2017年1月、大阪府豊中市に設立予定だった学校法人森友学園の「瑞穂の國記念小學院」。国有地が8億円も値引きされるという「激安」で売られたことで、背後に安倍晋三首相(当時)の昭恵夫人が関与していたとして大きな問題となった。
その結果、理事長の籠池泰典被告と妻の諄子被告が詐欺容疑などで逮捕・起訴され1審、2審とも有罪判決(泰典被告は懲役5年、諄子被告は懲役2年6カ月)。最高裁に上告していたが先月、訴えを棄却された。最高裁に「異議申立」をしたが認められず、近く収監される見通しだ。
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森友学園事件では、その後、財務省の公文書改ざんを「強要」された職員の赤木俊夫さんが自殺。国賠訴訟で国は、「認諾」という形で赤木さんの主張を全面的に認め損害賠償請求の支払いに応じたが、当時の国会で虚偽答弁を繰り返した元理財局長の佐川宣寿氏はなんら罪に問われていない。赤木さんの国賠訴訟でも法廷には姿を見せなかった。
耳目を集めてきた森友学園事件だが、国は赤木さんに1億円あまりを支払って責任をとったふり。一番弱い籠池夫妻を刑務所に放り込み、幕引きが図られた格好だ。政局捜査に忖度判決――検察や裁判所への信頼が揺らぎかねない状況と言えるだろう。
籠池夫妻への刑事告発は「日本タイムズ」というローカル紙を主宰する川上道大氏が大阪地検特捜部に出したもの。告発の罪名は「補助金適正化法違反」だった。要するに、国土交通省から支出された5千万円あまりの補助金を不正に受け取ったという趣旨だ。しかし、起訴された時にマスコミは大混乱した。「補助金適正化法違反の告発なのに、詐欺で起訴したと情報が流れてきた。『本当か?』と裏どりに必死になったことを今も記憶しています。告発状の内容より重い罪で起訴なんて聞いたことがない」と当時の大阪地検担当記者は振り返る。
補助金適正化法違反の「不正受給」は「5年以下の懲役もしくは百万円以下の罰金」。だが、詐欺だと「10年以下の懲役」と法定刑がぐっと上がる。そのため大阪地検特捜部は、大阪市などからの補助金受給も詐欺だとして籠池夫妻を再逮捕していた。その結果の重い実刑判決である。
ある特捜部OBの弁護士は、次のように指摘する。
「もともと、特捜部が補助金適正化法違反にしかならないものを、詐欺にアップさせた。普通では考えられない」
元東京地検特捜部の郷原信郎弁護士もブログに、『検察は籠池氏を詐欺罪で起訴してはならない』というタイトルでこう記した。
《国の補助金は本来、当局による十分な審査を経て支給されるものであり、不正な補助金交付を行ったとすると、国の側にも問題がなかったとは言えない。(中略)法律の趣旨からすると、国の補助金の不正受給である限り、詐欺罪が適用される余地はない》
ここで、もう一つ疑問が浮上する。森友学園事件が騒がれた時、籠池夫妻の財政状況は芳しいものではなかった。それでも、カネを捻出し、弁護士を通じて国交省に受給した5,000万円を返還している。ある意味「罪」を認めているからこそ籠池夫妻は返還しているのだ。
一般的に詐欺のような財産犯の場合、罪を認めて被害回復し、さらに「嘆願書」「和解書」などがある場合、執行猶予判決となることが多い。籠池夫妻は逮捕前に返還しているにもかかわらず、より重い詐欺で起訴されるという不可解な検察の追及がなされている。おまけに、郷原氏が述べているように、当初問題視されたカネは国が審査した補助金。そうなると、再逮捕事案の中心は、返還できていない大阪市などの補助金2,000万円ということになる。「補助金適正化法違反なら、籠池夫妻もそう争う必要がなかった。それが詐欺となれば認めたうえでカネを返さないと執行猶予にはならない。争うしかなかった」と籠池夫妻を支援してきた関係者は話す。
詐欺であるなら、当然幼稚園を経営する籠池夫妻にはそんな知恵がない。共犯者として、知恵袋、指南役がいるはずだ。それが、設計事務所や建設会社、弁護士らだったとみられている。しかしそうした関係者は「籠池夫妻に騙された」という証言で一致。籠池夫妻がいくら「違う」と声高に叫んでも、ガッチリ固められた検察ストーリーを崩すことはできなかった。
計画当初、森友学園は、小学校開設の許認可についての資金不足などから苦しい状況だったという。しかし、泰典被告が国会の証人喚問で「神風が吹いた」というほど大きく展開がかわり、認可を得ている。もちろん、国有地を「激安」で払い下げられたからだ。
当然、背後には安倍氏夫妻ら政治家の影があったことは、財務省が改ざんした公文書でも明白。松井一郎大阪府知事(当時)の関与もささやかれていた。ゆえに「神風が吹いた」のである。
泰典被告は、証人喚問で「九分九厘でき上がっていて、高げたを外された、はしごを外されたという思い」と述べ、政治が深く関与していたことを認めた。しかし、森友学園事件は民間人の籠池夫妻だけをいけにえにするという醜悪な展開を辿り、幕引きされた。巨悪は眠り続ける。