腐敗組織・鹿児島県警が向き合うべき『警察刷新に関する緊急提言』|警察OB「改革の精神を忘れるな!」   

九州在住の元警察幹部からメールが送られてきた。数々の不祥事と隠ぺい疑惑に揺れる鹿児島県警の警察官に、「警察改革の精神を忘れるな」――そう伝えてほしいという。

幹部OBがいう「警察改革の精神」とは、全国で続発していた警察不祥事を受け、2000年に国家公安委員会によって設置された「警察刷新会議」が公表した『警察刷新に関する緊急提言』に記された内容を指す。改めて、国家公安員会のホームページに掲載されている緊急提言を読んで驚いた。24年以上も前に国内で起きたほとんどの警察不祥事が、そのまま鹿児島県警の隠ぺいや不当捜査、幹部の暴走に重なる。

■警察刷新会議とは

1999年頃から2000年にかけ、埼玉、栃木、新潟、神奈川など各地で警察不祥事が相次いだ。警察に対する社会的信用の失墜を重くみた国家公安委員会は2000年3月、民間の有志者ら6人で構成する警察刷新会議を設置。刷新会議は2000年7月までに11回の会議を開き、同月、不祥事の原因と警察改革の方向性を示した「警察刷新に関する緊急提言」を公表していた。

有識者会議のメンバーは、日本テレビ放送網の社長だった氏家斉一郎を座長に、樋口広太郎・アサヒビール名誉会長(当時)、ジャーナリストの大宅映子氏、弁護士の中坊公平氏、大森政輔・元内閣法制局長長官の5人が委員。警察官僚出身の後藤田正晴元副総理を顧問に据えるという強力な布陣だった。

■提言の《はじめに》に合致する鹿児島県警の諸問題

警察幹部OBが「まず読むべきだ」と指摘するのは、緊急提言の《はじめに》と《終わりに(結びにかえて)》。以下、まず《はじめに》の全文を掲載する。ぜひ、赤い太字部分を「鹿児島県警の事件」と置き換えてお読みいただきたい。

はじめに

この刷新会議は、相次ぐ警察不祥事に対する国民の怒りと警察のあるべき姿へ立ち返ってほしいという願いを受けて、二度の公聴会をはじめ、国家公安委員の方々からの意見聴取、ホームページに寄せられた意見など多くの方々の意見を聞きながら、警察当局からの現状報告を受けて、平成12年3月23日より11回にわたる討議を重ねてきた。

私たちは、警察がこれほどの国民の批判、不信感を受けるに至ったことを深く憂慮して、その原因はどこにあるのかを討議し、それを防ぐ方策はないかを考えてきた。

警察官による多くの職務関連犯罪の発生とその隠ぺいが行われた神奈川県警事件、特別監察に際しての遊興や関係者に対する処分の在り方などが批判された新潟県警事件、国民の切実な要望に誠実に対応しなかったため重大な結果を惹起した埼玉県桶川事件や栃木県石橋事件等々。これら一連の警察不祥事の原因や背景として、警察組織の秘密性・閉鎖性、無謬性へのこだわり、キャリアのおごり、第一線現場の規律の緩みや怠慢などいろいろなことが指摘されている。

私たちも、警察活動の詳細については、詳しい知識を持つ立場ではないが、市民の目線で、現場の第一線で警察活動に従事する警察官の苦労や心情にも配意しながら、警察の抱える問題点を討議してきた。短期間の限られた討議だったために、すべての問題が解明されたとはいえないが、私たちは、次のような観点で、緊急提言をまとめ、国家公安委員会に提言する。

第一に、この提言は、対症療法にとどまらず、構造的な問題点を究明し、苦情処理制度など新たな制度を新設するとともに、法改正を必要とする警察の刷新を内容とするものでなければならない。

第二に、目下の事態は深刻であり、一刻も早く処方箋を提言し、緊急に実行に移されなければならない。

第三に、前述のような事件がなぜ起きたのか、どうすれば防ぐことができたのかと関連させながら、具体的な提案をしていかなければならない。

1999年に表面化した神奈川県警事件では、同県警の本部長が現職警部補の覚せい剤事件を握りつぶす形で隠ぺいしたことが発覚。本部長ら幹部が犯人隠匿の疑いなどで逮捕・起訴され、有罪判決を受けた。

新潟県警事件では、少女が1990年から9年以上も監禁されていた事件における県警の不適切対応が社会問題化。2000年1月の少女発見時に、特別監察実施後の関東管区警察局長が、新潟県警本部長から接待麻雀を受けていたことも露見し、二人は責任をとる形で辞職している。

《はじめに》にある一連の《警察官による多くの職務関連事件とその隠ぺい》は、まさに鹿児島の現職警官が起こした2件のストーカー事件と盗撮事件、さらには13歳未満の少女に対する強制性交事件で明らかになったケースに一致する。いずれの事件も、県警がもみ消しや証拠隠滅を行い、野川明輝本部長の指示で隠ぺいが図られたとみられている。

ストーカー規制法制定のきっかけとなった1999年の桶川事件(桶川ストーカー事件)では、埼玉県警が殺害された女性側の「告訴」をなかったことにするため、告訴状そのものを捏造するという犯罪行為を実行。殺人事件発生直後には、事件を矮小化するため、被害女性側にも問題があったかのような発表まで行って被害者と被害者の家族の名誉を貶めた。

やはり1999年に起きた栃木リンチ殺人事件という名称で知られる石橋事件では、息子である少年が受けている監禁・暴行などの実態を示して捜査を懇願した親の訴えを栃木県警が拒絶。少年は殺害される。ところが、桶川のケース同様、栃木県警も亡くなった少年を暴走族仲間であったかのように発表したため報道もこれに同調、遺族に理不尽な二次被害を与えていた。

一方、2021年に起きた鹿児島県医師会の男性職員による強制性交事件では、加害者とされる男性職員の父親が捜査を担当した鹿児島中央署に在籍していた警部補だったことが分かっている。それが告訴状提出に出向いた被害女性の門前払いと、あってはならない不当捜査につながった可能性が高い。結果は「不起訴」。被害者側の訴えをもみ消そうとした桶川事件、石橋事件と同じことが、24年後の鹿児島で起きたということだ。

また、被害申告を受けながら、苦情相談等事案処理票や防犯カメラ映像といった具体的な証拠を隠滅した霧島署員によるストーカー事件の構図も、桶川・石橋の両事件に通底する。

こうしてみると、《警察不祥事の原因や背景》として提言が指摘した《警察組織の秘密性・閉鎖性、無謬性へのこだわり、キャリアのおごり、第一線現場の規律の緩みや怠慢》のすべてが、現在の鹿児島県警に当てはまる。《警察組織の秘密性・閉鎖性》によって闇に葬られるところだった警官の性犯罪、間違いは絶対に起こせないという硬直思考(無謬性)が招来した隠ぺいの数々、捜査の現場を知らない東大出身キャリア本部長のおごり、続発する警官の犯罪――。いずれも、2000年当時に指摘された原因、背景に恐ろしいほど一致している。緊急提言の《はじめに》は、まるで今日の事態を予測していたかのようだ。

「警察刷新に関する緊急提言」が出されて24年。鹿児島県警は、当時起きた数々の警察腐敗とまったく同じ過ちを繰り返したことになる。では、提言の《終わりに(結びにかえて)》には、どいうことが述べられていたのか? (9月4日の配信記事につづく)

<中願寺純則>

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