自身の住むアパートの別の部屋に侵入したとして本年3月に逮捕された北海道の元警察官が、遅くとも4年前から複数の居室への侵入行為を繰り返し、下着などの窃盗を続けていた疑いがあることがわかった。5月中旬に始まった裁判の冒頭陳述であきらかになったもので、現時点で2つの侵入事件で起訴されている元警察官は、初公判で証拠調べのあった1件について「間違いありません」と起訴事実を認めている。
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北海道江別市のアパートの一室に侵入したとして本年3月7日に逮捕されたのは、北海道警察・札幌東警察署で交通捜査を担当していた男性巡査部長(41)=のち免職。同アパートの4階に住む元巡査部長はその日未明、3階の一室に侵入して住人の財布を盗み出した。中身を物色後、再び同室へ侵入して財布を戻そうとした巡査部長は、気配に気づいた住人男性(23)に掴みかかられる。この時、元巡査部長はスタンガンや催涙スプレーなどで武装していたといい、被害男性はスプレーを顔に噴きつけられて3日間の治療を要する怪我を負った。元巡査部長は騒ぎを聞きつけたほかの住人らに取り押さえられ、住居侵入と傷害の容疑で現行犯逮捕。逮捕発表に伴い、道警監察官室は当時の久馬昌司室長名で次のような謝罪コメントを発している。
《職員が逮捕されたことは言語道断であり、被害者及び関係者の方々に深くお詫び申し上げます。今後の捜査結果をふまえ、厳正に対処いたします》
常習性が疑われる事実が伝わったのは、3週間あまりが過ぎた3月29日。札幌市内の留置施設に勾留されていた元巡査部長が、上に述べた件とは別の侵入行為で再逮捕されたのだ。当時の発表によれば、犯行日時は昨年12月上旬。被害者は江別市の女子学生(23)で、やはり元巡査部長と同じアパートの別の部屋に住んでいた。元巡査部長は同室に侵入して現金1万4,000円とキャッシュカードを盗んだとされ(のちの検察の起訴状では現金1万円とキャッシュカードなどが入った財布・2,000円相当)、住居侵入と窃盗の疑いで再逮捕。札幌地方検察庁は先立つ同24日付で3月の侵入・傷害事件を起訴、4月18日付で再逮捕ぶんの侵入・窃盗事件を追起訴した。この間の4月13日、道警は元巡査部長の懲戒処分を発表、本年初の免職処分が伝えられることとなる。監察官室は葛西浩司・新室長名で再び謝罪コメントを出すに到った。
《事実に基づき厳正に処分いたしました。改めて被害者及び道民の皆様に深くお詫び申し上げます。今回の事実を厳粛に受け止め、指導監督を徹底して参ります》
職を失った元巡査部長が札幌地方裁判所(新宅孝昭裁判官)での初公判に臨んだのは、懲戒処分から1カ月を経た5月16日午後のこと。最初の逮捕事案で侵入と傷害の事実について問われた元巡査部長は、抑揚を欠きながらもはっきりとした声で「間違いありません」と起訴事実を認めた。裁判官が念を押すように侵入行為とスプレー噴射の認否を求めた際も、動揺を見せず「間違いありません」と繰り返している。
検察の冒頭陳述では、これまでの逮捕・起訴発表では伝えられていなかった事実が明かされることになった。元巡査部長は、遅くとも2019年2月ごろから同じアパートのほかの居室への侵入行為を始めたのだという。目的は「女性の下着などを盗むため」で、手始めに自身の隣室の主が女性であることを確認して同室へ侵入、その後も女性の入居を把握できた部屋への侵入を繰り返した。各室に住人が滞在しているかどうかは、大胆にも目当ての部屋のドアノブを回して確認したという。無施錠だった場合はそのまま入室して鍵を盗み出すなどし、複数の部屋の合鍵を作製・所持するに到った。
3月の侵入事案でも元巡査部長は被害者方居室の合鍵を使って犯行に及んでおり、同室には逮捕時も含めて5回ほど侵入しているという。被害男性の同居人である無職女性(22)の下着などを盗むためだったと思われ、仮に今回の侵入が住人男性に気づかれることなく完遂できたとしたら、今後も被害が拡大していた可能性が高い。
現場のアパートは複数の私立大の通学圏に立地し、若い人の入居が多い。住人の1人である男子学生(26)は筆者の取材に「間取りも2Kでファミリー向けとはいえず、40代の人(元巡査部長)が住んでいるとは思わなかった」と驚く。年長の入居者である元巡査部長には結婚歴がなく、現在に到るまで独身。自営業の両親が徒歩2分ほどの距離に住むが、元巡査部長がわざわざ実家至近のアパートで一人暮らしを続けていた理由は定かでない。
常習が疑われる侵入事件は次回・6月6日の第2回公判でもう1つの事案(昨年12月の侵入盗)の証拠調べが行なわれる予定。その間の5月末にはさらに別の侵入事案で3度目の追起訴があるとみられている。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |