崖っぷち安倍政権が仕掛ける秋の解散総選挙

いったんは収まったかにみえた新型コロナウイルスの感染者が増加に転じ、第二波への懸念が高まる中、永田町で解散総選挙の可能性が取り沙汰され始めた。浮足立つ与野党の政治家たち。政界で囁かれる年内の衆院選はあるのか――。現状をまとめた。

■コロナで狂った政権戦略

コロナ禍がなければ、今ごろはオリンピック一色になっていたはずで、安倍は検察人事を巡るゴタゴタや再燃した森友疑惑をなかったことにするため、年内に総選挙を断行し、あわよくば自民党総裁として4選を狙う腹づもりだったはずだ。

しかし、「解散権」を持つ安倍は、現在まさに四面楚歌。やることなすこと、マイナスにしか作用していない。政権戦略を大きく狂わせたのは、目に見えない未知のウイルスだった。

今年春、政府が新型コロナウイルスの水際対策に失敗したことで、国内の感染が一気に拡大。政権が成長戦略の柱にしてきたインバウンド(海外からの旅行)は消滅し、国民の国内での移動さえ憚られる事態となった。

緊急事態宣言で飲食店の経営者や宿泊業者が青息吐息となるなど、あらゆる経済活動が停滞。アベノミクスはいつのまにか吹っ飛び、日本全体が失速しつつある。

日本中が期待していた東京オリンピック・パラリンピックもコロナで延期。政府や五輪関係者は来年の開催を目指しているが、ワクチンや特効薬の開発には時間がかかる模様で、「中止」が懸念される状況だ。

安倍が外交上のレガシーにしたいと考えてきた習近平国家主席の訪日も、コロナで頓挫。形の上では「延期」となっていたが、中国が「弾圧」を正当化する香港国家安全維持法を成立させたため、習氏を国賓として招くことは難しくなっている。

■トランプ退場で孤立する安倍

こうした中、11月3日に予定されるアメリカの大統領選挙では、安倍が盲従してきたトランプ氏の敗北が必至とみられており、後ろ盾がなくなる。米国に言われるまま購入を決めたイージスアシュアも整備断念に追い込まれており、与党内からは米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設工事にも疑問の声が上がり始めた。

軟弱地盤の存在が明らかになった辺野古沖の埋め立ては、政府計画の9,000億円では済まず、2兆円以上かかるという沖縄県の試算が出る始末。10年といわれる工期についても疑問符が付いており、「その頃は基地の必要性がなくなる」という見方が説得力を持つようになっている。

本土内のイージスアシュアは地元自治体の反対であっさり引っ込めるが、沖縄の基地は県民投票の結果がノーでも強引に建設を進めるというのが安倍政権の基本姿勢。国民よりも米国、安心・安全よりも戦争準備が優先――そうした安倍の考え方に、ようやく有権者が危うさを感じ取るようになっている。

無理を重ねて付き合ってきた狂犬トランプが退場した瞬間、安倍は世界でも日本でも孤立感を深めることになりそうだ。

■検察人事、森友疑惑、側近の買収事件で支持率急落

中国で発生した新型コロナが世界中に広がりつつあった今年1月、政権は唐突に黒川弘務東京高検検事長(当時)の定年延長を閣議決定する。国会で63歳定年を規定した検察官法に反するとして追及されると、国家公務員法の定年延長特例を持ち出すなど迷走したあげく、5月には当の黒川氏が賭けマージャンで辞職に追い込まれるという大失態を演じる。

この間、検察が立件を見送った学校法人「森友学園」の問題が、同学園への国有地払い下げに絡んで自殺した財務省近畿財務局職員・赤木俊夫さんが遺した手記やメモ書きが公表さたことで再燃。今月15日には、赤木さんの妻が国と佐川宣寿元財務省理財局長を相手に損害賠償を求めた裁判の第一回弁論が大阪地裁で開かれており、今度の展開次第で安倍が窮地に陥る可能性もある。

政権の要である菅義偉官房長官の足もとも揺らいでいる。昨年11月、公設秘書が地元の有権者に香典を渡したとして、菅氏の側近とされる菅原一秀衆院議員に公職選挙法違反(買収)の疑いが浮上。菅原氏は経済産業大臣を辞任した。

その数日後、やはり菅氏の側近として知られる河井克之法相(当時)の妻・案里氏の参院選におけるウグイス嬢買収が発覚。克之氏が法相を辞めたものの事件は収束せず、3,000万円ともいわれる巨額買収事件に発展した。克之・案里両人がそろって検察に逮捕・起訴され、被告人となったのは周知のとおりだ。

河井陣営には、自民党から他候補の10倍となる1億5千万円もの政治資金が提供されており、そのカネが買収原資になったことが証明されれば、安倍政権は退陣せざるを得なくなる。

■10月解散の理由

まさに内憂外患。一連の流れの中で内閣支持率も急落しており、「こんな時に解散総選挙など無理」と考えるのが普通の政治家というものだが、安倍や麻生太郎は「非常識」が背広を着て歩いているようなもの。自分の生き残りのためなら、なんでもやるはずだ。

解散に打って出るとすれば、トランプの大統領選敗北が決まる前の10月に解散し、どさくさ紛れの時期に投開票を迎える――つまり今年の秋しかない。

秋しかない、という理由がもう一つ。国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は、海外メディアとのインタビューの中で「2021年の開催が無理になった場合には東京オリンピックを中止とする」と発言。さらに、ジョン・コーツIOC調整委員長は「2021年に開催できるかどうかを評価する時期は10月ごろ」と踏み込んでいる。

森喜朗東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長は、「中止」か否かの判断をする時期を来年3月まで延ばすように要請しているというが、五輪中止が10月までに決まれば、安倍政権の命脈は尽きる。IOCの方針が見える前といえば今年の秋、しかも10月の早い時期に解散するしかない。

コロナの感染拡大が続く中、事実上の追い込まれ解散に踏み切るのかどうか――。与野党の緊張は、確実に高まっている。

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