「政治とカネ」棚に上げた維新が連立協議入り|民意より副首都構想を優先
15日、自民党の高市早苗総裁が日本維新の会代表の吉村洋文大阪府知事と会談。会談を終えた吉村知事は「高市新総裁から連立を含めた打診、首班指名を含めた協力への打診があった。それに向けた政策協議をこれから開始するということを我々の方から申し上げた」とした上で、高市氏から「日本を前に進めるため一緒にやりましょう」と言われたことを明かした。公明党の連立離脱で政局が揺れる中、自民と維新による連立が現実味を帯びる展開となった。
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10月21日に開かれる見通しとなっている臨時国会における首相指名選挙の対応について聞かれた吉村氏は、「政策協議の合意がきちんとまとまれば、そういう(高市氏の名前を書く)ことになると思います」と明言。高市氏も会見で「基本政策、ほぼ一致はしていると思います。政策についてきちっと協議をする」と話し、両党の連立入り交渉が実質的にはまとまっているとの印象を与えた。
急展開となった連立協議入りを受けて、ある維新の衆議院議員氏はこう話す。
「吉村知事がわざわざ東京まで日帰りでやってきて高市氏との交渉に臨むという時点で、連立入りは決まったも同然。ただ最初から維新が前のめりで連立に加わるという印象は避けたい。それで吉村知事は慎重に言葉を選んでしゃべっていたと思います。ただ一部の幹部は与党になるのが嬉しくてたまらな様子です」
同日、高市氏との会談前にあった野党協議では、藤田文武共同代表だけが参加していることからも、維新が連立入りにかける“本気度”がうかがえる。今後、政策協議で閣内か閣外協力か、大臣ポストを要求するのかなど具体的な詰めに進む模様だ。
公明党が連立解消を決断したのは、旧安倍派などによる裏金事件に象徴される「政治とカネ」の問題に対する自民党の対応に不信感を抱いたためだった。公明党は企業団体献金の受け皿を党本部と都道府県連などに制限するよう求めたが、これは国会の場で野党の立憲民主党や国民民主党も巻き込み、訴えてきたことだった。それでも応じなかった自民党――。高市氏は裏金議員について「選挙で選ばれており、解決済み」として大物裏金議員の萩生田光一氏を幹事長代行に充てるほど、公明党とはもちろん世論とも大きくズレた人事を行っていた。
連立協議に入ることを宣言した維新が昨年の衆議院選挙で掲げたのは《政治腐敗の根本原因であり、裏金問題の原資となった企業団体献金は政党支部も含め全面的に禁止・制限する法整備を進めます。全面禁止の成立以前においても、所属議員は企業団体献金を受け取らない政治姿勢を堅持します》と公明党の「制限」より格段に厳しいもの。それが、裏金議員の容認どころか要職起用まで推し進める高市自民党と手を組むというのだから言行不一致も甚だしい。
立憲民主党の幹部は「こうなるとは思っていたが、うちと国民民主党、維新のトップ会談が終わった直後に“連立入り宣言”というのはさすがにどうなんだろうね」と呆れ顔だ。
一方、土壇場で総理の座を死守できそうになった自民党の大臣経験者は、安堵の表情で次のように解説する。
「国民民主党は、連立入りによって支持率が落ちると考え、ギリギリまで回答してこないだろうと思っていた。水面下で維新と交渉し、吉村知事を引っ張り出せたのでもう大枠では決まり。昔、自民党は社民党と連立をやり、村山富市さんを首相に担いだ。平和と福祉重視の公明党とも26年間やってきた。政権維持、つまり与党の座を守ることが第一で、政策が違っても構わない。理屈は後からついてくるもんだ。どうにでもなるという思考が根本にある。松井一郎元代表をはじめ維新の創設メンバーの中心は自民党の地方議員。政策協議に多少の困難があっても、公明党や社民党と比べたら楽なもんだ。高市は『私は総理になれない女』と自虐的なことで笑わせていたが、維新との連立がまとまる目途がついてよかった」
しかし、自民党の衆議院議席は195、維新は35で合計230議席にしかならない。衆院の定数は465議席で過半数は233議席。自民と維新だけでは過半数には届かないということだ。維新は10月に入って1人が離党、もうひとりが次期衆議院選挙で維新ではなく無所属で出馬することを表明しており、実質的には33議席とみられる。すると、5議席程度足りなくなる計算だ。
吉村知事は高市総裁との会談で、維新の看板政策「副首都構想」を持ち出した。高市氏も「両党で協議体を作ってしっかりやる。来年の通常国会で成立を目指したい」と答えたという。前出の維新議員が懸念を口にする。
「高市総裁が副首都構想を受け入れてくれたので、看板政策が実現する可能性が出てきた。副首都構想は維新の本拠地、大阪や近畿では評価され支持率アップにつながる。ただ、それ以外の地域では支持率アップにはつながらない。維新は、今まで以上に大阪や近畿だけのローカル政党にシフトしていくことになる。関西以外の議員は、維新にいるメリットはなくなるので、離党ドミノが起こる可能性さえある」
自民党は維新だけでなく、国民民主党や無所属にも働きかけを強めており、前出の大臣経験者は「首班指名の1回目で過半数がとれる手ごたえもある」と自信をみせる。だが、立憲民主党の幹部は「自民党と維新という組み合わせへの反発は、他の野党にはもちろん、有権者にも広がっている」との現状認識を示す。たしかに、昨年の総選挙と今年の参院選で示された民意は「裏金の自民党にNO」。維新は民意を無視して副首都構想に走った格好だ。
立憲民主党の議席は148。国民民主党の27と公明党の24がまとまれば合計で199となる。れいわ新選組の9と共産党の8を合わせると216議席となり、自維に肉薄できる。「一寸先は闇」と言われる政治の世界にあって、高市氏が大喜びするのはまだ早い。















