日本水連が鹿児島県の元AS女性コーチを不正受給で処分|国体補助金問題は未解決

鹿児島県水泳連盟でアーティスティックスイミング(AS)を指導していた女性コーチ(すでにコーチを辞任。本稿では「女性コーチ」で統一)が、日本水泳連盟から無期限の公認スポーツ指導者の資格停止処分を受けていたことが分かった。女性コーチはアーティスティックスイミング世界選手権のメダリストで、2020年開催予定だった鹿児島国体に向け、選手強化などのため県から支出されていた補助金を不正受給したとされる。

県水連と女性が所属していた「セイカスポーツクラブ」は、合計約168万円の補助金を県に返還しているが、不正受給がいつから、なぜ行われたのかなどについて、女性コーチが調査に応じていないため実態解明はなされないまま、幕引きされそうになっている。

クラブでは、不正受給に絡んで保護者に返還金が発生しているが、いまだに返金されておらず、問題は終わっていない。

■国体に向けた強化事業で不正

補助金の不正受給問題は、2020年10月15日の県議会決算委員会で県当局が説明し、明るみに出た。19年6月に外部からの情報提供で不正が発覚。15年度から18年度にかけて、国体に向けた選手や指導者向けの補助事業「競技力向上対策事業」と、審判員などを養成する「競技役員等養成事業」の2事業が悪用されていた。

決算委員会で県は、同じ日に同じ場所で行われた強化練習会と研修会について、それぞれで交通費や宿泊費などを請求したり、参加していない人物名で旅費を請求したりしていたと説明。計31件の事業について県水連とクラブに対し返還命令を出し、20年3月までに返還されたとの報告を行った。

補助金は通常、実施した事業の報告書とともに旅費などの収支報告書と領収書を添えて県に提出する。県水連ではアーティスティックスイミングの担当は女性しかおらず、女性が報告書や収支報告書を作成して県水連に提出。県水連がこれらの書類を県に提出した後、県が県水連に補助金を支給し、水連が女性コーチの口座に振り込む流れだったという。

不正が認定された例を挙げると、福岡市で開かれた合同練習会に参加していないトレーナーの旅費や謝金を補助金として受給。その申請書類には、トレーナーの印鑑が押されていた。また、金沢市で行った合宿では、女性の2人の子供の交通費を含めて経費として計上していた。

■「公認スポーツ指導者資格」は無期限停止に

31件の認定作業の過程で、女性の聞き取りは実現しなかった。女性の代理人弁護士は「事業の実施報告書や精算書は年度末にまとめて提出していたため、ミスを犯した部分があった。書類はまず、提出を受けた県側がチェックしていて、それを女性が県水連に提出する形だった。女性は自腹を切って指導しており、補助金が下りない事業はやりくりし、県職員から『うまくやってね』と言われていた。コーチの謝金は自分で使わず、スピーカーなどの備品購入に充てていた。意図的に不正を行い、私腹を肥やしていたことなどは断じてない」と説明。女性が県水連の調査に応じなかったのは「個別の案件だけ聞かれては、全体が見えなくなる。補助金事業の全体をトータルで説明するのであれば応じるとしていたが、そうではなかったので応じる必要はないと指示していた」と話す。

県水連は補助金の不正受給を日本水連に報告。日本水連は21年2月、女性に対し、無期限の公認スポーツ指導者の資格停止処分を決めた。女性側は「補助金を申請する書類の書き間違いがあったが、私的に着服し、使っていない。処分は重過ぎる」などとして不服を申し立てたが、日本水連の不服審査会は今年3月30日付で、申し立てを棄却している。

裁決書では「私的に補助金を流用していなかったこと、長年にわたって真摯に競技に取り組み、必要な備品などの調達などに苦心しながら指導を続けてきたこと、不慣れな書類の作成について、県水連などからの適切な監督や指導がなかったこと、並びに真摯に反省していることなどを考慮しても、問題は重大で、本件処分が裁量の範囲を越えて過度に重いとまでは言えない」と指摘した。女性の代理人弁護士は「女性から直接話を聞かないなど、箸にも棒にもかからない裁決で納得いかない。しかし、裁判で争うとなると、女性の負担も大きいので法廷闘争まではしない」と話している。

■不必要な「参加費」、返金の約束は守られず

女性コーチへの処分決定で、一件落着したわけではない。実は、表面化した31件以外にも不正受給の疑いがある事業があり、県に補助金不正について情報提供した人物は、決算委員会後の20年12月に15項目にわたる追加調査を求めている。疑いの残る事業の一つが18年度にアーティスティックスイミングの世界では有名な団体のコーチを招いて指導を受けた件だ。

「優秀指導者による継続的な指導」とした補助対象事業で、実施報告書が提出されている。期日は18年7月24日から25日までで、鹿児島市の鴨池公園水泳プールで小中高生9人が指導を受けたという内容だ。

この指導者の旅費の領収書は7月20日、謝金の領収日は7月25日となっている。ところが、この指導を受けたという期日はウソ。実際の指導日は6月23日、24日だった。なぜ、期日の違う報告書が提出されたのか――。このまま、不問にする話ではないだろう。

また、女性コーチが所属していたセイカスポーツクラブでは、大会参加のたびに選手から参加費を徴収していたが、ほとんどが積算根拠のあいまいな“言い値”で女性コーチが請求書を出していた疑いがある。遠征終了後に内訳を渡されない保護者もいた。実際の旅費は補助金ですべて賄われたにもかかわらず、参加者は旅費込みで徴収されていた。二重請求ということだ。

ある保護者が実際の経費以上に参加費を徴収されたとしてクラブ側に訴えたところ、クラブ側は経費内訳を再計算し「差額を返金させていただく」と約束する文書を出した(*下の写真参照)。19年6月20日に出された文書だが、これまで1円も返金されていない。ハンターはセイカスポーツクラブに対し、不正受給について説明を求める質問状を提出したが、回答期限までに回答はなかった。

■真相解明が求められるが・・・

県は最近、県水連とクラブに対し、疑惑の残る事業について再調査を求めたという。女性の不服申し立て棄却の決定を、今年10月になって把握したからだ。追加調査を求められてから2年近くが経っており、県は公金を取り戻そうという気はないのではないかと言われても仕方ない。

女性は既に鹿児島を離れており、再調査は困難だとみられる。まして、期限を区切った強制力のある要求でもない。当初、返還した補助金は立て替えたとの立場を取り、女性コーチに返還を求める方針としていた県水連は態度を一変。女性コーチが私的に流用していないとして、返還を求めないことになった。これでは、再調査を求めても答えは明らかだろう。

アーティスティックスイミングを指導できるコーチが少ない中、女性コーチは県水泳界にとってはありがたい存在だったという。2014年、国体に向けた小学4年生から中学2年生までの育成チームが鹿児島市のスポーツクラブに結成され、コーチに就いた。地元紙に紹介され「子供達には目標をもって頑張ってほしい。『鹿児島から国体選手』を目指し、シンクロの基礎を残していきたい」と語っていた。同年9月の鹿児島市の市報でもチームが紹介され、選手の一人は「鹿児島国体に向けてこれからも頑張って練習し、観客も楽しめる演技ができるようになりたい」と張り切っていた。ところが、いま、鹿児島代表を目指し練習している選手はいなくなった。不正受給で、痛手を負ったのは県でも県水連でもなく、活動の場を失った子供たちと言える。この子供たちのためにも、県は真相を明らかにすべきだ。

ちなみに、この女性の元コーチを巡っては、指導法についての問題を訴えている子供の保護者が複数いる。

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