「お盆が明ければ一気に党内政局だ」と話していた自民党国会議員の話が、数日早く現実のものとなった。
8月14日、岸田文雄首相が記者会見を開き「次の総裁選挙には出馬しない」と任期いっぱいで首相の座を降りることを表明。永田町では、首相が解散総選挙を先延ばしにするという『公約』で党内をまとめ、続投するとの見方も出ていたために、衝撃が走った。
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これまで総裁選といえば、派閥の論理ですべてが決まってきた。しかし、裏金事件をきっかけにして岸田首相が派閥を解散。岸田首相は14日の会見で「政治とカネの問題を巡っては、派閥を解消し、パーティー券購入の上限を引き下げ、強い思いを持って決断をした」と語った。その言葉通り、派閥の数がものをいう総裁選びは、岸田首相が最後となった。次の総裁は、派閥に頼らない初の自民党トップになる。
来年7月には参議院選挙を迎え、来年10月には衆議院も任期満了。夏には東京都議選も控えており、総裁選後は選挙一色となることが予想される。
「選挙の顔になる総理総裁でなければ意味がない。派閥もなくなり、選挙に勝てる人気投票になる可能性が高い」とどの議員も異口同音にそう話す。
大手メディアが毎月実施している世論調査では、必ず「次の総理は誰?」という項目がある。今年に入って半年ほどのメディアの「次の総理は誰?」という数字をまとめた一覧表が出回っており、常に1位をキープしているのが石破茂元幹事長だ。共同通信の7月の調査では29.1%という高い数字をたたき出した石破氏。総裁選出馬に前向きとみられている。
石破氏に近いX議員は、「何度も総裁選に出馬し、あと一歩のところまで迫った石破さんは、ある意味最も総裁選を知る人物。勝負に出ることはほぼ間違いない」と打ち明ける。
石破氏は、総裁選に合わせるように「保守政治家 わが政策、わが天命」(講談社)を出版。総裁選前の著作出版といえば、安倍晋三元首相が「美しい国へ」(文藝春秋)を出し、2006年の総裁選で勝利したことが記憶に新しい。
岸田首相も、2021年の総裁選前、政権構想を打ち出した「岸田ビジョン 分断から協調へ」を上梓している。
「石破さんは、さまざまな計算をしながら総裁選を戦おうとしている。推薦人20人の確保が危惧されているが、世論調査の人気トップであり、必ず集まると信じている。派閥政治が終わりとなり、まさに石破さんに風が吹いている」(前出のX議員)
前述の一覧表で、ナンバー2の座をキープしているのが小泉純一郎元首相の次男、小泉進次郎元環境相だ。だが、石破氏との比較になれば10%近く引き離されている。これまで「小石河」と呼ばれ、石破氏、河野太郎デジタル相らと歩調を合わせてきた進次郎氏だが、別の自民党議員が同氏の近況について次のように語る。
「これまで、小泉といえば飲み会には来ないことで有名。家に帰って子どもの世話が定番でした。携帯電話にもよほどでないと応答しない。番号すら教えないという徹底ぶり。それが最近は、飲み会にも顔を出すようになった。総裁選への覚悟が決まったような感じです」
一方、河野氏は2021年の総裁選で岸田首相に次いで2位となった実績がある。メディアの調査では、石破氏と小泉氏に次いで3位、約8%の支持がある。河野氏に近い議員はこう話す。
「河野さんは側近に、石破さんや小泉さんの動向を探らせている。前回は圧勝ムードだったが、土壇場で、まさに派閥の論理で岸田総理に負けた。派閥の壁がいかに厚いかを感じている。本当に出るかどうか、ぎりぎりまで考えるだろう」
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この3人をバックアップするとみられるのが、岸田政権下では非主流派となっていた菅義偉元首相だ。これまで派閥を作らなかった菅氏にとっても、今回の総裁選はキングメーカーとして君臨するための絶好の舞台となる。
「菅さんはなんとか岸田総理に一泡吹かせたいと裏で動いている。ただ、派閥を仕切ったことがないので、菅グループの議員といえども、あまり抑えが効かないのは事実。小泉さんも河野さんも出ると言って譲らず、推薦人も20人確保できるメドが立った場合どうするのか。どちらも人気が高く地方の党員投票でかなりとれるのでそれなりに自信があるはずだが、共倒れの危険性もある。その時、2人が菅さんの言うことを聞いて一本化できるのか。それとも、今回だけ石破さんを支援して次を狙うのか。菅さんの調整にかかっている」(前出のX議員)
この3人に迫るのが、高市早苗安全保障担当相と上川陽子外相という2人の女性。高市氏は前回の総裁選で、最大派閥を率いていた安倍元首相の支援もあって3位に浮上した実績がある。
「安倍先生が亡くなってからは、安倍派のメンバーで高市さんと動く人はほとんどいない。裏金事件もあってみんな控え気味。小泉さんが出るなら、純一郎元首相は安倍派だったのでそちらの支持に回ることになるでしょう。裏金事件の影響もあり、若い議員も多くいますから一枚岩にはとてもなれずに、バラバラですよ。ただ女性ということで、自民党が最も変わったぞとアピールできるのは高市さん。一気に支持が流れることもある」(旧安倍派の議員)
上川氏は、岸田首相のお眼鏡にかなって外相に抜擢されたが、同じ旧岸田派には出番を待っている林芳正官房長官もいる。実際に出馬するかどうか微妙だ。メディアで名前が出ている小林鷹之前経済安全保障担当相や加藤勝信元官房長官は期待度1%に届くか届かないかという数字。派閥の倫理なら最右翼とみられる茂木敏充幹事長も、1%ほどしか支持がない。
「誰がなってもすぐに解散総選挙でしょう。選挙の顔として有力なのは、世論調査で上位に来ている石破か小泉、河野の3人のうちの誰か。もしくは、女性ということで高市か上川あたり。茂木、加藤や小林に至っては1%も支持がないのでダメでしょう」(自民党関係者)。
派閥なき自民党の総裁選の行方は混とんとしている。