市域に桜島を抱える鹿児島市が、危機管理対応のまずさを露呈した。
7月24日午後8時5分、鹿児島のシンボル「桜島」が噴火し、気象庁は50分に噴火警戒レベルを過去最高の「5(避難)」に引き上げた。その直後からテレビが速報を流すなど噴火に関する報道が始まったが、いきなりの「レベル5」に慌てたのか、肝心の鹿児島市によるネット上の情報発信は皆無。取材対応で避難対象地区の地名を間違った上、災害対策本部の設置も大幅に遅れるなど失態を重ねた。
■ホームページ上の噴火情報は皆無
鹿児島市のホームページを確認したところ、噴火から4時間以上経った午前零時を過ぎても桜島についての情報発信は一切なし(下の画面参照)。防災関連のページも開いてみたが、そこにも情報は一切なく、市の公式サイトから噴火警戒レベル5の事態について詳細を知ることはできなかった。
鹿児島市の担当課に確認したところ、レベル5へに引き上げられたという噴火情報をホームページ上で更新したのは、噴火翌日の25日午前5時5分頃だったとしている。ネットの強みである速報性は、まったく生かされていないということだ。
下は、市が作成した「火山防災トップシティ」という桜島火山防災対策についてのパンフレット(市のホームページにも掲載)の表紙だ。
このパンフの中で鹿児島市は、「目指す姿」を《火山防災のモデル都市として、国内外の火山地域の被害軽減のために世界貢献を行う火山防災シティ》とした上で、取組の柱として「大規模噴火でも『犠牲者ゼロ』を目指す防災対策」、「次世代に『つなぐ』火山防災対策」、「『鹿児島モデル』による世界貢献」と三つを明示。「大規模噴火でも『犠牲者ゼロ』を目指す防災対策」の中で、「効果的な情報発信体制の構築」を謳っていた(下の画像、赤い矢印と囲みはハンター編集部)。ネットの利活用に限っていえば、「効果的な情報発信体制の構築」ができていないことは明らかだ。
■掛け声だけの「火山防災トップシティ」
「火山防災トップシティ」を自認する鹿児島市だが、住民の命がかかった危機管理の運用は、まるでなっていない。市が災害対策本部を設置したのは午後10時5分。「鹿児島市地域防災計画」では、“噴火警戒レベル4(避難準備)又は噴火警戒レベル5(避難)が発表された場合は、自動的に災害対策本部を設置する”と定めているが、実際にはこの規定より1時間15分も遅れた対応だった。国や県は、レベル5(避難)となった8時50分に災害対策本部を立ち上げており、地元・鹿児島市の不手際だけが目立つ形となった。
ちなみに、市の地域防災計画を確認しようとしても、検索窓からストレートに当該PDFを捕まえるのは困難。検察窓に「鹿児島市地域防災計画」と打ち込んだ後、「防災・危機管理」→「13 防災・危機管理に関する法令・計画など」→「鹿児島市の防災・危機南里に関する計画」→「鹿児島市地域防災計画・本編(令和3年3月23日修正)(PDF:9,241KB)」とステップを踏まねばならず、市の担当課に検索方法を聞かなければたどり着くのが難しい状態となっている。市民は見なくてもいいということか……。
災害と取り組む姿勢が甘くなれば、重要な対策も遅れる。鹿児島市が一部地域住民への避難指示を発出したのは、噴火警戒レベルが5に引き上げられてから1時間半後の午後10時20分。火山防災トップシティは単なる謳い文句と言わざるを得ない。
桜島は2014年8月、火山性地震が増加したことを受け噴火警戒レベルが3(入山規制)から4(避難準備=現在は「高齢者避難」)に引き上げられた。鹿児島市は火口近くの3地区に避難勧告を出し、数十世帯が島内の安全な場所に移動する事態となったが、市バスを利用した避難に遅れが出たことに厳しい批判が出た。鹿児島市は、その時の教訓を生かせていない。
市は、危機管理以前の問題でも市民を唖然とさせた。NHKのニュース番組で市の危機管理官が、避難対象となった古里町(ふるさとちょう)を「こざとちょう」と読み間違い、記者から確認されて訂正するという失態を演じたのだ。認識の甘さを、自ら証明した格好だった。
下鶴隆央市長が公表しているマニフェストには、“防災会議の機能をより高め、市民の生命と財産を守ります。火山防災、原子力防災を含め、想定される様々な災害に対応するため、防災会議に各分野の専門家を積極的に招聘します。また避難訓練等で得られた知見をたえず活用し、より市民の生命と財産を守ることのできる体制づくりを進めます”とあるが……。