“判決要旨交付” ― 裁判所が「記者クラブ限定」を解除?|最高裁通達で判明

各地の裁判所がいわゆる記者クラブ加盟メディアに提供している「判決要旨文」について、最高裁判所が7年前の通達で提供対象者をクラブ非加盟者にも拡大していたことがわかった。フリージャーナリストの寺澤有さんが最高裁への開示請求で入手した文書により判明したもので、情報を得た筆者は同通達を根拠に札幌の裁判所へ判決文や記者席などの提供を申請した。同申請を受理した裁判所の判断は、遠からず伝えられることになっている。

◆   ◆   ◆

通達『報道機関への判決要旨等の交付について』は、2017年7月25日付で最高裁が各地の裁判所へ発出していたもの。少し長くなるが、本文中の一節を以下に引用する。

《判決要旨等を交付する目的が、裁判結果等の内容を報道機関へ周知し、正確に報道してもらうためのものであることからすると、司法記者クラブ(所属の報道機関)からの依頼に基づいて作成された判決要旨等については、当該司法記者クラブ(所属の報道機関)のみならず広く上記の目的にかなう報道機関にも交付して差し支えない》

通達を掘り起こしたジャーナリストの寺澤有さんは本年5月、「最高裁が保有する記者クラブに関連する全文書」を最高裁に開示請求したところだった。請求を受けた最高裁は9月末までに当該文書計120枚の一部開示を決定、寺澤さんは10月7日にそれらの写し(コピー)の交付を受けた。その中で最も興味深かった文書こそ、判決要旨文の提供先の拡大を謳った先の通達だったという。寺澤さんはかつて裁判所を相手どり、判決要旨文の記者クラブ限定交付は違法だとする裁判を起こしたことがある。訴訟の経緯は寺澤さん自身の著書『裁判所が考える「報道の自由」 判例 第1次記者クラブ訴訟』に詳しいが( )、この時の裁判で実質勝訴した筈の裁判所は、フリー記者からの問題提起を意識してかせずか、その後ひっそり先のような通達を出すに到ったというわけだ。

文書開示請求の結果を知った筆者は寺澤さんから当該文書データの提供を受け、通達の全文を入手することができた。それによると、同通達で裁判所が定義する「報道機関」は必ずしもクラブと無縁のフリー記者全般を指すのではなく、クラブメディアに準ずる媒体(日本新聞協会加盟紙など)への寄稿の実績がある記者などに限られるという。憲法に保障された「知る権利」を尊重するなら、こうした線引きは合理的根拠のない制限として遠からず取り払われなくてはならないが、長く続いた鉄壁の制限が僅かでも緩和されたのは半歩前進といえる。さっそくこの新たな権利を享受すべく、筆者は地元裁判所への申請を試みた。

週が明けた10月15日、札幌在住の筆者は地元の札幌高等裁判所を訪問、同じ週の18日午後に判決言い渡しが予定されている猟銃所持許可訴訟控訴審(小河原寧裁判長)の「判決文交付」を求め(同事件では「要旨」ではなく「判決文」の写しが記者クラブに交付されるため)、併せてやはりクラブ各社のみに認められていた「記者席使用」及び「開廷前撮影」の許可を申請した。報道関係者であることを裏づける資料としては、日本雑誌協会に加盟する文藝春秋のメディア「文春オンライン」への過去の寄稿と、日本新聞協会加盟の共同通信の依頼で執筆した原稿、計2本の記事の出力紙を提出した。対応した札幌高裁総務課広報係の担当者によると、これらの申請には決まった書式の申請書がないという。そのため申請は職員に対して口頭で行ない、その場で受理されることになった。

これまで各地の裁判所が記者クラブ非加盟者への判決要旨文交付や記者席提供などを認めたケースがあるかどうかは確認できていないが、先の寺澤さんの訴訟が原告実質敗訴に終わっていることから、現時点でいずれも実績はないものと考えられる。今回の札幌高裁への申請が認められれば、フリー記者の権利拡大の重要な前例となるのはほぼ確実だ。

裁判所の判断は、10月18日までに電話で伝えられることになっている。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

 

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