声を上げることの意義、再確認 |ヤジ排除訴訟結審前に関係者ら講演

札幌高裁で国家賠償請求訴訟の控訴審が争われている首相演説ヤジ排除事件で11月中旬、同訴訟の当事者などが北海道内各地で講演し、権力監視の意義や表現の自由の大切さなどを訴えた。国賠控訴審では12月下旬にも警察官の証人尋問を迎えることになっており、関係者らは改めて一般市民の関心の高まりに期待している。

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11月19日に『民主主義とは何か、権力とは何か』をテーマに苫小牧市で講演を行なったのは、地元民放・北海道放送(HBC)報道部の山﨑裕侍デスク(51)と長沢祐記者(29)。同局は2019年7月の排除事件発生後から精力的に取材を続けており、これまでに2本のドキュメンタリー番組を制作したほか(うち1本がYouTubeで全篇視聴可能 )、この11月には取材成果をまとめた書籍『ヤジと民主主義』を出版するに到っている。講演では「おかしいことをおかしい」と言い続けることの意義を訴え、一連の取材を通じて得られた成果などを報告した。

「道警記者クラブの一員として警察を監視する責任があった」と語るのは、デスクの山﨑さん。いわゆる「特落ち」など警察からの制裁を覚悟しつつ、記者たちには「名誉の特落ち」と言い聞かせて積極的な取材を促していたという。おもに現場取材にあたった長沢記者は、元道警幹部の故・原田宏二さんへのインタビューを振り返り、警察の排除行為が多くのテレビカメラの前で行なわれたことを指摘する原田さんの「あなたたちは無視された」という言葉に大きなショックを受けたと明かした。これまで取材を継続してきたのは「報じ続けることの大切さ」を実感したためだという。

「道警は排除事件後7カ月間にわたって『事実確認中』と繰り返し、回答を引き延ばし続けました。世間の関心が薄れることを狙っていたのだと思います。記者としては、少しでも情報を出し続けることで市民に関心を持続させてもらう必要があった。国賠はどういう結果になっても最高裁まで行くと思うので、引き続き追っていきたいと思っています」(長沢記者)

当日は地元市民など約40人が足を運び、取材報告に耳を傾けた。主催した「戦争に反対する市民行動・苫小牧会議」の川上一さん(70)は「民主主義は『おかしいことはおかしい』と言うのが原則。現場からの報告はたいへん参考になった」と、改めて国賠訴訟の行方などに関心を深くしていた。

翌20日は国賠原告の大杉雅栄さん(34)が道南の七飯町に招かれ、約20人の参加者を前に当事者としてこれまでの闘いを振り返った。

札幌地裁の国賠一審では、訴訟を指揮した廣瀬孝裁判長(当時)が「立証責任は被告(道警)側にある」と明言している。これを受けた道警の立証活動がいかに破綻していたかを示す例として、ヤフーコメントの証拠提出があった経緯などを大杉さんが明かすと、参加者から大きな笑いが漏れた。一審判決は原告側の実質全面勝訴に終わったが「排除方針を決めた当日の指揮命令系統などがまったく明かされなかったことは残念」と大杉さん。道警は排除方針について、裁判前から一貫して「現場の警察官の判断」と主張していたが、大杉さんはこれを「あり得ない」と断言する。

「映像を観ればわかりますが、ぼくを取り囲んだ20人ぐらいの警察官がみんなインカムをつけて、何か指示を聞いているんです。ただ、それがどこからの指示なのかはわからず、裁判でもあきらかにできませんでした」

また本年7月の安倍晋三元首相銃撃事件後、一部メディアや地元議員などが「要人警護の萎縮」を批判し始めた言動について、大杉さんは「札幌の判決で現場が萎縮するのはあり得ない」と指摘、安倍氏の街宣車に背後から走り寄った大杉さんを警察官が止めた行為を「適法」とした地裁判断などを示し「一審判決と警備の不備は関係ないという事実がきちんと理解されていない」と訴えた。

講演を企画した「ななえ九条の会」事務局長の山﨑勇さん(70)は「ヤジ国賠の一審判決はこれまでの民事裁判の中でも断トツの画期的な判決」と地裁判決を称讃、「これを支持する声を裁判所に届けるべきでは」と参加者たちに呼びかけていた。

大杉さんとHBC報道部の講演、両方に足を運んだ東京都の50歳代男性は「同じ事件でも異なる視点からの報告を聴くことで問題を多面的に捉えることができ、理解が深まった」と話し、「安倍氏の事件後、大杉さんら原告の身の安全を心配していたが、元気そうでよかった」と安心した様子だった。

札幌高裁で弁論準備手続きが進んでいたヤジ国賠訴訟の控訴審は12月22日午後に初弁論を迎え、警察官1人の証人尋問が行なわれる。審理は来年3月7日の第2回弁論で終結し、年度明けにも二審判決に到る見込みだ。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。
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