「解散総選挙の目玉が非公認とは、情けないを通り越し言葉がない」と沈痛な表情で話すのは自民党の大臣経験者。石破茂首相は、解散総選挙にあたり裏金議員12人の「非公認」を決定。安倍派5人衆と呼ばれて権勢を誇った萩生田光一氏もその中に含まれていた。
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萩生田氏は、安倍晋三元首相の長期政権で文科大臣、経産大臣、政調会長などを歴任。しかし、今年1月に東京地検特捜部の捜査や自民党の調査の結果、5年間で2,728万円もの巨額な裏金が発覚した。萩生田氏の“側近”とされていた元衆議院議員の池田佳隆被告は、4,800万円もの裏金があったとして政治資金規正法違反で逮捕、起訴されている。池田氏の場合、裏金の詳細が記録されているパソコンをドライバーなどで破壊し、証拠隠滅を図るという暴挙に走っていた。
その後、池田被告は自民党を除名となったが、萩生田氏は党役職停止1年間という“大甘”な処分で、さらなる批判を浴びていた。
萩生田氏の地元は東京24区、八王子市だ。「なぜ萩生田氏が衆院選に出馬しているのかさえ、党内では不思議に思われている。地元では悪評しかない。地元の役に立っているとは思えないし、裏金に旧統一協会問題でしょう、カネと票に貪欲であることがよくわかります。萩生田氏は、八王子の悪いイメージを全国にばらまいている。落選経験があるので、決して選挙に強いとはいえない。非公認となれば落選の可能性さえある」(八王子市の自民党市議)
今年1月に実施された八王子市長選は、自民党と公明党が推薦した初宿和夫市長が、立憲民主党や共産党が推した滝田泰彦氏との戦いを制して初当選。だが、初宿氏の6万3千票あまりに対して、滝田氏は5万7千票。前出の自民党市議は、今回の衆院選について厳しい見方をする。
「市長選の時は萩生田さんの裏金が浮上していた時期でもあり、とても風当りが強かった。『ここで負けたら、俺も立場もやばい』と萩生田さん本人が言っているのを私は直接聞きました。そのせいか、元総理の菅(義偉)さんなど大物を続々と応援に投入。最後は小池百合子知事までが八王子市入りしてなんとか勝った。ですが、今は萩生田氏の悪行がさらに顕著になっている。市長選の時以上に、野党系の候補との差は詰まっている」
市長選後の会見で、「自分がブレーキになってしまった」、「政治資金のことでご迷惑をかけたことが一因だ」などと謝罪した萩生田氏だったが、反省がないことは明らかだ。先月の自民党総裁選を取材していたハンターの記者は、ある旧安倍派の国会議員が録音していた――「俺が安倍派を束ねるから任せてくれ」――という萩生田氏の発言を聞かされている。
萩生田氏が推したのは高市早苗氏。「高市氏に票を集めろ、そうすれば解散総選挙は先送り。裏金関連の追及も軽くおさまると萩生田さんは言っていた。それって国民や自民党のためではなく、裏金で処分されている自分のためでしょう。萩生田さんのあまりに酷い対応に頭に来たので、高市さんに入れるふりをして決選投票で石破さんに入れたという議員が何人もいます」(旧安部派の議員)
それでも萩生田氏は、まったく空気が読めていない。非公認が決まってから出演したインターネット番組で「私は(裏金を)やめようと安倍元総理が言った時は幹部でもなんでもなかった。安倍元総理がお亡くなりになって、安倍派をどうしようという時に5人衆と呼ばれる幹部になった。だから(裏金のことを)知らない」、「安倍派の会長をやればと言われたこともある。しかし、事務総長をやっていないからノルマを決めたこともない。こういうとまた反省がないと言われてしまう」などと保身を図った。
それに続いて発したのは愚痴。「(高市氏の)推薦人に安倍派議員が名前を連ねることが良くないというのがよく分からない。(総裁選の1回目投票では)党員票で高市氏がトップだったので党員が認めている(ということ)」、「挙党一致を考えるなら(高市氏に)幹事長をお願いするべきだった」、「(石破首相は)総裁選で応援した人や、数少ないお友達にポジションを与えている」――安倍元首相の時は「お友達内閣」と呼ばれ、その一人が萩生田氏だったのを忘れたかのような発言だった。
萩生田氏の主張は、政治資金収支報告書をみればよくわかる。萩生田氏の政党支部「自由民主党東京都第二十四選挙区支部」が東京都選挙管理委員会に提出した2021年分の政治資金収支報告書の表紙。まだ裏金事件が明らかになっていない2022年4月を皮切りに2024年6月まで、9回も「訂正」という押印がある(*下の画像)。
おまけに、裏金を得ていた期間にかかるためか、最初に記載していた2億3千万円あまり「収入総額」は、訂正の後に「不明」とされている(*下の画像)。
収支に間違いないことを証明する「宣誓書」には、2024年2月2日付で《収支の一部に記載項目が不明なものがありますが、判明次第訂正します》(*下の画像)という手書き記載があるが、それから半年以上も経過した現在も訂正されず、正確な収入総額がわからないままとなっている。
政治資金には税金がかからないという「特権」がある。しかし、萩生田氏は2億3千万円以上も政治資金を集めておきながら「不明」と手書きするだけで、税金から逃れているのだ。
東京24区からは、立憲民主党から元参議院議員の有田芳生氏、日本維新の会から佐藤由美氏、国民民主党から浦川祐輔氏が立候補した。萩生田氏は非公認の上、公明党の推薦も得られないという厳しい状況だ。
「自民党の中からも、萩生田批判は山のように聞かれます。しかし擁護する声はごく少数。非公認なので自民党員であっても私たちに彼を応援する義務はない。気楽ですね。野党候補が乱立しているのでどうなるか分かりませんが、萩生田さん、大丈夫ですかね」(前出の自民党市議)