え兼ねて命を絶った学生の遺族が取材に応じ、涙ながらに取り返しのつかない被害を訴えた。今なお心の傷が癒えない中で声を上げ始めた遺族は、ハラスメントにかかわった教員たちを「絶対に許せない」としており、場合によっては法的措置をとることも検討する考えだ。

■パワハラ教員に追い詰められた優しい男子学生

江差看護学院に通う長男(当時23)を2019年9月に喪ったのは、北海道・後志管内に住む女性(45)。シングルマザーで一男一女を育て上げた女性にとって、長男は最初にお腹を痛めた子だった。生まれつき体格がよく、その一方で繊細な面があり、幼いころから家族や友人への気遣いに長けていたという。実家では、仕事で留守になりがちな母に代わって台所に立ち、4歳下の妹の面倒をよく見続けた。

得意だった料理の腕を活かして調理の学校に進むことも検討したが、最終的に針路を定めたのは公立の看護学校。学費が安く、手に職をつけられるという理由だった。学校近くのアパートを借り、2016年春に初めての一人暮らしをスタート。183cmの長身ながら「涙もろくて優しい奴」と同級生たちに慕われ、たまの“宅飲み”では得意の料理で仲間たちを喜ばせた。

母親が学校の悩みを耳にするようになったのは、入学から半年ほどが過ぎたころ。高校時代までは宿題をその日のうちに学校で済ませてしまうほど勉強熱心だった筈の長男が、江差の学校ではたびたび厳しい叱責を受けているという。「そのころ『無理せず辞めてもいいから』と伝えていたら…」と母親は今も悔やむ。

2年生で単位を落とし、留年。「レポートの提出期限を守らなかった」というのがその理由だが、それは飽くまで教員の言い分に過ぎなかった。提出時、本人が携帯電話で確認した時刻は、間違いなく期限内。しかし教員は「学校の時計ではもう過ぎている」と受け取りを拒否した。それまでにも、何度も繰り返し再提出を求められ、そのたびに書き直しを強いられ続けた結果のこと。母親は「指導としておかしい」と憤る。

「どこをどう直しても『駄目』としか言って貰えず、質問にも答えて貰えないって。私から学校にかけ合ってみると言ったんですが、息子は『やめて』と。『言ったらもっとひどいことになるから』って言うんです」

本人は改めて試験のやり直しを申し出たが、教員は「あんたは来年もあるからやらなくていい」と一蹴。決して裕福ではない実家に迷惑をかけることになったと、長男は泣きながら母に留年決定を詫び続けた。

ようやく3年生に進級できた2019年春、実家の祖父が急逝。身内の不幸のさなかに学校の悩みを打ち明けるわけにはいかないと思ったのか、途切れず続いていたハラスメントの理不尽を長男は1人で抱え込んでしまうことになった。そのころ「気づいたらロープを持っていたんだ」と打ち明けられた同級生がいる。発作的に煙草の吸殻を口に詰めようとした姿の目撃談もある。仲間たちが彼と最後に言葉を交わした日も、実習の日程中だった。

■自殺した学生の救命措置を放棄

卒業まで半年ほどを残した同年9月18日朝。始業時刻になっても実習に顔を出さないその人のアパートに、教員2人が赴いた。ドアを開けた教員らはすぐに異変を察知した筈だが、そこでただちに救急通報しようとはせず、また車で2分の距離にある総合病院に対応を請うこともなく、迷いなく警察へ通報した。救命を最優先しなかったこの行動を、今に到るまで誰一人として遺族に謝罪していない。あまつさえ、長男を喪った母親はこの経緯自体をつい最近まで知らなかった。
(*下が当日の「救急出場布告所」。赤い書き込みはハンター編集部)

 仕事で家を出る間際だった母親が受けた電話からは「息子さんが亡くなってました」と無機的な一言。混乱状態で駈けつけた現地で、対応した副学院長らは「何も思い当たることがない」と口を揃えた教員らは在学生たちに事実上の箝口令を敷き、警察の調べに協力した学生を取り囲んで「何を話したか言いなさい」と迫りさえした。警察にハラスメントの事実を伝えた1人は、捜査員から「皆さんそう仰言ってます」と打ち明けられている。副学院長はその後、別の学生が遅刻した際に「見て来てよ」と教員らを促し、こう言い添えたという。「だって、また死んでたら困るじゃん」――。

■「認定漏れ」に立ち上がる遺族

愛息を喪った母親は、自分を責めるしかなかった。どこに何を訴えたところで息子は戻ってこない。今に続く失意の日々、なんとか心身が持ち堪えられたのは、当時高校生だった長女が社会に出るまでは頑張らなくては、の一心ゆえだったという。

その母親は、長男の母校で長期間のパワハラが常態化していた事実をニュースで知って以来、ほとんどテレビを観なくなった。「江差」「看護」「パワハラ」といった言葉を耳にするだけで、胸が苦しくなる。「事実を知っても辛いだけ」と、新聞や雑誌を手に取ることもなくなった。被害者遺族として名乗り出る気にはなれず、仕事以外で外出する気力もなくなり、部屋のカーテンを閉め切って息を潜め続けた。

声を上げなくてはと思い始めたのは、昨年11月のことだ。おりしも北海道の第三者調査委員会が50件超のハラスメント認定に到り、当事者への説明会や地元議会では道への厳しい追及が続いていた。そんな中、当時の学院長が自宅を訪れ、頭を下げたという。「息子さんにも被害があった」と。

「学院長が帰った後、家の中で1人で泣き叫びました。両手で顔を覆って」

息子は、学校に殺された――。怒りで全身が震え、感情の持って行き場がわからなくなった。当時の教員たちが「自分たちのせいじゃない」と思っているとしたら、決して許すわけにはいかない。今も息子の名前を口に出すだけで涙が溢れて止まらなくなるが、このまま黙っていたら「なかったこと」にされてしまう。

独自にハラスメント被害相談を始めた函館の弁護士に相談を寄せたのは、昨年暮れのこと。明けて本年2月には仕事の合間を縫ってその法律事務所を訪ね、長男が受けた最悪の被害を訴えるに到った。

「私が声を出してどんな結果になったとしても、息子は決して戻って来ないんです。時々、加害者の教員には死んで償って欲しいと思うこともありますが、あの人たちがいなくなったとしても、やっぱりあの子は返って来ない。せめて『なかったこと』にはしたくなくて…」

人の命の尊さを教える学校が、人を殺してもいいのか――。一連のハラスメント問題の中でも最悪の被害は、今のところ第三者調査の認定事案には含まれていない。声を上げ始めた遺族は、関係者らが加害の責任を認めるまでは一歩も引かない考えだ。

※ 遺族の訴えは3月14日発売の月刊誌『北方ジャーナル』で詳報予定。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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