検察審査会「公文書開示」に不可解ルール|郵送開示不可、議決掲示文は不開示?

「開示の実施を受ける際には、本通知書を持参してください」――検察の不起訴処分の適正性を審査する第三者機関「検察審査会」が、公文書の開示に際して行政庁や裁判所などが採用している「郵送による写しの交付」に対応していないことがわかった。請求人の居住地から遠く離れた場所にある審査会に公文書の開示を求めた場合、開示対象文書を閲覧するにはいくら遠くとも請求人が直接現地へ赴かねばならず、写し(コピー)を入手するには各地の弁護士会などが裁判所に備え付けてあるコピー機を使わなくてはならない。各検審によれば使者(代理人)への委託は可能だが、その場合も飽くまで現地で閲覧・謄写に対応する決まりで、文書のコピーを郵送で交付することはできないという。本年1月に北海道内9カ所の検審へ文書開示請求を行なった筆者は、まもなく数枚の写しを入手するために道内各地への遠征を余儀なくされそうだ。

■全国に165カ所、北海道に9カ所の検審

検察審査会は、各地の検察庁で不起訴処分となった事件について被害者からの申し立てなどで各処分の妥当性を審査する機関。投票権を持つ一般国民の中から選ばれた11人で構成され、11人中8人以上がもとの処分を覆して起訴すべきと判断した場合は「起訴相当」を、6人以上が起訴すべきとした場合は「不起訴不当」を、いずれにも及ばない場合は「不起訴相当」を議決する。検察は議決を受けて起訴の是非を検討し直すことになるが、「起訴相当」議決後に改めて起訴が見送られた場合でも、検審がその後再び「起訴相当」議決を出した場合は否応なく「強制起訴」となる。全国165カ所に設置され、各地の地方裁判所や同支部内に事務局が置かれている。

筆者が拠点とする北海道では、札幌地裁管内に4カ所(札幌、小樽、岩見沢、室蘭)、釧路地裁管内に3カ所(釧路、帯広、北見)、及び旭川地裁と函館地裁の各管内にそれぞれ1カ所、計9庁が置かれている。この9カ所に一斉に情報開示請求(検察審査会行政文書開示申出)を行なったのは、本年1月中旬のこと。開示を求めたのは、昨年1年間に各検審で議決に到った全事件に係る公文書すべて。各検審は審査事件の議決とその理由を定まった書式にまとめて裁判所の掲示板に掲出しているが、その掲示文書を公式サイトで公表したり報道機関などへ交付したりする慣行がない。このため、議決に関心がある国民がその内容を知るためには、議決文の掲出期間内に掲示板のある場所へ、即ち各地の裁判所へ足を運ばなくてはならないのだ。今回の開示請求には、こうした事情により確認不能だった情報を適切に開示してもらう目的があった。

請求を寄せた9庁のうち、室蘭検審と岩見沢検審の2庁は2月中旬までに文書不開示決定を伝えてきた。開示対象文書は作成・取得していないというわけで、この決定により同2庁では昨年中に議決に到った審査事件が1件もなかったことが事実上確認できた。残る7検審は同時期までに決定に到らず、一律に「通知期限の延長」を報らせてきた。筆者に届いた延長通知によれば「文書の探索及び精査に時間を要している」という。さらに3カ月後の5月中旬には各庁から「再延長」の通知が届き、開示・不開示の決定に思いのほか時間がかかっていることが察せられた。

■郵送の文書開示拒否

7検審の中で最初に開示決定に到ったのは、現時点で唯一の決定庁となっている小樽検察審査会。6月25日付の決定通知書を手にした筆者は、『審査事件簿』など5枚の公文書の一部開示が決まった結果を確認できた。いうまでもなく、請求人としてそれらすべての写しを入手する考えだったが、通知書の封書には「文書開示の実施方法の申出書」が同封されていない。これは検察などの行政庁や裁判所などが開示決定に伴って請求人に提供している用紙で、必要事項を記入した用紙に謄写(コピー)手数料ぶんの収入印紙と返信用郵便切手を添えて返送すれば、対象文書の写しが郵便で届けられることになっている。小樽検審からの決定通知にその用紙が同封されていないということは、コピーの郵送交付ができないということを意味していた。通知をよく読むと、まさしく「閲覧の場所 小樽検察審査会事務局」とあり、「開示実施の期間 令和7年6月26日から7月25日まで(土、日、祝日を除く。)の午前9時から午後4時まで(午後零時15分から午後1時までを除く。)」との但し書きが添えられていた。(*下の画像参照)

筆者の居住する札幌市は、たまたま小樽市と隣接している。公共交通機関で片道1時間ほど、容易に日帰りで往復できる距離だ。とはいえ、それは飽くまで「たまたま」のこと。仮に請求人が重い障碍を持っていたり高齢だったりして移動がままならなかった場合、あるいは一般的な勤め人で平日の午前9時から午後4時までに空き時間を作れなかった場合、文書の閲覧・謄写は断念せざるを得ないということになる。

7月上旬、筆者は小樽を含む先述7検審のうち地元・札幌を除く6庁へ問い合わせを寄せ、郵送による写しの交付の可否、及び閲覧・謄写の代理人への委託の可否を尋ねた。結果は、いずれも不可。これから決定が出ると思われる旭川や函館、帯広、釧路、北見の各地へ、筆者はただ文書のコピーを受け取るためだけに赴かなくてはならないということだ。なぜ不可なのか問いを重ねたところ、どうやら裁判所や検察などで設けている「謄写手数料」の規定がなく、そのため郵送交付に対応できないということらしい。しかし、国民への情報提供に際し「規定がないからできない」とは本末転倒ではないか。検審の情報は各庁の持ち物ではなく、国民の財産。小樽の検審の文書を札幌市民は入手できるが九州や沖縄の住人は入手できないというのでは、憲法が認める「知る権利」に地域格差が生まれることになり、公平性に欠ける。

対応に疑問を感じた筆者は、上記のやり取りなどをツイッター(現・X)に投稿(⇒こちら)。するとその1時間半ほど後に各検審から連絡が寄せられ始め、代理人への委託の可否については改めて検討するとの意向が伝えられた。一夜明けて再び各庁から届いたのは「使者(代理人)への委託は可」との結論。開示決定文を各地の知人などに託し、代理で閲覧・謄写してもらうことは問題ないということになった。

■不透明な組織運用

ここで根源的な疑問が湧く。検察審査会は、検察庁や裁判所などのような「上級庁」を持たない。全国165カ所の検審すべてが独立している建前だ。つまり「上」にお伺いを立てることなく主体的にあれこれを決めることができる機関だ。しかしながら、今回の問いへの対応は6検審すべて「郵送不可・代理人委託可」と足並みが揃っている。先述した「規定」に則った対応なのかもしれないが、ならばその規定は誰が決めているのか。国民としてそのルールの改善を求めることはできないのか。

検察審査会の情報開示では、一般の役所のそれと同じように苦情申し立て(審査請求)ができることになっている。審査にあたるのは、やはり第三者からなる検察審査会情報公開・個人情報保護審査委員会。その事務局が東京都内の東京第一検察審査会にあると知った筆者は、同検審へ問い合わせを寄せ、「開示の実施方法」への苦情申し立てが可能なのかどうか、つまり郵送対応不可への苦情が可能なのかどうかを尋ねてみた。

結論を言うと、この問いへの明答は結果的に得られなかった。だがやり取りを通じ、検審や先の審査委員会が対応の根拠としている「申し合わせ」の内容を確認することはできた( ⇒こちら )。郵送不可などのルールはつまり、この申し合わせに拠っていたようだ。上掲の文書によればこれは「全検察審査会申し合わせ」、つまり全国165の検審すべてがなんらかの話し合いの場を設けてそのルールを定めたことになっている。では、その音頭をとったのは誰なのか。国民がルールの変更を求めるとしたら、どこに要望を寄せればよいのか。繰り返しになるが各検審には上級庁が存在せず、即ち165庁を束ねる機関がどこにもないのだ。第一東京検審にこの素朴な疑問を寄せてみたことろ――、

「やはりそれは、各庁へご要望をお寄せいただくしかないかと。その上で、各庁から声が上がって変えていく、という形は考えられると思いますけれども・・・」

検察審査会は、捜査機関の処分を第三者として監視する重要な機関。もとよりその存在意義はあきらかだが、情報公開のあり方に限ってはまだまだ発展途上にあると言わざるを得ない。最初の開示決定から3週間ほどが過ぎた7月中旬、筆者は小樽検審を訪ねて一部開示文書計5枚のコピーを入手することができた。費用は1枚あたり20円、5枚で計100円。だがそれを上回る交通費を負担して手に入れた文書は、ことごとく墨塗り処理だらけの「海苔弁当」となっていた。審査事件の概要は容赦なく真っ黒に塗り潰され、あろうことか審査の結果、つまり議決までもが不開示となっていた。これにはさすがにコピー作業中に疑問の声を挙げ、そもそも前述の掲示板で日常的に不特定多数へ公開している議決文が開示対象に含まれていない理由を尋ねたが、やはり明答は得られなかった。「掲示されている議決文は『公文書(検察審査会行政文書)』ではないのか」の問いにも、答えは返ってこなかった。

追って、函館や北見などの遠方からも一部開示決定が伝わることになる。筆者はそれらの決定を受け、安からぬ交通費と短かくない時間をかけ、場合によっては宿泊費も支出し、その上で身も蓋もない海苔弁当を受け取ることになるようだ。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

 

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