1月20日午後、岸田文雄首相は、愛媛県でタブレット端末を使った模擬授業や道後温泉周辺の観光状況を視察した。その後、なぜか松山市から高速船に乗船し、地元の広島市に降り立つ。向かった先は、麻生太郎自民党副総裁の支援団体「中国素淮会」による政治資金パーティーの会場だった。
■「中国素淮会」の代表と麻生、岸田の関係
時事通信社の「首相動静」には以下のように記されている。
・午後6時13分、広島市南区の広島港着。同15分、同所発。
・午後6時43分、同市中区のリーガロイヤルホテル広島着。宴会場「ロイヤルホール」で麻生副総裁の後援団体「中国素淮会」のセミナーに出席し、あいさつ。
・午後7時14分、同ホテル発。
・午後8時7分、広島空港着
麻生氏の政治資金パーティへの滞在時間は、たった30分。ハンターが入手した「中国素淮会経済セミナーご案内」という文書によれば。セミナーは午後5時からはじまり、コロナ感染拡大防止のため、1時間で終了。懇親会はなく記念品が渡されると記されている。
中国素淮会経済セミナー参加者の一人はこう話す。
「麻生さんがいつもの調子で、基調講演をしていた。それが終盤になったところで、岸田総理が到着。マイクを手に挨拶をされて、すぐに出ていかれた。会場に来ていたのは自民党の国会議員や地方議員、地元企業の幹部らでした。食事はないと聞いていましたが、軽食とビールなどはありました。それでも、2万円の会費です。儲かった分は、麻生さんのにまわるんでしょうが、こんな会合のために、わざわざ総理大臣が来る必要があるんですかね」
たしかに、麻生氏関連の行事とはいえ主催した中国素淮会はローカル政治団体。しかも、この日の出張は、公費で賄われている。岸田首相が、公務で訪れた視察の時間を削ってまで麻生氏の政治資金パーティに顔を出した理由はなにか?
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ハンターでは、2020年10月20日配信の『自己破産したJC仲間が麻生財務相側に不可解な献金』で、中国素淮会の代表で麻生氏のJC(青年会議所)仲間でもある奥原征一郎氏側から多額の献金を受けていたことを報じている。
中国素淮会の政治資金収支報告書を見ると、2015年、16年にそれぞれ1,000万円、17年には2,000万円、18年に1,000万円と4年間で5,000万円もの政治資金が麻生氏の資金管理団体「素淮会」に流れていた。
中国素淮会収支報告書からは、岸田首相との深い関係もうかがえる。同団体からは2019年、岸田首相が支部長の「自民党広島県第一選挙区支部」に、30万円の寄附とパーティー券購入10万円で合計40万円。2016年には、政治団体「岸田文雄後援会」に100万円が提供されていた。つまり、中国素淮会は、岸田首相にも政治資金を提供しているのだ。
これまでハンターで報じてきたように、中国素淮会の代表を務める奥原氏は経営していた「寿工業」(本社・新宿区)を破綻させた後、その処理のため「KK資産管理会社」と社名を変更する。法人登記には2017年6月に特別清算が終了したと記載があるが、破綻処理の真っ只中、別会社を使って麻生氏の政治団体に寄附を行っていたことが分かっている。
一方、岸田首相が中国素淮会から100万円の提供を受けたのは2016年12月。こちらも、「寿工業」の清算が終わっていない段階で資金提供を受けていた。
政治資金規正法は、「三事業年度以上にわたり継続して政令で定める欠損を生じている会社は、当該欠損がうめられるまでの間、政治活動に関する寄附をしてはならない」と定めており、寿工業の清算が進められていた時期に奥原氏側から麻生、岸田サイドに対し行われた献金は、この規定の趣旨を無視した脱法的な行為だったと言わざるを得ない。
広島のある地方議員の話。
「岸田首相にとっては、総裁選で世話になった麻生氏に恩が売れ、かつ多額の資金提供をしてくれる後援者・奥原氏にもいい顔ができる、一石二鳥の機会だったのでしょう」