鹿児島大学教育学部の代用附属として多数の教育実習を受け入れてきた鹿児島市立伊敷中学校が、令和元年に2年生のクラスで起きた「いじめの重大事態」を隠蔽していた。ハンターが“いじめの報告書”の有無を確認するため行った関連文書の情報公開請求では、所轄庁である鹿児島市教育委員会が勝手に請求内容をねじ曲げ、「不存在」にしてごまかそうとするなど組織ぐるみで抵抗。市教委自ら、不正に加担していたことを証明した格好となっている。
隠蔽の証拠である“いじめの実態報告”の存在が明らかになったにもかかわらず、“重大事態ではない”と強弁する市教委青少年課。同課の猿渡功課長は、虚偽が疑われる伊敷中の実態報告について報告時期と記載内容の確認を求めたハンターの記者に対し、被害生徒とその保護者を訴えを「確認したら違いがあった」と否定し、「重大事態」と認めない姿勢を鮮明にした。
■「重大事態」認めぬ姿勢
今月28日、ハンターの記者は、いじめ問題を所管する市教委青少年課の猿渡功課長に、伊敷中が提出した「いじめの実態報告」(令和元年度分)の報告時期と記載内容の確認を求めた。伊敷中が、実態報告の『現状』欄に「環境を変え、新たな気持ちで頑張っている」と記入した上で、『状況』を示す選択式の問いに対し「他校への転学、退学等」=(エ)とすべきところを、事実と大きく異なる「いじめが解消している」=(ア)と答えていたためだ。当該案件が、いじめ防止対策推進法に規定される「重大事態」にあたるかどうかを判断するためには、正確な実態把握が必要となる。虚偽が疑われる報告書の記載について、市教委の考え方を聞く必要があった。
記者と猿渡青少年課長とのやり取りの概略は、次の通りである。なお、課長の発言については、ほぼそのままを掲載する。
――この報告書は、年度が終わって出されたという認識でいいか?
猿渡課長:ご説明した通り、毎学期ごとに出され、この件については、12月に来たわけです。――12月に出された?
猿渡課長:2学期が終わる頃に。で、これは上書きをどんどんしていきますので。えー最終的に年度が終わるときに、ええと、改めて一覧表になると。――報告書の最後の『状況』は、「ア」なっている。なんで「ア」になるのか?
猿渡課長:学校がそのように判断をして、まあ報告して……。――しかし市教委は転校を認めている。その段階で「ア」ではなく、他校への転学の「エ」だろう。
猿渡課長:3月じゃなくて12月に報告が出たから。――報告書は、年度末の日付だ
猿渡課長:それは、こう、あの……。――転校を認めた時点で、「ア」ではないと分かってたはずだ。
猿渡課長:学校としては、いじめを解消し、しかしあのー、保護者の強い希望もあり、新しい環境を整えるということを一番に彼女にとって大事なことは何かっていうことで、転校という風に受け取って……。――報告書には「環境を変え、新たな気持ちで頑張ってる」と書いてある。
猿渡課長:文末の表現っていうことですよね?それは……。――環境を変えたのは、転校したからに他ならない。
猿渡課長:それは……。――違う?認めない?
猿渡課長:……。――ところで、6月に教育委員会で動きがあると聞いているが?
猿渡課長:教育委員会ですね、私たちは教育委員会の事務局ですので、教育委員会の中で、このことについて(教育委員に)報告をし、委員の方からの意見を貰うという機会を作るということですね。――これは重大事態だったかどうかの判断をもう一回し直すということか?
猿渡課長:まあ、まずはこういったことがありました、ということの報告になります。その上で、その後のことはまた検討されると思います。――教育委員会の方で?
猿渡課長:そうです。――そこで、この報告書を資料として提示するのではないか?
猿渡課長:そうです。そういったのも資料の一つになるかもしれない。――しかし、これは虚偽。実態を反映していない。「状況を変え」はつまり「転校」。つまり最後のチェック欄は「エ」。まだ認めない?
猿渡課長:……。――あれは重大事案ではなかったと言い張るつもりか?被害生徒の保護者が市教委に提出した文書には、 暴力を振るわれたと書いてあるが、それを知らなかったというのか?
猿渡課長:暴力については確認できております。――文書を見たら分かるだろう。
猿渡課長:はい。――生徒が書いた書類も残っているはずだ。
猿渡課長:はい。もうそのことを学校が確認して、分かったことというのが、違いがあったということです。――聞き捨てならない。では、被害生徒と親御さんが嘘を言ってるということか?あなたはそういうことを言ってる!
猿渡課長:それは分かりません。――わからない?何を言ってるかわかっているのか?無責任なことを言うな!
猿渡課長:……。――被害生徒と保護者の言っていることが事実と異なる、伊敷中の言い分が正しい、だから重大事態ではないということか!
猿渡課長:分かりません。――あなた方がいじめを放置したから転校を余儀なくされた。いじめが解消していれば、転校なんか必要なかった!あなたは無責任だ。子供がどんな気持ちで告発したか、分かっていないんじゃないか?そんな言い方があるか!課長ちょっとそれはひどくないか?
猿渡課長:当時の学校からの報告です。――ふざけるな。あなた達も被害者側の書類を見ている。転校させて下さいという申請書だ。この時点で、学校側の言い分と、生徒側の言い分が違っていたなら、調査すべきだった。それは学校の責任ではなくて、教育委員会の責任だ。法律はそうなっている。
猿渡課長:11月に相談があったいじめについては、学校の方も、保護者の方も迅速に対応していただきありがとうございましたというような報告もあります。一度目のいじめがなくなったから……。――それは学校の報告だろう?
猿渡課長:そうです。それでここに……。――ならば、この被害生徒の2例目、3例目のいじめの報告はどこにあるのか?
猿渡課長:……。――その時点で、生徒や保護者には何も聞いてないだろう。重大事態じゃないかと考えたら、検証するのではないか?
猿渡課長:そうです。――確認するが、被害者生徒やその保護者から話を聞いたことはあるか?
猿渡課長:聞いてないです。――そこで、もう一度聞く。この報告書は、12月に出た書類で間違いないのか?
猿渡課長:そうです。――ならば、「環境を変え」とは絶対に書けない。物理的に、だ。12月は、いじめの継続中。環境は最悪。だから12月の転校願だ。12月には「環境を変え」とはならない。子供でも分かる話ではないか。
猿渡課長:……。――12月に出たものなら、年度末の最終版ではない。ならば、12月のデータが別にあるはずだ。
猿渡課長:まあ、まだ残っているかどうかも含めて……。――学校のパソコンには残っているだろう。
猿渡課長:上書きしていきますんで。うん。いったん出されたのは12月のときですけど。――それはおかしくないか?
猿渡課長:ちょっと確認してみないと正確なことは。記憶の中なので。新たに3月の段階で状況のところをそこを書き換えたのかどうかですよね。――書き換えたから、「環境を変え」となったんですよ。そうすると「ア」じゃなくて「エ」。認めない?
猿渡課長:その当時の記録でございますので、えーその……今、あのー報道等でありましたように、改めてこの件について精査して、こちらの件で教育委員の方々にも意見を貰うという……。――その精査をする過程で、あなたが言ったことを、つまり虚偽を報告したらダメだと言っている。
猿渡課長:学校に出向いて行って、そのクラスの状況とかというのを、あの、(当時の伊敷中の)校長先生も言われてたと思いますが、確認しました、というところで。――確認していたら、こんな記述は認められない。あなた、さっき生徒や保護者の話は、聞いていなかったと認めたではないか。ならば、確認したことにはならない。これは組織ぐるみの隠蔽だろう!
猿渡課長:隠してはないです。――「環境を変え、新たな気持ちで頑張っている」というのは、転校したということ。まだ認めないのか?
猿渡課長:まあ、そういったことを私の口から、まあ、あのではなくて、そういったことを含めて、精査をし、教育委員会の方に報告し、まあ検討し、ご意見を貰って。――報告するのはあなた方だろう。どうせ嘘の報告だ。恥ずかしいと思わないのか?それでも教員か?
猿渡青少年課長は事務方として、3日の会議で教育委員に本件についての説明を行うはずだ。しかし、いじめを訴えて転校を意義なくされた被害生徒や保護者の言い分を、「確認したら違っていた」と平然と言い放つ人物だ。真実を語るとは到底思えない。
この問題の報道が始まってから現在まで、市教委は被害生徒と保護者の話を聞こうともしていない。さらに言うなら、今回の確認取材で、いじめが原因で転校という事態になった令和元年から2年にかけても、市教委は被害者側の訴えを聞いていなかったことが明らかとなっている。子供の苦しい胸の内を聞こうともしない教員や役人が、いじめを根絶できるわけがない。
じつは、鹿児島市立の小・中学校で、伊敷中同様に「重大事態」と判断すべきいじめが2件、隠蔽されていたことが分かっている。そのうちの1件について市教委は先週、保護者に対し「重大事態になる可能性が出てきましたので、3日の会議で教育委員に報告します」と伝えてきたという。これは一体、どういうことか?