新型コロナウイルス感染者の療養施設で県医師会の男性職員が女性スタッフに不適切な性的行為を繰り返していた“事件”について議論が交わされた会議で、鹿児島県医師会の池田琢哉会長は、こう締めくくった。
「今日あったこういう情報をですね、ある程度かみ砕いて伝えていただければ、現状はこうなんだよということをですね、伝えていただければ、個人情報とかそういうのは絶対ダメですけれども、そういうのを除いてですね、伝えていただければありがたいなと思います。正式には、ちゃんとまとまった時点でわたしどもから発信していきたいなと思っているところです」
池田会長が言う「こういう情報」とは、男性職員のわいせつ行為が「合意に基づくもの」で、「新聞報道とはかけ離れている」ということ。残念ながら「こういう情報」の中には、男性職員がコロナ患者そっちのけで不埒な振る舞いに及んでいたことについての県民への謝罪や反省は皆無だった。
ハンターは、池田会長はじめ医師会幹部による非常識な発言が飛び出した『鹿児島県医師会郡市医師会長連絡協議会』の録音データを独自に入手。「医師会の幹部ともあろう者たちが、本当にハンターの記事にあるような発言を行ったのか?」という疑問の声に答えるため、これまで報じてきた問題発言の該当部分を、抜粋して公開する。
■池田会長の「合意」発言
2月22日に開かれた「郡市医師会長連絡協議会」の冒頭、池田会長は、問題を起こした男性職員の“事件”についての言い分を披露する中で次のような発言を行っていた。
(*以下、音声データ帯部分の ▶ をクリックすれば再生)
「本人(医師会職員)によりますと、昨年8月下旬から9月上旬にかけて当該医療機関と宿泊療養施設内で複数回、行為を行った。そのうち、性交渉が5回で、すべて合意のもとであった」
「まあ、ちなみに本事案は短時間の間になされて数回性交渉が行われていることは双方の代理人弁護士の主張からも明らかで、強姦とは言い難いと思います」
■大島郡医師会長の「よくあること」発言
会議をリードしたのは池田会長、常務理事、大島郡医師会の会長の3人。大島郡医師会の会長は「合意説」に賛同し、「よくあること」「話題にもならない」「人騒がせ」などと事件の矮小化を図っていた。
「降って湧いたようなことで、非常に驚いたと思います。まあ、そういうことはよくあることですよね。それ以上のこと、それ以下のこと、医師会病院或いは大抵はお金にまつわる話ですけどね。ですから、新聞記事をですね、ちょうど定例の医師会がありまして新聞記事が話題になったんですけど、みんな驚きはしましたけど、一瞬でしたね。それはみんなもそういう似たようないい加減なことを経験しているか……。月曜日にも医師会病院運営委員会がありましたけれども、もうその時はそういう話題は一切ありませんでした」
「そういうことでいきなり強姦だと怒鳴り込んでくる理事長も理事長ですけどね…。なんていうかその、人騒がせというんですかね……」
■常務理事が「合意説」を補強
問題の性行為が「合意」に基づくものだったと一方的に断定する池田氏。常務理事は、これに同調し、さらに補強する形で約10分間、医師会による男性職員への聴取内容をこと細かに公表した。下が、発言のさわりである。
「調査委員会の委員としてですね、我々が聴取した当医師会A氏の聞き取り調査結果をちょっと、まあ、会長が先ほどお話された通りなんですけど、もう少し詳しくお話したいと思います。なお、個人情報の保護がありますので、全ての人物をアルファベットで述べさせていただきます。この聴取はですね、弁護士を含めたり、複数回聴取しております。私が初めてこの事件を知ったのは会長がおっしゃった通り1月の11日でした。その理事長、X理事長としますけど、会長にお会いになられてですね、その後会長から明日からさっそく詳細を調査するという言葉が出ました。そこからですね、時間がかかったんですど、これは、まあ、あの、なぜかというとですね、我々が聴取した内容が、新聞報道とあまりにもかけ離れていたということです」
常務理事の発言の直後、再び大島郡医師会の会長が口を開く。今度は、被害を受けた女性スタッフの雇用主に対するいわれのない誹謗・中傷だった。
「今ね、詳細をあの、報告ありがとうございました。まあ、あの、多分これ(慰謝料請求)は脅迫行為ですよね。もしこれが本当であればね。明らかな脅迫行為。うん、やっぱり違法行為。まあ、しかし、私が言いたいのはですね、やはり先ほど言ったように、大きく食い違うわけですよね、これ」
■池田会長の狙いは「合意説」の拡散
会議の冒頭で池田氏が「合意説」を披露。大島郡医師会の会長と常務理事が会長の主張を裏書きし、本題のすり替えを行った格好だ。県医師会の方向性を決めたという「歪んだ構図」が浮かび上がる。ここでいう「本題」とは、本シリーズで度々述べてきた通り、県民の生命を守るため税金を投入して新型コロナ感染者を療養させるという重要なミッションの現場で、医師会の職員が、患者そっちのけで業務期間中に性的行為に走っていたことの是非。問われているのは、「合意」があったかなかったかではなく、県民の信頼や期待を裏切る行為に対する医師会の姿勢なのだ。しかし、池田医師会長は、会議の最後に本当の狙いを吐露していた。
「今日あったこういう情報をですね、ある程度かみ砕いて伝えていただければ、現状はこうなんだよということをですね、伝えていただければ、個人情報とかそういうのは絶対ダメですけれども、そういうのを除いてですね、伝えていただければありがたいなと思います」
“医師会の職員が新型コロナの療養施設で性的行為に及んだが、「合意」があったから大した問題ではない”――これが県医師会の会長の考え方なのだ。患者も女性の人権も無視。では、県民は、あるいは療養施設にいた患者は、この“事件”についてどう思っているのだろうか?
(つづく)