裁判官次々交代|鹿児島・強制性交損賠訴訟「でっち上げ判決」の裏

裁判官がコロコロ変わる訴訟の判決を信用できるか――?少しでも裁判に関わったことのある人なら、おそらく答えは「NO」だろう。テレビドラマでもありそうにない無責任な裁判が、実際に鹿児島で行われた。

2021年秋に起きた鹿児島県医師会の男性職員(2022年10月に退職)による強制性交事件の被害女性が損害賠償を求めた民事訴訟。今年7月に鹿児島地裁民事第2部(前原栄智裁判長)が下した結論は“請求棄却”だった。

この判決は、男性被告側の主張にまったくなかったストーリーを裁判所がでっち上げるという前代未聞の内容。改めて調べたところ、裁判の進行も、司法関係者が「聞いたことがない」と驚くほど酷い経過をたどっていた。
(既報⇒“強制性交事件の民事訴訟で仰天判決|鹿児島地裁がストーリーでっち上げて被告擁護”)

■コロコロ代わった裁判官

鹿児島地裁は、23年の提訴から1年も経って、理由も示さず事件の扱いを民事1部から民事2部に移管。担当していた女性の木上寛子裁判長を同地裁に在籍させたまま、別の男性裁判長・前原栄智氏に代えていた。異動に伴う裁判官の交代ではないという点、不可解と言うしかない。

おかしな動きはその後も続き、担当裁判官が次々に代わるという異常な展開となる。25年に前原裁判長のもと、3人の裁判官で構成される合議体での審理となったが、同年4月に右陪席だった多田真央裁判官は和田義光裁判官に交代。この段階で「強制性交」だとして女性が被害を訴えている訴訟の担当から、女性裁判官がいなくなっていた。

極めつけは、判決に最も深くかかわっていたとみられる左陪席の赤坂誠吾裁判官を、最終弁論終結後という25年5月の時点で鹿児島簡易裁判所に異動させるという無責任な人事だった。この裁判における裁判官の変更状況を以下の表に示す。

前述の通り、2024年6月に担当が民事1部から民事2部に移されたが、当時は原告、被告双方から出された主張の整理中という重い意味を持つ時期。しかし、地裁は突然の担当部変更について説明を一切行っていなかった。当初の担当だった民事1部の木上裁判長は「いずれ合議になる」と話していたといい、それなら2部に移した段階で合議にすべきだが、2部の前原裁判官は当初単独で訴訟を担当し、1年も経過した25年1月になって合議に変更するというおかしな動きだった。

■どこへ行った?左陪席

最大の問題は、一般的に判決を書くとされる左陪席の赤坂裁判官が、最終弁論終結後にこの裁判から外れたことだ。

左陪席として深く判決文に関わったとみられる赤坂裁判官は、22年5月に鹿児島地裁の判事補に着任、昨年4月からは鹿児島家庭裁判所の判事補を兼任していたことが分かっている。官報の記載によれば、その赤坂裁判官は口頭弁論終結後の今年5月、鹿児島簡易裁判所の判事に補されていた(*下の官報参照。赤い囲みはハンター編集部)。

そのため、判決文末尾に記される裁判官の署名部分は、極めて不自然なものになっている。合議となっていたこの裁判の場合、判決文に残されるべきは3人の裁判官の署名。しかし、実際に署名押印したのは前原裁判長と和田裁判官の二人だけで、赤坂裁判官は署名していない。その理由として「差支えにより署名押印できない」と記されていた(*下の画像。赤いアンダーラインはハンター編集部)。

問題があって判決に署名押印できない場合は、理由を付して他の裁判官が代わって署名押印するのがルールだという。だが法曹界独自のルールになじみのない一般人から見ると、「差支え」が具体的な理由とは到底思えない。個人情報との兼ね合いがあるにせよ、それこそ「差支え」のない程度の情報開示は必要だろう。

結局、今年7月30日の判決当日、左陪席として法壇上にいた小泉直樹裁判官は判決文作成にかかわっておらず、ただ座っていただけ。赤坂裁判官が判決を前にいなくなったことで、判決の妥当性に疑問符が付く状況となっている。

問題の裁判は3人の裁判官による合議。一人の女性の人生がかかった裁判で、判決前に重要な立場の裁判官が消えるという理不尽な対応に司法の闇を見る思いだ。

ところで、こうした不可解な経緯を経て下された判決には、福岡高裁宮崎支部で行われる控訴審の判断に影響を及ぼすと思われる重大な瑕疵があることが分かっている。詳細は次の配信記事で。

(中願寺純則)

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