現職の自衛官が職場のパワーハラスメントを追及している裁判で9月上旬、提訴後6回目となる口頭弁論が札幌で開かれた。被告の国に疑われる公益通報者への不利益な人事評価について、国側が関係記録の開示を頑なに拒み続けている姿勢があきらかとなり、原告側が法廷でその対応を厳しく批判した。訴えを起こした自衛官(50歳代男性:下の画像)は弁論後の報告集会で改めて裁判に込めた思いを語り、女性隊員への理不尽なパワハラの実態などを明かしながら「通報者への報復行為はまさに卑劣」「自衛隊は防衛上の秘密でもない書類の提出を拒まないで欲しい」と話した。

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本サイト既報の通り、裁判は昨年6月に提起され、同9月に札幌地方裁判所(吉川昌寛裁判長)で口頭弁論が始まった。職場のパワハラの実態を内部の窓口に通報した原告男性は、通報行為を「テロ行為」扱いされるなどの不利益な取り扱いを受け、そうした対応を不服として現職のまま訴えを起こした。提訴前にパワハラ隠蔽の姿勢を見せていた自衛隊は提訴を機に態度を一変、原告男性の被害の多くを認める主張に転じ、一方で損害賠償の金額などについて争う姿勢を見せることになった。

初弁論からほぼ丸1年が過ぎる本年9月10日、6回目の口頭弁論では国の新たな主張があきらかとなり、原告代理人らがこれを強く批判する一幕があった。被告の国は、原告男性がパワハラ告発を機に不利益な人事評価を受けることになった事実を否定し、原告側が求める人事関係の資料の開示を拒む姿勢を示した。書面では、次のような言い回しで原告の主張に反論している。
《そもそも原告は、原告が人事評価上の不利益を負っている旨主張するが、原告の勤務内容、業績に対し適当な評価がなされていないという具体的な事実を何ら主張していない》
これに法廷で異を唱えたのは、原告代理人の橋本祐樹弁護士(札幌弁護士会)。国の言う「具体的な主張」は、充分な情報が揃って初めて可能となること。だがその国は、原告の求める人事評価の資料を裁判で充分に開示せず、かろうじて証拠提出してきた文書にはべったり墨塗り処理を施して典型的な「のり弁当」状態にしていた。つまり国は事実上原告側の立証活動を妨害しており、そのため原告側が「具体的な事実」を示すことができなくなっているにもかかわらず、具体的な事実を示せと嘯いているのだ。
「知らないことを主張しろと言われてもどうしようもない。原告としては調査嘱託の申し立てをせざるを得ません」(橋本弁護士)
調査嘱託とは、裁判所が関係機関に事実調査や報告を求める手続き。原告はこの調査嘱託の実施を裁判所に求め、自衛隊側が「のり」で隠した情報の適切な開示を求めていくこ考えだ。
現職の立場で組織のハラスメント問題を追及し続けている原告男性は、弁論終了後の報告集会で改めて当時のパワハラについて「総務科長が女性隊員に『ハウス』と犬に使う言葉をかけて人格を否定していた」などの具体的事実を証言。それらのパワハラを告発する投書に対して幹部職員が「筆跡鑑定や指紋鑑定で通報者を特定しろ」と“犯人捜し”を指示していた事実なども明かし、当時の職場を「卑劣極まりない組織」と厳しく批判した。裁判で不適切な人事評価を隠蔽する国の対応については次のように指摘し、併せて組織のあり方にも率直な思いを述べている。
「防衛省・自衛隊は、虚偽を記載した人事資料の提出を頑なに拒んでいます。防衛上の秘密でもない書類を、裁判をなるべく有利にするためだけに提出を拒むのはやめていただきたい。一部の部隊ならまだしも、防衛省・自衛隊(の全体)までもが卑劣な組織ならば、今まじめに勤務している自衛隊員はどのように思うでしょうか」
裁判はすでに証人尋問を見据えたやり取りに差しかかっているところで、年度内にも結審・判決言い渡しに到る可能性が高い。
(小笠原淳)
| 【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |















