東京地検特捜部は18日午後、昨年7月の参院選で地元広島の県議や市議にカネを渡したとして前法相で衆院議員の河井克行容疑者と妻で参院議員の河井案里容疑者を、公職選挙法違反(買収)の疑いで逮捕した。
現職の国会議員が選挙に絡み、夫婦で2,000万円を超えるとされる現ナマをばら撒いた前代未聞の事件が、安倍政権を大きく揺るがすことになりそうだ。
■地元政界を驚かせた金権夫婦の現ナマ作戦
「河井夫婦のカネの使いっぷりは凄まじかった。広島県内全戸にチラシを何度も郵送して、電話作戦も展開。それだけで1億円はかかっているはずだ。それだけでは足りず、県議などに現ナマーー。どこにそんなカネがあるんだと選挙中も話題だった」(自民党の広島県議)
ある時は、統一地方選の最中に市議の事務所に出向き「とっておいてください。邪魔にならんから」と現金を投げつけるように現金を置く克行容疑者。案里容疑者は、会食に県議を呼び出し、飲食を提供した上で「これで、なんとか」と白い封筒を差し出したという。
カネに糸目をつけず、配りまくったということで、前出の広島県議も呆れ顔だ。
「あれだけ派手にやれば、逮捕も仕方ない。もらった県議、市議、町長らも悪いが、もとは河井夫婦が配るからこんなことになる。広島の評判をこれだけ貶めて議員辞職もしないし、とんでもない夫婦だ」
■早くも「後継」巡る動き
そうした中、河井夫婦の逮捕で空席となることが確実視される衆院広島3区と参院広島選挙区の、“後継”を巡る動きが顕在化しそうだ。
案里容疑者は、現職の公設秘書が公職選挙法違反で有罪判決を受け、確定すれば連座制適用で逮捕がなくともバッジを失いかねない状況。克之氏ともども離党しているため、自民党は衆議院広島3区と参院広島で候補者を擁立しなければならない。地元では、早くも次の選挙に向けた水面下の駆け引きが始まっているという。
比例区も含めて7回の当選を重ねてきた克之氏だが、もともと選挙には強くないとされ、地元の評判も芳しくなかった。スキャンダル後の選挙となれば、自民党は苦しい戦いとなる。
そこで、有力視されるのが、次期総理候補といわれる岸田文雄政調会長(衆院広島1区)と姻戚関係にある渡辺典子という県会議員。もともと、案里容疑者と親しい仲で、昨年7月の参院選では河井陣営にウグイス嬢を紹介し、それが公職選挙法違反事件の発端となった。
自民党のある広島市議は、こう解説する。
「渡辺県議の地元は克行容疑者と同じだ。ウグイス嬢を紹介して検察の取り調べを受けたことで、自身が記者会見までして、県議としては先輩になる案里容疑者に『説明すべき』と詰め寄ったほど度胸がある。学生時代はモデルで抜群の美貌。彼女くらいしかスキャンダルを跳ね返せない」
一方、案里容疑者が去ることになる参院広島選挙区には、自民党が2議席を狙った昨年の参院選で落選した溝手顕正前参院議員などの名前が上がる状況だ。
参院選で当選したのは案里容疑者と野党・国民民主党の森本真治参院議員。野党側は次の選挙での同士討ちを避けるため、候補者を立てない可能性が高い。前出の広島県議は「要するに、自民党が誰か候補者を出せば、当選は間違いない。真っ先に名前があがるのは溝手さん。そして湯崎英彦知事だろう。知事は3期目でもう長くはやれないし、本人もまんざらではない」と話す。その上で、こう続ける「総理を狙う岸田氏は、自ら河合夫婦の後継者をキチンと擁立しなければメンツが立たない。そこで岸田氏の地元である広島市の東区から選出されている緒方直之県議が出馬するのではないかともみられている。新型コロナウイルスの経済対策で大失態の岸田氏だけに、渡辺氏と緒方氏で2つとも議席をとれば名誉挽回につながる」
永田町では岸田氏の動きに注目が集まるが、「岸田氏に広島の次はどうするのと聞いても、はぁ、まぁ、とかそんな返事ばかりだ。敵を作らないことを信条とする岸田氏、絶好のチャンスに何を考えているのやら」(自民党宏池会の衆院議員)
(山本吉文)