北海道警・首相ヤジ排除問題で新展開|裁判所が証人尋問の必要性示唆

今年7月に発生から丸1年を経た首相演説ヤジ排除問題で8月21日、安倍晋三総理大臣にヤジを飛ばして排除された男性らが北海道警察を訴えた裁判の口頭弁論が札幌地方裁判所(廣瀬孝裁判長)で開かれ、排除行為の事実認定について裁判所が証人尋問の必要性を示した。被告の道警は次回弁論までに、原告の主張する表現の自由侵害に改めて反論するとしている。

■「表現の自由」否定する北海道警

提訴以来4度めとなる弁論で意見陳述に立った原告代理人の今橋直弁護士(札幌弁護士会)は、ヤジなどの表現の自由について「とくに重要な人権であり、厚い保護が必要」と主張、これを認めなければ独裁政治を招くことになると訴えた。
「現場の警察官らの発言・行動を見ると、表現の自由とは何なのか、それがいかに重要かを、まったく理解していないと思わざるを得ません」(今橋弁護士)

原告の大杉雅栄さん(32)は昨夏の参議院議員選挙期間中、首相の応援演説に「安倍辞めろ」「帰れ」とヤジを飛ばして多くの警察官に「排除」された。もう1人の原告・桃井希生さん(25)は排除の様子を目の当たりにし、黙認すべきではないとの考えから「増税反対」などと叫んだことで、同じように行動の自由を奪われた(下が桃井希生さんが排除された瞬間(昨年7月15日夕、JR札幌駅南口)=弁護団提供の動画から)。

排除にあたった警察官は報告書で、当時の桃井さんの様子を「全身を震わせて興奮」「目を見開き顔を赤くして」などと表現、ことさら行為の危険性を強調していた。今橋弁護士はこれを「証拠の動画と合致していない」と指摘しつつ、仮に事実だったとしても「なんら不自然ではない」と主張した。
「むしろ真剣に、一所懸命に、自らの信念に従って意見を表明している真摯な態度として、高く評価されるべきです。まさか被告は『安倍首相を批判すること自体、異常で批難されるべき』と主張したいのではないでしょうね?」(今橋弁護士)

道警が排除の根拠としているのは、警察官職務執行法と警察法。これについて札幌地裁の廣瀬孝裁判長は「警職法・警察法の該当性を裏づける事実の存否が争点になる」と要点を絞り込み、その上で「なんらかの人証が必要だと思っている」と、証人尋問による事実認定の考えを示した。被告の道警は原告側の表現の自由侵害の指摘に対し、次回弁論までに反論をまとめるとしている。

弁論後の報告集会で原告の桃井さんは、1年前の行為について「なんら危険なことをした覚えはない」と、排除した警察官らを改めて批判した。
「警察は、無から有をつくり出す。札幌駅では大声を出しただけだし、大声が危険だというならそっちのほうが問題だと思います」(桃井さん)

■退任の道警本部長は警察庁へ“栄転”

弁論のあった日はおりしも、8月24日付で警察庁長官官房付への異動が決まった山岸直人・道警本部長の退任会見が開かれていた。記者クラブ非加盟の筆者はこれに参加できていないが、加盟各社の報道によれば本部長は、ヤジ排除問題について「係争中」を理由にコメントを控えたとされる。先の報告集会で原告の大杉さんは、山岸氏の“栄転”について「働きが認められたわけですね」と苦笑を浮かべ「まさに安倍人事。おめでとうございます、カッコ、地獄に堕ちろ、カッコ閉じ」と痛烈に皮肉った。

ヤジ排除をめぐっては現在、警察官らの排除行為を違法とする刑事告訴への不起訴処分を受け、大杉さん・桃井さんが捜査のやり直しや刑事裁判の開始を求める「検審申立」「付審判請求」を申し立てているが、現時点でいずれの結論も伝えられていない。2人が道警を訴えた裁判の次回弁論は10月28日午前、札幌地裁で開かれる。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。
北方ジャーナル→こちらから

 



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